お金のこと、暮らしのこと、身近なところには疑問がいっぱい。実は会計がその答えを教えてくれる。『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?身近な疑問からはじめる会計学 - 山田真哉』【書評】
『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』タイトルだけ見ると、まるで雑学やマメ知識を紹介した本のようにも感じますが、その実、本著は会計について書かれた本。でありながら、まるで会計を意識しなくとも読み進められる本なのです。
「本当の会計入門書を作るために、会計の常識からいったん離れよう」と考え、筆者が書いたこの一冊。
本著の見出しを眺めてみれば、その意味が理解できます。
さおだけ屋はなぜ潰れないのか?―利益の出し方
ベッドタウンに高級フランス料理店の謎―連結経営
完売したのに怒られた!―機会損失と決算書
トップを逃して満足するギャンブラー―回転率
あの人はなぜいつもワリカンの支払い役になるのか?―キャッシュ・フロー
数字に弱くても「数字のセンス」があればいい―数字のセンス
(目次より)
それぞれの見出しを見て感じるのは、どれもがつい知りたくなる日常の疑問だということ。
もちろん、それらの疑問に対して、どのように会計が影響しているのかについても、しっかりと解説されています。
本書では、実社会でも役に立つ本質的な会計学を紹介していこうと思います。(中略)私がお伝えしたいのは生活にも密着した会計、いってみれば、「個人の会計」なのです。
(プロローグ どうして「会計」はむずかしいのか? より)
そう。普段の生活においても、実は会計に触れている。本著が専門用語を羅列した会計入門書と決定的に違う点は、普段の生活に焦点を当て、ひも解き、誰もが興味を持つであろうトピックをベースに語られている点なのです。
ついつい引き込まれてしまう本著。いったいどのようなことが語られているのでしょうか?
公認会計士、税理士であり作家でもある著者の山田真哉さん。会計について解説した本の多くは、その著者にとってやさしく書いたつもりでも、読者がついていっていないと感じていらっしゃいます。
確かに、各家庭で考えてみると、会社から給料をもらったり、買い物で出費したり。家計という名の会計と実は密接している反面、会計に興味を持つ人は多いとはいえないはず。また、会計について学んでみようと考える人ですら、解説書をペラペラとめくると、ハードルの高さにつまずいてしまうこともあるでしょう。
だからこそ、身近な生活の話をベースに実感するのが効果的。著者は、「会計の本質的な話になればなるほど、私たちの身近な生活の話にもつながってきます」と語られています。
例えば、『ベッドタウンに高級フランス料理店の謎―連結経営』を見てみましょう。
ベッドタウンで営業を続けるフランス料理のお店。決して、田園調布や白金台などの高級住宅地にあるわけではない。大きな道路にも面していない。だからといって安い価格で料理を提供しているわけではなく、むしろ高い価格設定の店。たまにそういったお店を見かけること、ありますよね?
家族がディナーに利用するにも高すぎる。誕生日や記念日にフランス料理を嗜むにしても、名も知れぬこのお店は選ばれないはず。安くなければ便利でもなく、評判もわからない謎のお店。
では、なぜこのお店は、営業を続けていけるのだろうか? 実際に著者が足を運んだ際も、お客はひとりもいなかったという。いったい、なぜ?
実は、このお店が「高級」なのには、ある理由が隠されていたのです。そして、「高級」でなければならない理由も。
会計のポイントを押さえたうえでこの謎の解説を読めば、なるほどスッキリ。会計とビジネスは切っても切れない関係のため、そのカラクリを知ることでビジネスの考え方にも役に立つ。
そう。本著は、「なるほど! だからなのか!」と、謎が解き明かされる爽快感と抱き合わせるように、会計についても学べる一冊になっています。
でも、やっぱり会計の本なんでしょ? と思われる方も多いはず。しかし、著者はエピローグでこう語ります。
日々の生活に直結した現金の出入りや損得の判断、はたまた将来設計(ライフプランニング)といった問題にも、会計は応用できます。会計は実に身近なものであり、会計を知ることで生活をより便利なものにすることができるのです。
知ると知らないでは、日々の暮らしに差が生じます。
「無料サービス」と書かれているけど、ほんとにおトクなの? バーゲンセールはどうしてあんなにも安い価格で販売できるの? 店長のオススメやシェフのオススメに隠された真実とは?
目を向けてみると、私たちの周りはそんな疑問で溢れかえっています。それらの謎には、確かな答えが隠されていますし、それを知ることこそが、お得につながったり、損するリスクを減らしてくれたりします。
本著は雑学やマメ知識を紹介した本ではない、と冒頭で書きましたが、マメ知識を増やす感覚で読んでみるのもいいかもしれません。気づかぬうちに会計に触れている。そんな状態こそが、著者が望む理想の状態なのかもしれませんね。
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