秘密の花園__1_

「思い込み」の力ってすごい/オズの魔法使い

『オズの魔法使い』(ライマン・フランク・ボーム:新潮文庫)は、1900年、100年以上前に生まれた物語だ。

そう思うとかなり昔の作品のような気もするけど、そういう意味での古臭さは全くない。

ただ、なんとなく知った気でいたこの物語だけど、ドロシーたちの願いを叶えてもらうまでこんなに時間がかかっていたのか…というのが、読み終わったあとに抱いた感想かもしれない。

【あらすじ】ある日突然、大きな竜巻に巻き込まれて家ごと飛ばされたドロシーがたどり着いたのは、全く知らない土地。前に住んでいた場所に戻りたいドロシーは、願いを叶えてくれるという「オズ大王」に会うためのエメラルドの都を目指すことにした。その道すがら一風変わった仲間が増えていくが…。

とにかくオズ大王のところまで行けばなんとかなるだろうと思いきや、オズ大王は西の魔女を倒してくれないと願いを叶えないなんて言う。

それならば、と西の魔女を倒して戻っても、ドロシーの願いは結局叶えてもらえず、南の魔女のところまで苦労して行ってようやく叶うのだ。

きちんと読むまではオズ大王が最終目的地だと思っていたから、え、まだ叶えてもらえないの!とけっこうびっくりした。叶えてもらえないとわかるたびにドロシーが泣きじゃくるのだけど、無理もないし、ちょっとかわいそうすぎた。

それにしても、どうしてドロシーが頑なに元の世界に戻ろうとするのかが、いまいち理解しきれない。

あたり一面灰色の大草原だ。どちらを向いても地平線まで見渡せて、木の一本、家の一軒さえありはしない。昔は耕されていた土地も、太陽に焼かれて、小さなひび割れがいくつも走る灰色のかたまりに変わっている。

あんまりハッピーそうではない。しかも、いっしょに住んでいたのも両親ではなく、にこりともしないやせぎすのおばさんと、めったに口を開かず、いつも重々しくきびしい顔つきのおじさんだ。

意地悪されているわけではなさそうだけど、ドロシーが笑うたびにびっくりして悲鳴をあげられる始末だ。

本当にそこに戻りたいの…?とつい思ってしまう。ただただ、ドロシーはむちゃくちゃに良い子なので、ちゃんと立ち直るし、勇敢にお話するし、どんなに良い待遇が約束されていてもおばさまとおじさまのところに戻ろうとするのである。

願わくば全てが灰色に覆われてしまっているドロシーがもともと住んでいた場所も、明るく穏やかで平和な世界になりますように。

脳みそのないかかしと、心をなくしたブリキのきこりと、勇気のない臆病なライオン。

不思議な出会いで仲間になる3人?だけど、もう、一緒に旅していく過程で「めっちゃかかし頭良いじゃん」「きこり、心優しすぎるのでは」「ライオン頼りになりすぎる」と、まあ、彼らが要所要所で見せ場を作ってくる。

だから、この願いのオチも、魔法の力というよりも「ここまでやってくるなかで知らないうちに欲しいものが手に入っていたんですよ」的なオチかと想像していたら、思っていたよりも登場人物が頑固で最後は力技だったのがすごくよかった。

ドロシーは最初からずっと良い子なので、彼らの成長を追うのが物語としては面白いかもしれない。

この物語のテーマは「思い込み」なのかなとも思う。

仲間たちも結局自分ではないと思っているものを最初から持っているし、ドロシーも元いたおうちに戻るために必要なものは最初から持っていた。なんでも願いを叶えてくれるエメラルドの都は、緑色のメガネをかけることでエメラルドに見せているだけ。

思い込んでしまうことが何かの足を引っ張ってしまうことや、必要以上に見せてしまうことって多々あるよなあと思うと、この物語を読みながら引っかかっていたものが少しだけ取れたような気がする。

なんでも叶えてくれるという「オズ大王」の精一杯の見栄は今の時代でも変わりなくあるだろうし、なんならうまいなあと感心してしまうくらい。

わたしと同じように名前だけは知っているけどストーリーがうろ覚えだな…って人はぜひ読んでみてください。それでよかったら感想を語り合いたいです。

けっこうぼろぼろに書かれているドロシーの故郷「カンザス」だけど、アメリカの実在する場所なんですね。

町おこしとしてむちゃくちゃに愛されているんだとか。ちょっと気になる…。




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