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長月に 揺れる 風鈴のこと

まだ残暑の厳しい九月のはじめ。
灼けるアスファルトの上を
先へ先へと急ぎ歩くなか、
信号待ちに
足を止めたときのことでした。

凛、、凛、、、


どこからか、懐かしい、涼やかな音がします。
日傘を下ろして、あたりを見廻すと、
道沿いの家の軒先に
綺麗な風鈴が一鈴、
下げられているのが見えました。


海月のように丸く
下の方だけ少しすぼめた外見そとみ
縁に向かって青いグラデーションの入った
薄手のガラス作り。
そこへ白い糸が通って、
淡い絵をしたためた短冊が
キュッと、結ってあります。

短冊は、微かな風にもヒラりと舞って
ぜつを引き連れ、
涼感を運ぶ
あの美しい音を奏でるのでした。

晴れ渡る水色の空。
軒先の透ける風鈴。
庭に堂々と茂った翠松。

まるでそれは、一幅の絵です。



夏の風物詩とされる風鈴ですが、
この頃は町なかで
この瑞々しい音に出逢うことなど
滅多にありません。

それでも、この音を、風情を
美しいと思う気持ちは
日本の人たちの心に
在り続けてほしい。
そんな思いが、胸を掠めました。




ほんの、ひと時。

せかせかしていた気持ちが
自然に和らいでいます。



信号が青に変わりました。

奥ゆかしい音色。
後ろ髪を引かれながらも、
清々しい気持ちで
また、歩き出しました。


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