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【読書感想文】『個人戦術について新たな発見を与えてくれる』~風間八宏の戦術バイブル~サッカーを「フォーメーション」で語るな~~

この本を選んだ理由

ある日、YouTubeで風間八宏さんが育成について語っている動画を見ました。その動画内で「ボールをしっかりと止めることができると、相手も止まる」と言っていたんです。すぐにボールを蹴れる位置にコントロールができれば、パスを出されるから相手は寄せることができない。今までの自分には無かった概念、考え方、言語化の仕方の一端に触れることができて、もっと風間さんの考え方を知りたいと思ったから選びました。

センターバックを攻撃する

副題の“「フォーメーション」で語るな”の通り、本書には[4-4-2]とか[4-3-3]などのフォーメーションの特徴やかみ合わせなどについては全く言及されません。これらがチーム戦術とすると、本書では個人戦術を題材としています。

個人戦術とは、次のように定義したいと思います。チームの約束事=チーム戦術をピッチで表現するために各個人が判断して行うプレーのこと。

選手個人に注目する。ゴールを取るために、あるいはゴールを決めさせないために、個人としてどんな判断を下して、どのようにプレーをしているのか。これを見ていくことでピッチで起こっていることを理解しやすくなるといった内容でした。

本書は風間さんがチームの監督に就任してから最初に取り掛かる「どうゴールを取るのかの方法」からスタートしていきます。風間さんならでの視点で海外のトップチームやスター選手の特徴についての解説もすごく面白かったんですけど、特に第1章の「ゴール前でセンターバックを攻撃する」が非常にインパクトがありました。

相手が守るゴールを陥れるには相手ゴール方向、つまり前向きの選手の数が重要という試合を見る上でのポイントから掲示されていき、センターバックを攻撃する4つの方法についての説明があります。

以下が4つの方法になります。
1.裏へ飛び出す
2.センターバックの背中側に立つ
3.センターバックに向かって突っかけ、突然方向を変える
4.動きすぎない。それでいて背中を取り続ける

1~3は動的な仕掛けです。自らアクションを起こして、センターバックをゴール前から引きずり出したり、センターバックのマークから外れたり、困らせたりします。この動的な仕掛けはサッカーの試合ではよく目にするので、本書を読む前から何となく攻撃の有効な手段のイメージとして持っていました。

しかし、4は静的な仕掛けです。自らアクションを起こすのではなく、センターバックの背中に立つ。パスを待っているだけで消極的なプレーだと思いそうになりますが、これをできる選手が一流のストライカーだと風間さんは述べています。

なぜセンターバックへの攻撃になるのか。パスが出る可能性が低くても、どんなアクシデントが起こるか分からないのでDFは中央にいるFWを気にしていなければいけません。つまり、相手の喉元にナイフを突きつけておくということになるんです。

中央でじっと構えるだけではなく、ボールが移動する度にセンターバックの背中を取り続ける。右サイドから左サイドにパスが出ると、ボールを中心にセンターバックの身体の向きが変わって背中側も変わるので、それに応じて背中を取り続ける。徹底して背中を取り続けることが大事なんです。

この動きがうまい選手としてロベルト・レヴァンドフスキ(ポーランド代表/バイエルン・ミュンヘン)選手が取り上げられていました。ゴール前の職人は185㎝のフィジカルに頼ることなく、常にセンターバックの背中を取ります。相手と駆け引きしてゴールを決めれるポイントに入っていき、得点を量産するんです。リオネル・メッシ(アルゼンチン代表/パリ・サンジェルマン)選手やクリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル代表/マンチェスター・ユナイテッド)選手がいなかったら、間違いなくバロンドールを受賞していたでしょう。それくらい世界のトップに君臨するストライカーなんです。

レヴァンドフスキ選手は味方がパスをつないで守備を崩そうとしているとき、ほとんどボールを見ていません。常に周囲の状況を確認しています。敵がどこに立っているのか、どこが死角なのか。どこに動けば、フリーでシュートを打てるのか。動き回らずに常にゴールを決めれる位置を探しているんです。

今日、サッカーはフォーメーションやカタカナの戦術用語ばかりを使って語られることが多く、戦術ボード上での議論や論説が溢れています。決してそれが悪いとは言いません。しかし、サッカーは人がプレーするスポーツです。サッカーはボードの上ではなく、ピッチでプレーされています。本書は難解な専門用語を神輿に担ぐことなく、ピッチ上での個人戦術にフォーカスしています。そして紹介されているものは、僕に新しい気づきを与えてくれました。まだまだ知らないことがあるし、もっと勉強しないといけません。僕は監督、選手へのリスペクトを常に持っていたいと思うので、彼らがどんな考えを持っているのか、どんなことをしているのか、どんな想いを抱いて取り組んでいるのか。現場で活躍する彼らの本をもっと読みたいと思いました。

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