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脳味噌破裂するような

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脳味噌破裂するような(20)

 彼女が食器を下げてくれた。
「随分、あっちのノリに合わせた感じで話してましたね
 ……先程は」
なんてことを言いながら。

「うん」

 椅子にそのまま、深く沈み込んだ。
「執拗いからね、あいつ……
 一旦絡むと」
「そうなんですか」
「中々解放しないっていうか」
紅茶のお代わりを彼女は注いでくれた。
 そうしている内、彼女の手が白く鮮やかに光を照り返すことに気付かされた。
 ……きっと逃亡生活

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脳味噌破裂するような(19)

 鬼が、後ろ手にドアを閉めて鍵をかけながら言う。
「お前は洗脳されている」

「セン……ノウ?」

 何を言ってる? 何なんだ、こいつは?
「考えてもみろ
 お前、自分がこんなところにいるような人間だと思っているのか?
 お前にはもっとしたいことや好きなことがあった筈だろう?」

「え……?」
振り返ろうとするが、銃の気配を感じて、やめた。
 彼も引き金に指を掛けたまま。
「メイドさんだってそう

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脳味噌破裂するような(18)

 彼が、追いかけてきた。

 速い、追いつかれるまでが、早い、……嘘のように。

 人間やめたスプリンターやっているような、……音が違う。

 どうして? こいつ、陸上でもやっていたんだろうか?

 全然、はやさが……。

 彼の、気配を感じた。
「だぁぁあかああらあああっ!」
反射的に振り返り、殴りにいっていた。
――その僕を、足を止めた彼は見ていた
 楽しいのか? そんな言葉が何故か頭の中を掠

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脳味噌破裂するような(17)

 鬼の顔が現われた。
――それはドアの隙間の影から、ぬっと出てくる
 そして無遠慮な歩き方で、こちらへ近付こうとしてくる。

 金の目玉は人工の光を照り返し、鮮やかな赤が地味な部屋に映えている。……白い牙は鋭く尖り、どこか凶器めいた輝きを宿してもいる。
 拳心が硬く固まり、結局、サンドバッグでも何でも殴っていたらしいことを窺わせ、若干前傾的な姿勢でいることがいつでも攻撃的な行動を取れることを示唆し

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脳味噌破裂するような(16)

 フォールス・メモリー、偽りの記憶が錯綜し、絡み合い、解きほぐれ、そうしてまた形を変え、樹木の影を作り為す。
 それらにより編まれた道、その上を通り過ぎ、颯爽とした緑の野へ僕は抜けてゆく。
 ……きっと新しい、そのはずの光に、照らされた。

 随分、視界が薄ぼけていた。
 じっとソファに座っていると、段々、現実から遠退いてゆきたいと意識が訴えてくるから不思議なものだ。
 あたりには何もない。本はあ

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脳味噌破裂するような(15)

 発信器を振り回す彼女が、こちらの方を振り向いた。
――車に付けられていたそれだった
 アジトを脱してから程なくして、彼女によって抜き取られた。
 使い勝手がいいとか、言っていたけど……。

 あのAI車に奇妙な装置が付いていないかどうか、点検することも勿論、した。
「ハワイでも行きたい気分……」
そんなことを、彼女は呟いた。
「行きたくない」
と言うと、何故、とでも言うように彼女は小首を傾げた。

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脳味噌破裂するような(14)

 逃げる、逃げよう。どこまでも。
――メイドさんの彼女と自動運転車に乗り込んで、そして隠れるように日本中を移動し続ける
 テロの”同志”として他国の軍に捉えられないように。……警察や公安に追われないように、石を投げてくる誰かに見つからないように、また”同志”に捕まらないように、動き続けるのだ。
 それ以外に、逃れる術は無いのだから。
 苦しい日々であるだろう、しかし、食料品や衣料品の詰め込まれた

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脳味噌破裂するような(13)

 引き金に指をかけると、それから電撃が走った気がした。
――僕を撥ねつけるように、その黒い金属塊が電気を走らせるのだ
 そしてそれはまるで生きているみたいに脈動しもするのだ。手から伝わる、どこか金属的な、しかし生物のみが発するものである筈の鼓動、斬新なそれを感じながら、照準を真っ直ぐに向け、指へと屈伸運動をするように電気信号を流す。

 トリガーが鳴らす擦過音は……。

 銃を撃ち放った。

――

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脳味噌破裂するような(12)

 執拗いんだよ、御前……。

――疑う迄もなく、死す可き男

 殺す可き、彼奴めを手に掛けよう、敢えてその手を汚す迄もなく。

 先刻(さっき)、死ぬ程偉そうに口を叩いていた姿等見る陰も無くしていて、それでさっくりいってもそれ程、何だろう、惜しくない気がした、のだろうか……。
 彼の首へ飛び蹴りを繰り出すも、あと少しのところで躱されてしまう。しかし、それを見越して、二発目――腰にある銃を掏っておく

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脳味噌破裂するような(11)

 あのとき、彼が言っていた、公平なコインの理不尽どうこうといった話は矢張り間違っているのだろう。
 それにしても、有限的資源とか、燃料とか熱機関がどうとか……、そんなこと、何を言ってどうなるんだろう?

 笑みが、浮かぶ。

 どこまでも歩いてゆこうとしているかのような彼、あの男に追いつくことが出来そうだった。
 しかしながら、まだ足りない……、歩みが足りないのだ。
 より歩こうとしてゆく。
 メ

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脳味噌破裂するような(10)

 足を踏み出そうとする度、何か膜のようなものに圧されているようにも僕は感じる、……あいつに近付こうとしないかのように。
 近付きたくないと思っているかのように。
――それは何故……?
 あいつの穢れた身体を、その機能を停止させられる、終わりにさせられるんだ……。僕を閉じ込め、拘束していたあの男を。
 あるときには肌に触れてこようなぞした、仮面の男……、気持ち悪い。僕は同性愛者じゃないと断ったけれど

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脳味噌破裂するような(9)

 死ぬのは嫌だろう……、空想の銃を翳す、凛として時雨の『鮮やかな殺人』が再生される、殺害される意欲を駆り立てられるある種の自殺病患者となった彼を夢想し、幾らテロリストとして力を持っても、幾らか国際社会に影響力を持つ存在になっても、いずれは金属塊がその身体を射抜くというのなら、ヒトラーよろしくベッドで死にたいと思わない訳でもあるまい、と、ここは冷たい石の床の上だけれども。
 見る者すべてを不快にさせ

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脳味噌破裂するような(8)

 屍の転がる間だった。……異臭が放たれていた。誰も、どこにもいないといった間……、それは空間、暗いところ、日の当らない部屋。
 メイドさんと一緒に歩いてゆく。
――一歩進むごとに空気が足に纏わりつくみたいだった
 粘性的なそれが抵抗を増加させてゆき、僕の進行を遅らせようとする。
――吐く息さえ、ゆっくりと重たげに拡散してゆくかのようだ
 異臭のせい……? いいや、どうにもこれは、過去の記憶のせいで

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脳味噌破裂するような(7)

 朝、起きると、メイドさんが食事を運んできてくれていた。
「……おはようございます」
こちらを振り向かないまま彼女は言う。せめてもの反抗、なのだろうか?
 スカートから伸びる彼女の足が朝日を反射していた。
「おはよう」
と僕も答えておいた。
 ロールパン、野菜、牛乳、そういったものを口にすると、彼女が背中をさすってくれた。
 ……部屋の中でストーブが焚かれており、それによって部屋の温度が調節されて

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