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#1397 第十八回は、外部と連絡をとるためにるびなが奇策を講じるところから……

それでは今日も幸田露伴の『露団々[ツユダンダン]』を読んでいきたいと思います。

今日から「第十八回」に入りますよ!それでは早速読んでいきましょう!

第十八回 ものいへば唇寒し秋の風
赤く熟せし柿も淋しく、眞個[マコト]も虚言[アダ]に見え勝[ガチ]のもの。

「ちえりいや二階で何か物音がするやうだ。」
「おやさうですね、往[イッ]て見ませう。」
と駈上[カケアガ]りしが暫くして下り来[キタ]り、
「あの此[コノ]鳩がまた帰つて来たのですよ。そして御覧なさい、此様[コンナ]物を足に付けてをります。」
「取ッておやりな……手紙のやうだね。」
「はいおや/\、みすとる、じエい、こばるとと書いてありますよ。」
「はてな……こばるとといふ名は聞[キイ]た事がないが、」
「此[コノ]鳩はるびな様の所へあげたのだが、それから外の人の物にでもなつたらうか。」
「此頃[コノゴロ]は出入[デイリ]をとめられて居るから譯[ワケ]が分[ワカ]りませんが、どうしてお嬢さまが御手離[オテバナ]しなさる事はありませんよ、多分此[コノ]手紙はお嬢様が慰[ナグサ]みに妾[ワタシ]の所へおよこしなすつたのでしやう。開けて見ましやう。」
「まてよ……さうかもしれないがそんならちえりいとかじやくそんとか書いてありさうなものだ。」
「それでもJの字はじやくそんの頭字[カシラジ]ですから。」
「なぜ封を切つたのだ。悪るい事をする。」
「ようご座んすよ。慥[タシカ]にお嬢様の洒落でせう。」
「おや/\/\是は奇體[キタイ]ですよ。」
「それ見よ間違ひだらう。」
「いゝえ、『この鳩を捕[トラ]へてこの状袋[ジョウブクロ]の封を切りし人は、ふたゝび封をなして同じ名宛[ナアテ]になし放ち給はんことを願ふ』と書いてあるばかりですよ。馬鹿々々しい。」
「どれ御見せ。」
と手にとり暫くして膝をとんと打ち、
「分つた分つた。こばるとが分つた。」
「何ですえ。」
「おれの店にもある。」
「小僧とでもいふ希臘語ですか。」
「はゝゝ同じ女でも貴様とお嬢様とは大きな違ひだ。貴様が。」
「宵の明星なら。」
「お嬢様は月だわ。」
「おほゝなんでも好[ヨ]う御座んすよ。こばるととは何ですえ。」
「鑛物[コウブツ]さ。」
「へえゝ。」
「それ見ろ。知るまいが。」
「はい/\どうも無學でござります。」
「はゝ可哀[カワ]いさうだから教へてやらう。其[ソレ]をとかした水で書くと唯[タダ]は見えないが熱に逢ふと青く出るのだ。」
「知[シッ]てますよ。『しんばせちッくいんき』(有感顔料)でせう。」
「下司の智慧、後からだ。」
と笑ふも睦[ムツマ]しく手紙をとりて暖爐[ストウブ]にかざせばあり/\と見ゆる文字

ということで、この続きは……

また明日、近代でお会いしましょう!

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