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『壊れた美学』

『壊れた美学』 No.075

廃墟となったビルをじっと見上げる一人の男
高校にも行かず、現場の仕事ばかりして生きてきた
25歳で独立し、15年解体屋を経営してきたが資金繰りが上手くいかず、遂に倒産
荒れ果てた事務所に戻り、荷物の整理をする
デスクの奥からダンプカーの玩具と知恵の輪が出てきた
ここで息子と遊んだ記憶が込み上げてくる
ひとときの思い出をバーボンで流し去った…
知恵の輪を取り出し、カチャカチャと音を鳴らす
暫くいじっていると、スッと二つの輪が偶然外れた
その時、男の中に埋もれていた何かが湧き上がってきた
電球、棚、机、コピー機、Wi-Fi、エアコン、掃除機、インパクトドライバー…
目に付くモノをひたすらバラしていく
若い頃のように“順序良くにキレイに壊す”ことの喜びに、再び快感を覚え始めていた
そして、芽生えた自らの美学を追求するため、車で街に向かった…

裏路地に車を止めタバコをふかしていると、バックミラーに若い男と一人の女が映る
若い男は女に詰め寄り、腕を抑え、明らかに脅していた
俺は黒のキャップを深くかぶり直し、助手席に積んだ腰袋を手に車を降りた
二人に近づくと、男が威勢よく絡んでくる
女はその隙に男の腕を振りほどき、走り去った
殴りかかってくる拳をかわし、腰に下げたバールで相手の脛に一撃を加える
声も出ずにうずくまる若い男の頭に、俺は素早くもう一撃食らわせた
気を失った男の口、腕、傷口にガムテープを巻き付け、トランクに放り込んだ…

濡らしたタオルで血の付いた男の顔を拭いていると、意識が戻り始めた
若い男は怒りに満ちた表情で拘束を解こうとあがいている
俺は“おとなしくしてろ”と言いながら、こいつが持っていた銃を額に突き付けた
ここは街の外れの廃ビルだから叫んでもムダだと告げると、徐々におとなしくなった
だが、次の俺の一言で、男は完全な恐怖に支配される
“安心しな、キレイにバラしてやるからよ”
そう言って俺は銃を置き、電動ノコギリに持ち替えた…


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