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#1346 第十回は、亢龍が先日の卜翁との出来事を語るところから……

それでは今日も幸田露伴の『露団々[ツユダンダン]』を読んでいきたいと思います。

今日から「第十回」に入りますよ!それでは早速読んでいきましょう!

第十回 道ばたの木槿[モクゲ]は馬に喰[クワ]れけり
心すべきは足のつけ所、巌の下に居ぬぞ賢人

蝙蝠[コウモリ]はうろ木に棲み、佞人[ネイジン]は驕君[キョウクン]に媚びるならひとや。實[ゲ]に表[オモテ]は威勢尊厳あつて、老松[ロウショク]の輪菌磥砢[リンキンライカ]たるとも、其中[ソノウチ]は腸[ハラワタ]も骨もなく、恰[アタカ]も髄[ズイ]朽ち心[シン]滅びたる枯木[コボク]の如き人は、鳥にもあらず獣にもあらぬ蝙蝠の如き佞人[ネイジン]の好[ヨ]き棲居[スマイ]なるべし。亢龍[コウリョウ]といふ虚木[キョボク]の洞[ホラ]には、唐狛[トウハク]といふ蝙蝠すめり。其[ソノ]眼は鷲、其[ソノ]口は鴉[カラス]とも見立[ミタツ]べき怜悧[レイリ]の男、鼠のやうなあるきぶりにて、ちよろ/\と入来[イリキタ]り、御辞義[オジギ]は名物の國柄[クニガラ]だけ丁寧を盡[ツク]して、揉手[モミテ]しながら、
唐「旦那さま何を考へて居らつしやります。」
亢「斥鷃[セキアン]何ぞ大鵬[タイホウ]の志[ココロザシ]を知らんだ。」

斥鷃と大鵬は、小鳥と大鳥、小人物と大人物の対比という意味で使われます。お前のような小物に、おれのような大人物の志がわかるか、っていう感じですね。

唐「へい/\、えへゝゝ、……然し頃日[コノゴロ]は私も大分[ダイブ]人物があがつたと友達が申[モウシ]ます、是も矢張あなたの、
亢「ふゝ餘光[ヨコウ]だ。」
唐「へい/\、どうも有難い事で、……君子の徳は風の草を靡[ナビ]かすで。」
亢「うんそれなら貴様のやうな奴にも、乃公[オレ]は俗物と違つて見えるか、……君子と見えるか高士[コウシ]と見えるか、賢人と見えるか。」
唐「どう致しまして、……先日もさる所で、貴君[アナタ]から頂戴しました前漢の古器[コキ]を見せましたら、或[アル]老人が實に亢龍様と申す仁[ヒト]は物に役[エキ]せられざる聖人だ、是[コ]のやうな尊き物をも惜[オシ]み給はざるは、恬淡[テンタン]無欲の當世[トウセイ]の太上老君[タイジョウロウクン]、大聖人、大神仙だと評を致しました。」
亢「むゝ、して見れば天下皆[ミナ]盲[メクラ]でもないが、夷狄[イテキ]の奴には分[ワカ]るまい、……それにあの卜翁[ボクオウ]の云ひ草。」
唐「無名翁めが何か申しましたか。」
亢「だまつて居ろ、むゝ少しむづかしいところがあるが、事一度[コトヒトタビ]成れば、米国第一の美人に箕箒[キソウ]を執[ト]らしめ、二億の財産を得て、碧眼胡輩[ヘキガンコハイ]に鼻を明かさせ、天下の俗物に其の高きを仰がせる、……はゝ妙だな。」

なんだか、シェークスピアの作品に登場する道化みたいな人が出てきましたね。

ということで、この続きは……

また明日、近代でお会いしましょう!

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