【読書感想文】『倒叙集が教えてくれる新しいミステリー小説の楽しみ方』~Invert-城塚翡翠 倒叙集-~

倒叙集は過程を重点的に楽しむことができるミステリー小説だ。

『Invert-城塚翡翠 倒叙集-』は、初めから犯人が誰なのか分かっているという点で従来のミステリー小説と一線を画す。

一般的なミステリー小説は、刑事や探偵の視点から物語が描かれる。流れとしては、主要人物が出揃い、事件が発生し、現場調査や聞き取り調査を行った後に犯人が施したトリックを解明していく。

読者としては探偵になったつもりで推理をしながら、犯人を導き出すことを楽しい。私も推理の爽快感が心地よくて一般的なミステリー小説をよく読む。

推理そのものは過程に当てはまるが、不明な犯人の存在が大きい。誰が犯人なのか、どんなエンディングを迎えるのか。したがって、結末を楽しむ面が強い。実際に先が気になって気になって読破してしまうことが少なくない。

しかし、倒叙集は犯人側の視点で記述された推理小説だ。そのため、犯人は自明であり、犯行手順も把握したうえで物語がスタートする。もちろん、ミステリー小説でお馴染みの刑事や探偵は出てくる。

では、どのようにして楽しむか。ミステリー小説のメイントピックである犯人の追及ができない状態で、どうやって作品に没頭するのか。

それは刑事や探偵が犯人をどのように追い詰めていくのかを導き出すところにある。

本書では主人公で探偵の城塚翡翠が確かな観察眼と人の心を読む力で、犯人の存在を簡単に特定した後の推理が実に面白い。主人公も犯人を確信したうえで推理をしていくため、違う誰かを疑うことはない。それよりも、犯人の完璧なアリバイを崩し、現場から消えた物証を探し出し、犯人が自首をするように誘導していくところに没頭する。

どんな方法を使って犯人までたどり着いたのか。ネタバレになるため、探偵の推理を書くことはできない。しかし、単に緻密な理論を形成するだけでなく、犯人を上回る斬新なトリックを使って事件を解決するのが爽快であり、「そういう導き方をするのかよ」と驚かされる。また、物語の冒頭に描写された犯人の犯行手順は完璧なものではない。読者に掲示されない行動もある。したがって、犯人が分かっているものの、私たちが推理をする余白は残されており、探偵になったつもりで読み進めていくことも可能だ。従来のミステリー小説と似たような楽しみ方もできる。

本作品で初めて倒叙集を読んだ。最初は犯人が自明であることに抵抗感があったが、読み進めていくうちに探偵と犯人の駆け引きに目が離せなくなり、事件解決までに至る過程に夢中になっていた。ミステリー小説は探偵の視点だけではない。倒叙集が新しい楽しみ方を教えてくれた。

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