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恩 師 の 背 中 と い う 道 標

心の問題で休職をしていたとき、
私は恩師の元を訪ねた。

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連絡を取ると
「いつでも話にいらっしゃいよ」と
気さくに返事をくれた。

先生は、いつも笑っている。
約1年半、久しぶりに会ったその日も
ふくふくと可愛らしい笑顔は健在だった。
元気でちょっとお茶目で
たまにそそっかしい。
生徒から愛されている先生だった。

校内にある自販機で
先生は私の分までカフェラテを買ってくれて
生徒の帰った教室で2人、話をした。



人と会うのも億劫になっていた時期、
先生と再会するのにも多少の勇気がいった。
でも、話し始めると
するすると気持ちが解れ、
あっという間に30分が過ぎていた。

「先生は、仕事を辞めようと思ったこと、
ありますか?」

今の状況、今の気持ち、
私のことをひとしきり話した後

私は先生自身の話を聞きたくなった。


「そうねえ、、、私はね、決めているの。
ポジティブな理由でしか、仕事を辞めないって。

私ももう35年近く、
ここで教師をしているから
それはやっぱり
色んなことがあったわよ。

何をしても反りが合わない先生が居てね、
挨拶は返ってこないし、
目も合わない。
しまいには有る事無い事
校長先生に告げ口されて
大変だったわ。

でも、辞めなかった。

逆に辞めるもんか〜!って思ってたくらい。
もし、そのまま私が辞めてしまったら
ここで働いていたことが
自分の中で
嫌な記憶になってしまうから。
素敵な生徒たちと
たくさん出会うことができたこの場所を
そんな風に思い返すのは悲しいでしょう。

私はやっぱりこの仕事が好きなのね。

それからもその先生に対しては
他の人と同じように接したの。

毎日、新しい職場に来ている気持ちで。
昨日起こったイヤなことも
さっぱり忘れたフリをして
いつも通り挨拶をしたわ。

だから結局、
仕事を変えたのは今までに一度と、、
そしてこれからもう一度、ね。
一度目は20代の時。
ここで教師をしたいと思ったから、
前職を辞めて
そして、次は、来年ね!
実は定年を機に、新しい学校で
教師をしようと思っているの。

環境を変えてどうなるか、
今まで経験してきたことと蓄えた力を
発揮するチャンスよ!」

そう話す先生の目は
キラキラとして力強く、
とても格好良かった。

志を持って仕事に向かう人の言葉は、
真っ直ぐで清々しい。



休職している、と言うと皆
気を遣って「無理しないで」「ゆっくり休んでね」と声をかけてくれる。
それはとてもありがたいことだったけれど

こうして、すごく前向きに、
仕事を楽しんでいる方の話を聞くことは
その時の私にとってキーポイントになったと
今になっても思う。

「仕事」というものの捉え方を変換する、
ひとつのスイッチになった。

「まだ3年も働いてないんだから、
出来ないことがあって当然よ。全部出来ちゃったら怖いくらい!
ひとりで背負わなくてもいいの。
みんなを頼りなさい。甘えなさい。」

先生はそう言って
最後も笑顔で送り出してくれた。

先生にはお子さんがいない。
けれど、35年にわたって先生は
生徒一人ひとりを自分の子供のように
見守り、育ててこられた。

何歳になっても
生き生きと、若々しい心を持ち
仕事へ向かう姿勢。

そしてお茶目な笑顔も
素敵な先生。

楽しく歳を重ねている大人が
前を歩いてくれていることは
これから私が歩く道の先を
明るく灯してくれているようで、

そういう人を見ると

『仕事も、人生も、この先も、きっと楽しい。』


そう思いながら
私は前へ進むことが出来る。

先生との再会は
私にたくさんの勇気を与えてくれた。

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