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早春、南伊豆逗留記⑦【日帰り巡礼 大沢山の家~金谷旅館】

<前回はこちら>

 千代田屋旅館のリモート環境は非常に快適で、私が滞在している離れの自炊棟も通信状態は良好だった。8畳の和室の隣の洋室も使用可能で、こちらは椅子とテーブルがある上、南向きで暖かかった。

 ワーケーションの際に難しいのはオンオフの切り替え。
寝室兼ダイニングとなる和室の他に、別の部屋があるのは有難かった。会社のPCは洋間に置いたままにしておき、プライベートとの界壁を自ら造る。

 慣れるまでに多少時間はかかったが、今では在宅勤務をするよりもずっと湯治場で仕事をする方が捗る。温泉療法により激痛が緩和されるのも大きな要素だ。

 
 今回想定外だったのは、部屋のすぐ外で川の護岸工事をしており、昼間は時間帯によって地鳴りがする。そんな時は本館の空いている部屋を使用させてもらった。純和室でこちらも南向き、以前も泊まったが良い部屋だった。
 
 「うるさくてごめんね」とご主人。来週には工事は終了し、護岸が完成するという。


 湯治生活も後半へ。そろそろ冷蔵庫の中身も断捨離を開始する。
地産の野菜などは持ち帰るのは無粋だ。食品ロスはもってのほか、こちらで仕入れた食物は全てこの地で消費する。

 この頃になるとまとめ買いは抑え、必要なものだけを買い出しに。
滞在中の千代田屋旅館から、南は下田駅前の「下田とうきゅう」、西は松崎町の「フードストアあおき」(※伊豆を中心に展開するチェーン店)に向かう。

 距離的には下田の方が近いが、松崎方面には湧水処「大師の聖水」がある。給水が必要な時はそのまま水を汲んで松崎へ出るという具合だった。
この南の「とうきゅう」と西の「あおき」、共に向かう道中に強烈な誘惑ポイントがある。

 大沢温泉「山の家」と、河内温泉「金谷旅館」だ。


 時間休を取っていたある日。給水と買い出しに西へと向かった。
ちょうど湧水処と松崎港との中間程に現れる大沢温泉の標識。県道から一本裏に入り、丘陵を登って行くと日帰り露天風呂「山の家」がある。

 
 渓流に架かる橋を渡った先に小屋があり、そこで入浴料を払い再び外へ。
階段を上がると露天へ繋がる。岩壁をそのまま利用したワイルド系の岩風呂に、毎分湧出量230ℓを誇る自噴泉が湯底から揚がる。
 この日は夕刻にまだ会議を残していて、少々忙しないが買い物帰りに立ち寄ることにした。

 約1年振りの再訪、去年はライダー達が大勢訪れており芋の子を洗う状態だった。今回は好天にもかかわらず先客はなし、受付に戻り撮影許可を取り行くと快諾いただいた。
 
 こちらの湯はビリビリ来るほど熱かった記憶があるが、この日は適温。風が冷たかったからだろう。結果的に終始独泉で1時間近くの滞在。ph8.4の硫酸塩泉、鮮度香り共に抜群だった。

 
 また別の日。
目薬を買いに今度は南へ(※花粉症が、、)。伊豆急下田駅の一つ手前、蓮台寺駅からほど近い金谷旅館は、青森県酸ヶ湯温泉と並ぶ「千人風呂」として著名な宿だ。

 伊豆随一の豊富な湯量を誇り、毎分300ℓの源泉が総檜の浴槽を満たす。
また意匠設計の内湯も卓抜の美しさ。女体のブロンズ像3体、アーチ形に張られた天井と、露出した梁がまた見事だ。

 温度も冬場は40度を切るくらいか。長湯が可能且つ別源泉の温湯浴槽まである。交互浴を始めると出るタイミングを逸し、ついつい長湯。
深さも1mあり、リハビリにもちょうど良い。伊豆屈指の名湯として、誰も疑う余地はないだろう。

 
 下田に来てから何度か素通りした金谷旅館。
日帰りも積極的に受けているこの宿は、河津桜の頃は大変な混雑となる。
50台以上ある駐車場が満車になるほどの賑いで、ハイシーズンは料金も平日の1.5倍。1,200円でも尚客は集まる。

 そこである算段を立てた、観光客の人出が収まったウィークデイ。
泊りの客は食事の時間となる18時にロックオン(日帰りは21時まで)。仕事を終え、買い物を済ませてから立ち寄る。するとドンピシャで誰もいない。
 千人風呂を一人で堪能し、誰もいないので歩行浴でリハビリを行う。流石に途中から人が来たが、ほぼ独泉状態だった。

 
 今回の湯治、もう他に寄る予定はない。
これまで「千代田屋旅館」は完全貸切。下田の共同浴場「昭和湯」、雲見温泉「高見家」、大沢温泉「山の家」、河内温泉「金谷旅館」と全て独泉に成功した。何れも100%かけ流し、湯の質、使用方法共に秀逸であった。


 私には持病の激痛や不眠、通院が欠かせない等の罰は沢山ある。
だがこうして治療をしながら仕事をさせてもらえること、一湯一会の出会いには感謝に堪えない。

 いよいよ明日、伊豆ともお別れだ。

                           令和4年3月9日

自炊棟の洋室 仕事部屋として使用
護岸工事がうるさい時は本館へ こちらも南向き
橋を渡った先 大沢温泉「山の家」 
夕刻の河内温泉「金谷旅館」
昨年撮影 金谷旅館の千人風呂
※撮影許可をいただいております

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