それでは今日も坪内逍遥の『梓神子』を読んでいきたいと思います。
第一回は、恐ろしい夢にうなされている「おのれ」が、怨霊の口寄せをしてもらうため神子の家を訪れるところから始まります。六十あまりの翁に案内されて家の中に入ると、六畳の部屋の南には小庭、右には居間、左には奥座敷があります。しばらくすると、丸髷を小さく結った五十あまりの老女がやってきます。眼差しも話し方も物静かでゆるやかです。老女は、死者・生者の招魂は神のしわざで自分の通力ではない。何を口走っても自分は覚えていないと言います。そして、老女に案内されて二階へあがると、六畳一間があります。そこには祭壇がしつらえてあります。種々の供え物や樒や燈明が配置され、高足の机には細く長く切られた紙切れが一面に貼りつけられて垂れています。見ると、何月何日、何歳の誰、と書かれています。
「かいどり(掻取)」とは、着物の裾が地に引かないように、裾を引き上げることです。
「彼の巫梅ぞめの小袖かいどり座敷になほり弓打たゝく」は、室町期の作である「鴉鷺合戦物語[アロカッセンモノガタリ]」巻九の一節です。祇園林のカラスと糺[タダス]の森のサギとの合戦を擬人化した軍記もので、以下、神降しの呪文が唱えられます。
「天清浄地清浄、内外清浄、宅清浄、六根清浄と清浄し進候」のところは、同じく室町期の作とされる、『源氏物語』の「葵」をもとにした能「葵上[アオイノウエ]」にも類似の曲が登場します。
というところで、「第一回」が終了します!
さっそく「第二回」へと移りたいのですが…
それはまた明日、近代でお会いしましょう!