日本にもこんな裏側があったのか。昭和の夜の風俗史を知ることで、新しい日本に出会える一冊。『裏昭和史探検 - 小泉 信一』【書評】
小泉 信一 著『「裏昭和史探検」風俗、未確認生物、UFO・・・』
本著をひとコトで表現するならば、「愛と物語多き昭和の裏の姿に触れられる」一冊。欲望渦巻く風俗という世界で、アイデアとクリエイティブを駆使し自由を掴もうとする昭和の勇姿。
その反面、便利で暮らしやすい現代は、ルールに縛られ身動きが取れなくなってしまった。その過渡期において、人間の欲望が爆発していた昭和の風俗カルチャーが学べる興味深い一冊です。
歴史の主役は指導者や英雄でなく、大衆であるはずだ――。
日本で唯一と言われる「大衆文化担当編集委員」の小泉信一・朝日新聞記者が週刊朝日に書き下ろす好評連載に加筆して単行本化。平成が終わるタイミングで、平成以上に郷愁を感じさせる昭和を〝裏〟から覗いた大衆史。
第1部のテーマは風俗。「トルコ」「愛人バンク」「テレクラ」……法規制に抗いながら発展と衰退を繰り返してきた業界模様を史実と証言で綴る。
怖い物見たさでページを開けば、おおらかだった時代への郷愁や憧憬の思いに駆られる。がんじがらめに抑制された現代社会と違い、昭和のエロには創意工夫と愛があった。
第2部では「UFO伝説」、第3部では「未確認生物」と、やはり正史には記録されない事象を追ったルポも収録。科学では説明できない、しかし現代人の興味をひきつける正体に迫る。
平成生まれの人たちが読めば、昭和はこんな時代だったのかと驚いてしまうだろうか。昭和の後半に生まれた人たちは、もう少し早く生まれていれば、こんなにも刺激的な昭和を満喫できたのにと悔しがるだろうか。そして、昭和ど真ん中に生まれた人たちは、あの時代のことを懐かしみながら読み進めるに違いない。
本著は昭和カルチャーの中でも、主に風俗文化を扱ったもの。エロだからといって敬遠することなかれ。風俗・エロが立派な文化だということが、本著を通じて学べることだろう。記録に残らない日本の夜の風俗史に、驚きを感じてしまうこと間違いなし。
著者の調査と体験に基づくレポートはとても細かく、今ではすっかり姿を消してしまった昭和の風俗を知る上で、貴重な資料と言っても過言ではない。
額縁ショー、トルコ、カストリ雑誌、のぞき部屋、ステッキガール。本著で紹介される風俗文化の一部だが、読者の年齢によっては、そのどれもが初耳ということもあるだろう。そう考えると、明治維新を学ぶのも、織田信長について学ぶのも、夜の風俗史を学ぶのも、歴史を学ぶという観点からそう大差はないはずだ。
インターネットの世界などでも、革新的な技術やサービスは、エロから生まれることが多い。それほどに、性欲・欲望というものはニーズが集まるため、新しい技術や文化が最初に生まれるのも頷ける。
今ではすっかりエロも手にしやすい時代になった。苦労せずとも触れられる。しかし、そんな状況を作り上げてくれたのは、本著に登場するような先人の文化があったからこそ。そんな、エロが今に至るまでの過渡期を垣間見ることができるだろう。
ルールを設ければはみ出しものは締め出せる。レギュレーションを強化すれば、間違ったものが蔓延ることはない。しかし、余白と呼ばれるものも同時に消失してしまう。余白の中にアイデアや創意工夫を詰め込み、新たなものを生み出していくのは、いつの時代も変わらない。
そう思えば、日本の風俗が発展してきた歴史も納得できる。あらゆる心の隙間とルールの余白を突きまくり、本著で紹介されるような風俗が誕生した。昭和の人たちはそれに興奮し熱狂した。まだ見ぬ文化を望みながら、期待に胸を膨らませて生きていた。昭和は実におおらかな時代だったんだ。
今の時代はどうだろうか。過激さばかりを追求したとしても、やがては飽きや慣れは訪れる。それを打破して行けるほどのアイデアはあるだろうか。ルールの余白はあるだろうか。
昭和の夜はこんなにも悦びがたくさんあったのかと、嫉妬してしまうほどにバラエティー豊かな夜の風俗史。日本の裏側すらも時代は歴史に変えてしまう。新たな日本を知る上でも、ぜひ手に取ってもらいたい一冊です。
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