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#1333 第八回は、ぶんせいむがるびなと共に旅行するところから……

それでは今日も幸田露伴の『露団々[ツユダンダン]』を読んでいきたいと思います。

今日から「第八回」に入りますよ!それでは早速読んでいきましょう!

第八回 藻にすだく白魚[シラオ]や問はヾ消えぬべし
あはれ深くも沈みし思[オモイ]を、餘所[ヨソ]に見なしてもゆる不知火[シラヌイ]

昔時[ムカシ]/\の王昭君[オウショウクン]は、計らぬ匈奴[キョウド]に連添ふて、寫眞[シャシン]のなき未開の世を恨みつらむ。

王昭君(前51-前15)は、前漢時代を代表する美女で、宮中で官女として仕えます。のちに外交相手として唯一の対等国である匈奴の君主である呼韓邪単于[コカンヤゼンウ](?-前31)の妻となります。『世説新語』賢媛篇によると、官女たちは自分の似顔絵を美しく描いてもらうために、似顔絵師に賄賂を贈っていたが、王昭君はただ一人賄賂を贈らなかったため、似顔絵師は王昭君の似顔絵をわざと醜く描き、それゆえ王昭君は絶世の美女でありながら帝の目に留まることがなかったといわれています。匈奴の王が宮殿を訪れ嫁を所望した際、帝は似顔絵のなかから最も醜い女を選びますが、別れの式ではじめて王昭君の姿を目にして、その美しさに仰天し悔しがり、賄賂を得ていた似顔絵師を斬首の刑に処したといわれています。

今が今のるびなは慕ふ君子に隔[ヘダタ]りて、新聞紙のある文明の時を悲しむべし。何事も火の如きぶんせいむは、携へたる新聞を卓子[テエブル]にのせて廣告[コウコク]の處を見するを、ちゑりは差出て讀下[ヨミクダ]せば、「明朝早天[ソウテン]に北方諸州遊覧の爲[タ]め出發す、但し結婚申込人[モウシコミニン]は差支[サシツカエ]なく、ぶんせいむ家宰[カサイ]しんぷるに宛[ア]て申込むべし、ぶんせいむ」、とあれば、るびなと共に呆るゝ外[ホカ]に言葉もなし。主人[アルジ]は例の髯[ヒゲ]を撫でながら、
ぶ「るびなや、物を思ふは底のない黒き洞穴[ホラ]に入[イ]るといふ者だから實につまらない、……物を見るは限りのない青い大空の下を歩くやうで、はれ/″\と、快い者だ、……どんな婿が来るだらう、壓制[アッセイ]の老爺[オヤジ]が、人の心も知らないでなどゝ考へ込んで居るかもしれないが、それはおまへの愚だ、……可愛い娘の一生の夫を、なんで迂闊に極[キ]めてよい者か、……だから、にうよるくにある丈[ダ]ケの新聞にあの廣告[コウコク]をしたが、大分評判もやかましいから、世界中にひろまるに違ひない。さうすれば乃公[オレ]の見込[ミコミ]通り、世界中から出て来る婿の候補者を試験して、一番愉快な奴を取るのさ、……何の金もいらず、爵もいらず、學問も糸瓜[ヘチマ]もいらないのさ。人の一生は皆愉快の生活をしたいといふ計[バカ]りだから、おまへとおれとを面白く生活[クラ]させる男を見付けさへすればよいではないか。マアそれは考へずともだが、此の長[ナガ]の日には退屈するから思ひ付いた旅行、……また此處[ココ]に居れば直接におまへなぞを訪問して、甘く誤魔かして、贔屓目[ヒイキメ]の試験をたのまうと、思ふやうな奴もないとはいへないし、それもうるさいから、さあ同伴[イッショ]に出かけやうと、毛を焼く如き短兵急[タンペイキュウ]を、のがるる智慧も出[イデ]ぬまに、急[セ]きにせき立てられ終[ツイ]に翌日男女[ナンニョ]六七人を伴[トモ]として旅立ちぬ。

というところで、この続きは……

また明日、近代でお会いしましょう!

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