フォローしませんか?
シェア
ヱリ
2024年6月27日 00:17
脱いでいた服を身につけた後は、宇治のそばにいる資格をすっかり剥奪されたような気持ちになる。バスルームに水の音が響くのを聞きながら鏡台の前に立ち、クリーニングしたてのスラックスをしっかり引き上げ、新品のセーターの裾を整えた。申し訳程度に眉を書き足し、色付きの薬用リップを塗っただけのささやかな顔が、鏡の中から心配そうにこちらを見つめ返してくる。励ますようにショルダータイプのスマホケースを肩から
花丸恵
2023年7月6日 20:45
◇ 頭にきた。もうあんな男とは別れてやる。 電話を切ってから、一時間近く経つのに、この腹立たしさが収まる気配はない。気がつけば、ベッドに座ったまま、膝の上で、ずっとこぶしを握りしめていた。開いてみると、手のひらにはじっとりと汗がにじんでいる。私はティッシュペーパーを一枚引き抜き、手を拭く。それをグシャグシャに丸め、ゴミ箱めがけて投げ入れようとしたが、角に当たってポロリと落ちてしまった。何
猿荻レオン
2024年6月10日 05:57
プロローグ「はぁ、はぁ、はぁっ」白雪美香は、ぽっちゃりとした白く柔らかな肉体を揺らしながら、福岡市のセントラルパークと言われる大濠公園を走っている。5月中旬の福岡は夏日になることもあり、今日の気温は25度を超えていた。気温が上がることは白雪美香もわかっていたが、ここまで暑くなるとは予想だにしていなかった。もう夏じゃないか、と白雪美香の荒い呼吸の中にため息が混じる。今更ながら厚手の服
半径100m
2024年6月15日 21:52
《最終話》そしてハッピーエンド?「和牛のたたき」「おこぜの唐揚げ」 池上貴明が予約してくれた小料理屋の、木の温もりのある個室に座ると、貴明と春香はメニューを覗き込み、次々と料理を選んだ。「おくらの天ぷら」「おっ、それ、僕も食べたかったんだ。あとは季節の野菜の炊き合わせ」 食の好みが似ている。そんな男と料理を選んでいるだけで、春香の心は踊った。 食べ物の趣味が合う人と向かい合って座る