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御種印帳(短編小説)

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「ごしゅいんちょう」 短編小説集です。利用規約さえ守っていただければ自由に使っていただこうと思っていますが、その利用規約が作成中です。
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記事一覧

短編小説:クラスターゴースト

短編小説:クラスターゴースト

クラスターゴースト
村先ときの介 

 白南風が家の中を吹き抜ける。
 俺は自宅兼ゲストハウスである家の、開けられる窓とドアの全てを開け放って、夏の涼を確保していた。
 それだけで三十度近い暑さがどうにかなるはずもなく、俺の毛穴という毛穴から水分も塩分も吹き出し、シャツはべったりと肌にへばりついた。
 とはいえ光熱費の節約を考えれば、一人ならまだ耐えられる。
 今日は今のところ新規宿泊客のチェック

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短編小説:凶みくじ

短編小説:凶みくじ

元旦の初詣って案外並ぶんだな……。
普段は人混みを避けるために正月三が日での初詣はしてこなかったのだが、なぜか今年に限って来てしまっている。
列も早いからなんとかなるかなって思ったんだけど……かれこれ三十分ほど列に並んでいる。
鳥居は見えてきているしそんなに大きな神社じゃないから、一時間待ちってところかな……?
思った以上に寒い。
やっぱり帰ればよかったと思いつつ、もうなんとなく後にも引けない。

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児童文学:カラスと風の子

児童文学:カラスと風の子

冴えた空気に包まれて、山は眠る。
木々は葉をおとし、小枝に雪をのせて、ただひっそりとたたずむ。
地面にはつもりつもった雪が幾重にもなる、冬のある日。

雪の上をカラスが歩いていました。
カラスはふっくらもこもこと、まるっこい姿をしています。
「ああ、さむい、さむい」
さむさから身を守るように、カラスはまた羽毛を逆立てます。
あたまの羽毛まで逆立って、ツンツンしてきました。
「新鮮な食べ物もない、た

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気まま飯の歳時記

気まま飯の歳時記

冷蔵の中にあった残り物を適当に突っ込んで煮詰めたおじやをかきこむ。
棟梁からシェアハウスの管理と運営を引き継いだものの、他の入居者はいないから6LDKのリフォーム古民家は寒々しいばかりだ。
新年早々ではあるが、餅も七草粥も、独りで過ごす分にはどうでもよかった。目の前で白い湯気をくゆらせているソレは、必要な栄養素が取れれば良しといわんばかりの手の抜きようである。
なんていっても、飯の作り甲斐がねぇ。

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超短編小説:焼けた水

超短編小説:焼けた水

熱に溶けた古銭を見た。
微かに穴の開いた硬貨の趣を残しているが、ただの炭素の塊だった。
閃光、熱波、轟音。
そんなものとは無縁の公園。
私はただ、ベンチに座っている。
ペットボトルには水道水。服は貰い物とお下がり。プライスレス。
晴天の空。緑色の川の、潮の匂い。
私の前を真っ赤なストライプのスーツを着た小太りの男が通っていった。
額には脂汗。ネクタイは紫と金色の渦巻。しかも締め方が甘くて、シャツの

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短編小説:性格修正液

短編小説:性格修正液

【性格修正液】

 ドアベルの音が響く。そして小奇麗なワンピースを着た中年の女性が入ってきた。

「こちらで性格診断をしていただけると伺ったのですが」

 女性は部屋の中にいた白衣の男にチラシを見せた。

「ご来所いただきありがとうございます。私は性格診断所・所長の不破と申します。モニター募集で来てくださったんですね」

「本当に人の性格を調べて変えることができるのですか?」
「はい。髪の毛でも鼻

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