『大どんでん返しとたくましい選手の帰還』~第30節ファジアーノ岡山VSジェフユナイテッド千葉~

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 スタジアム観戦時のアルコールが解禁になり、アウェイシートが設けられた第30節。均衡しているJ2において順位を上げるために必要な勝点3を目指す両チームは激しい火花を繰り広げる。

スタメン


画像2

ファジアーノ岡山
・フォーメーションは4―4-2。
・MF白井永地・MFパウリーニョ・MF上田康太を同時起用。
・FW齊藤和樹とFW山本大貴の2トップ。
・怪我で離脱していたMF喜山康平とFWイ・ヨンジェがベンチ入り。

ジェフユナイテッド千葉
・フォーメーションは4-4-2。
・DF鳥海晃司とDF本村武揚がスタメン復帰。
・大卒ルーキーMF見木友哉がスタメン入り。
・攻守で高いクオリティを発揮するFW船山貴之とFW山下敬大の2トップ。


「6分で1-1」の捉え方

 4-4-2で堅実な守備から入る両チームが対戦する今節。なかなかスコアが動かない落ち着いた試合になるという戦前の予想を開始早々の互いのゴールでいきなり裏切ることになった。

 まずは千葉の得点は5分に生まれる。GK新井章大のロングキックにFW山下がDF濱田に競り勝ち後ろにそらす。そのボールに反応したDF椋原のクリアはやや自ゴール方向に高く上がり、ミスキックになってしまう。岡山のミスにMF為田が素早く反応して、千葉がまたしても空中で競り勝つとボールはFW船山へ。FW船山はコントロールし、冷静にPAアーク付近へ流し込む。内側に入ってきたMF矢田がMFパウリーニョをアウトサイドでかわしに行ったところに、J通算100試合出場を達成したMF上門が猛然とプレスバック。身体を入れてボールを奪おうとするがボールは足に当たり、自ゴール方向へこぼれる。こぼれ球を拾ったFW山下が反転しながら腰の開店ウを使って逆サイドにシュートを流し込む。GKポープが腕を目一杯の伸ばしてボールに飛びつくが、ボールは右手を弾いてネットを揺らした。

 この失点はもったいない残念だった。最初の競り合いでイニシアティブを握られたが、ボールは岡山の選手にこぼれた。DF椋原の大きくクリアする素振りから、前の選手はクリアボールにアプローチするため重心を前に向けただろう。やや前に行った意識と反して、ボールが後ろに飛んでしまったため、失点の最終的なトリガーとなった上門のプレスバックの遅れを招いてしまった。ボールやボールホルダーに対して正面から対応すれば、自ゴール方向にこぼれることは一気に減る。FW山下の前に絶好なこぼれ球は無かったかもしれない。ただ、MF上門の守備に対する意識や帰陣のスピードは賞賛すべきもので、岡山に来て試合を積み重ねることで守備のアンテナの精度は上がっていることは間違いない。最終ラインでのミスはどんなものでも命取りになってしまうということを改めて感じた失点だった。

 失点直後のキックオフからDFラインの裏に抜け出したFW齊藤がエリア内で倒されてPKを獲得。このPKをMF上田が強気に中央へ蹴り込んで、同点。

 すぐに追いついたから良かった、で済ませるのはナンセンスではないだろうか。サッカーは相手より多く点を取れば勝てるスポーツだ。それは裏返すと相手より多く点を取られれば負けるという意味だ。順位を上げるために必要な勝点3を獲得するために、不要な失点は何としても避けたい。自分たちのミスが招いた開始早々の失点には重く受け止める必要がある。


前を遮断する千葉の守備

 千葉は4-4-2の守備ブロックを形成。岡山のDFラインからのビルドアップに2トップがプレッシャーをかけて、規制をかけていく。千葉はボールホルダーに対して距離を詰めて身体をつけて奪いに行くというよりはボールホルダーの前に立って前方へのグラウンダーのパスを遮断。岡山はMF上田やMFパウリーニョがCBからボールを引き取りたいが、なかなか中央を経由できない。

 岡山はサイドから崩そうと試みるが、千葉の2トップがパスコースを限定するようにプレスをかけるため、中盤とDFラインがパスに合わせてスライドして、ボールホルダーの前を遮断する守備をフィールドプレーヤー単位で徹底。前を遮断された岡山は下で繋いで前進させるシーンをあまり作れなくなり、五分五分になるロングボールを蹴らざる負えなくなり、なかなか主導権を握れなかった。

 そんな中でも44分のCBからパスを受けて千葉の選手に前を遮断されたDF椋原がドリブルで1人剥がして前進できたシーンは千葉のブロックの破る突破口になり得るプレーだった。その後のFW齊藤へのパスがずれてしまったものの、相手を動かすためにはパスだけでなくドリブルも有効なのだ。ビルドアップと聞くとパスを思い浮かべる人が多いだろうが、ビルドアップとは「パスを繋げる」ことではなく「ボールを前進させる」ということだからだ。

中央を塞がれた岡山の打開策

 千葉に中央を閉められ、ボランチからパスで攻撃を展開するシーンをなかなか作れない岡山はサイドに攻撃の起点を置いた。サイド攻撃で組み立てを担うのはSB。前を遮断されるものの、比較的プレッシャーを受けにくいSB、特に左サイドのDF徳元からの組み立てを模索する。前半はサイドからの効果的な前進はできなかったが、SHがSBへのサポートの動き出しを早くすることでサイドの窮屈さを緩和させた。縦のコンビネーションや相手を釣り出すランニングでボールホルダーのプレー選択を増やしていた。66分にMF上田に代えて関戸を投入した交代も中央からサイドに起点を移したことの表れのように見えた。時折、ボランチやフォワードが深い位置に流れることも見られた。


千葉の包囲網に捕まりに行った2失点目

 左サイドに人を集めて局面打開を図る岡山だったが、前への意識が強くなり過ぎてしまう。ボールを持ったMF白井をMF上門やDF徳元、MFパウリーニョが追い越したが前を遮断する千葉の守備組織によってMF白井からのパスコースがどんどんなくなっていく。やり直そうとMF白井が後ろを向くと、千葉はプレスの矢印をはっきりと前にして強度を上げた。後ろでサポートに入ったDF田中が逆に展開すると思いきや、千葉の選手が密集している狭い左サイドにさらすようなドリブルで入っていく。網に掛かったDF田中にFW山下が体をぶつけて、ボールがこぼれるとDF徳元に競り勝ったFW山下がボール奪取。FW船山がMF白井の背中から右斜め前に抜け出してパスを受けて深い位置まで侵入。ゴール前で切り返してパス、後ろから走り込んできたMF髙橋がゴール右上にシュートを突き刺した。

 人数をかけて、サイドの侵略を防ぎながら張り巡らせていた包囲網に誘導してボールを奪ってから、少ないタッチでシンプルかつ速いカウンターの切れ味は抜群だった。岡山の選手のポジショニングも悪かったが、プレスでMF白井を困らせたMF髙橋がゴール前まで走り切ってシュートを決めた得点だった。このカウンターのきっかけになり、カウンターを完結させたMF髙橋の勝負師としての勘はさすが10番を背負って青森山田高校の選手権初優勝に導いた選手という感想を持った。


エース・門番の帰還と若手が示した確かな成長

 1点リードされた直後、怪我で離脱していたMF喜山康平とFWイ・ヨンジェ、プレー時間を徐々に伸ばしているMFデュークの3人がピッチに送り出された。交代で入ってきた選手たちは自分の長所を存分に発揮して、チームを勝利に導く活躍をして見せた。

 開幕前のキャンプで負傷し、今シーズン初出場となったMF喜山は中盤の底に入り、ルーズになりかけた中央の守備を引き締めた。首をたくさん振りながら相手の位置を確認すると相手の縦パスのコースを遮断しながらボールホルダーにプレスをかけたり、千葉の2トップの脇や間に顔を出しながらDFラインからボールを引き出した。さらに身体を投げ出してPA内のシュートという絶体絶命のピンチを防いだ。今シーズン初めてピッチに立ったことを感じさせない安定感はさすがベテランと言ったところ。冷静な判断や無駄が省かれた適材適所のプレーから、試合勘は存在するのかと感じるほどだった。

 出場時間を伸ばしているMFデュークは2失点目で失いかけた岡山の左サイドの勢いを復活させた。パスを受けてからの落ち着きが格段にアップしたことで、囲まれても奪われることなくタメを作り、リズムを引き戻す。86分、MFデュークが相手に身体を強くぶつけてルーズボールをマイボールにすると、MF上門とDF徳元の3人で流動的に動きながらのパス交換で千葉の守備組織を動かすことを試みる。MFデュークは瞬間的にフリーになると3人の相手に囲まれながらも前を向きながらキープして時間を作り、DF徳元に預ける。DF徳元へのパスをスイッチに中央に入っていたMF関戸が斜め左に抜け出す(ダイアゴナルラン)。DF徳元から1タッチで出された浮き球パスをMF関戸が「シュートしてください」というメッセージが込めたような丁寧なパスを後ろへ出す。これをMF上門が巧みなシュートインパクトでゴールネットを揺らした

 終了間際に追いついたことで、一層ボルテージが上がったスタンドのファン・サポーターは選手を後押しする手拍子をより一層強め、シティライトスタジアムを包み込む。

 アディショナルタイムに入り、千葉の攻撃を集中した守備で抑えると、待っていた歓喜の瞬間が左サイドから生まれる。大外に張ったMFデュークにボールが渡ると、中→外のドリブルでDF本村を引き付ける。DF徳元がタッチライン際でポジションを取り、MFデュークがDF本村を限界まで引き付けて前のスペースにパス。中をしっかり見たDF徳元が上げたファーサイドへのクロスを復帰したばかりのFWイ・ヨンジェが頭で流し込んで見事逆転に成功した。

 左サイドで相手の目線を集めてDF徳元に時間とスペースを与えたMFデューク、試合終盤にも関わらず正確なクロスを送ったDF徳元、GKの重心の逆を突いたFWヨンジェで奪った逆転ゴールはシティライトスタジアムを熱狂の渦に巻き込むのに十分すぎるものだった。復帰した試合でチームを勝利に導くゴールを決めてしまうFWヨンジェはまさにエースストライカーそのもの。持っている男、千両役者ぶりを存分に見せつけた。

 復帰した選手、途中から入ってきた若手の活躍は頼もしいの一言。上位進出に向けたファジアーノ岡山の反撃はきっとここから始まる。


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試合結果

明治安田生命J2リーグ第30節

ファジアーノ岡山 3-2 ジェフユナイテッド千葉

【得点】
5分 山下敬大(千葉)
6分 上田康太(岡山)
75分 髙橋壱昴(千葉)
87分 上門知樹(岡山)
94分 イ・ヨンジェ(岡山) 


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