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早春、南伊豆逗留記⑥【西伊豆の思い出~雲見へ】

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 初めて西伊豆を一人で訪れたのは、もう7~8年前のことだ。
嗜む程度に週末の湯巡り、その時は2泊3日の旅程だった。三島からレンタカーを借り徐々に南下したと記憶している。

 修善寺の「筥湯はこゆ 」に始まり、川端康成愛湯の湯ヶ島温泉「湯本館」と湯ヶ野温泉「福田屋」、千人風呂で知られる河内温泉「金谷旅館」などを回り、浄蓮の滝を見た。
 天城の「かどや」でわさび丼、下田の「徳造丸」(※伊豆の老舗)で金目鯛を食べるというミーハー感丸出しの行程だった。

 下田から南伊豆町を経由し、2日目の宿は雲見温泉。
当時日本秘湯を守る会のスタンプを集めており、一人でも宿泊可能だった「かわいいお宿 雲見園」に投宿した。

※日本秘湯を守る会とは
昭和50年4月に発足。”旅人の心に添う 秘湯は人なり”をスローガンとし、主に山あいの一件宿などが加盟する団体。スタンプを10個貯めると、泊まった宿の中から一泊無料で宿泊ができる。

 現在は湯治場、ボロ宿嗜好のため、今思えば私にしてはかなりハイグレードな旅館。だがそれを勘案しても余りあるほど、湯と料理は素晴らしかった。

 私は基本素泊まりが多いのでサンプル自体少ないが、食事が良かった宿を挙げろと言われると、下風呂温泉「つる屋さつき荘」(青森)とこちら「雲見園」を思い出す。

 だがそれ以上に、「不便なところだな」という印象が残ってしまった。
雲見は東京から最も遠い伊豆半島。三島から修善寺に行くのにも渋滞が酷く、海沿いに出てからも一本道を永遠と走り続ける。(※現在は新道が開通しているので多少快適になっている)

 昨年も土肥温泉から松崎と回ったが、雲見温泉はそれよりも更に南。良い湯と食の思い出は、いつしか遠き記憶となってしまった。

 湯治生活6日目。気付けばこちらに来てからも仕事ばかり。
ようやく丸一日オフとなり、容態も落ち着いていたので日中外を回ることにした。調べると滞在中の横川から雲見までは30分強、思いのほか近いことが分かった。

 日帰り施設はないので立ち寄りを受けてくれる宿をネットで探す。
だがヒットする情報はどれも古く、昨今日帰りは断られることも多い。現地で温泉難民にならぬ様、前日に宿に荷電をした。
 すると源泉かけ流しの宿として高い評価を誇る「高見家」は、10時からならOKとのことだった。最初は断られ気味だったが、「どうしてもお願いできませんか」と粘り、承諾を取り付けた形だった。

 
 翌朝、千代田屋旅館を出て下田松崎線を西へ。
バサラ峠を越えて途中からは那賀川と併走。川沿いは桜並木、これはソメイヨシノらしく開花には1ヵ月早かった。だが土手の傾斜を舐めるように菜の花が盛りを迎えていた。

 松崎港手前を左に折れ、今度は海沿いの紆曲を南へ。風の強い日だったが雲一つない蒼天。右手に冠雪の富士山を望む。

 石部温泉、岩地温泉と未湯の小さい温泉地を過ぎると、雲見港が見えてきた。砂浜の前の駐車場に停め、浜辺に立つと今度は正面に富士山が。
あまりにも小さい港、そして美しい海。いつまでも眺めていられそうだが風が強すぎて車に戻る。

 再びアクセルを踏み1~2分、「高見家」に到着した。
ちょうど10時、宿泊客が出払ったのを確認して入館。毎日環水清掃するというこの宿、恐らく私が帰った後に清掃に入ると思案。そのため10時指定だったのだろう。

 貸切の露天風呂は清掃中で、入れるのは内湯のみ。
申し訳なさそうに話す女将さん。いやいや、湯が本来持つ香りや成分を堪能するのであれば露天より内湯。

 「さあ来い雲見の湯」

 源泉が高温のため激湯も覚悟。静かにダイブを決めたが予想に反して40度と適温(温度計で測っている)。あたりは優しいが濃厚な強塩泉、調子に乗って長湯をするとグッタリくるやつだ。

 内側にじわじわと浸透し、汗が額から流れ始めた。
高見家の内湯は3人サイズ。引湯量は毎分15ℓと決して多くはないため、かけ流しで使用するにはこのサイズが限度なのだろう。海水の様な食塩泉はなかなかのパンチ力、50分ほど湯浴みし相当な汗を流した。文句なしの良泉だ。

 
 帰りにフロントに座り汗を拭いていると、女将さんが水を持って来てくれた。四方山話が始まり、下田で湯治をしていると伝えると、途中からご主人も一緒に。会話も熱が入る。

 業界話から始まり、近年4本の混合泉が3本になったこと。温度調節は熱交換器を使い、湯量調整が大変だということを伺った。
 そして奇遇なことに、私が時々訪れる群馬県のとある旅館経営者の御一行が、先日この宿に泊まりに来たという。若い方々で、私も既知の人物だった。源泉の配湯方法についてあれこれ聞かれ、指南をしたという。
 
 話が盛り上がり、なんだかんだ30分ほどフロントにいた。


私  「良い湯でした。今度は泊りで参ります」
   「なんだかすみません。立ち寄りなのにお相手して下さって」
館主 「いいえ。不思議と色んなところで繋るものですね」
私  「そうですね。ではまた」

 
 久々の雲見。良き思い出がまた一つ。

 帰りに松崎町にある「らんぽん」という年季の入った中華屋でラーメンを食べた。ちょっと想像していた味と違う、、もっと、塩っ辛いのが食べたかった。汗が出過ぎて身体は塩分を欲していたのだろう。

 この旅初めての外食であった。

                           令和4年3月7日

那賀川の菜の花 早咲き桜が咲いていた
奥の並木はソメイヨシノ
雲見温泉 「高見家」
高見家の内湯
限られた湯量でかけ流しを実現するため3人サイズ
良い湯でした ありがとうございました
松崎町 長八美術館の向かいにある「らんぽん」
昔ながらのラーメン あっさり

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