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「在宅テレワーク」インサイトの全体像➃価値マップ

前回は2つのキーインサイト、そのうちの特に「オンオフ分離派なのでつらい」を中心に説明しました。
もちろん、107,993件の在宅テレワーク関連ツイート(検索ワード:家で 仕事)からいきなり2つのキーインサイトが出てきたわけではなく、インサイト解析の作業フローに沿って価値マップを作成し、その結果得られたものです。

SNSインサイト解析の作業フロー
❶検索ワードの決定とツイートの取得
❷スパムや重複ツイート、アフィリエイトなどの削除~有効ツイート
❸コンシューマーインサイト素材テキスト抽出(500~3,000テキスト程度)
❹欲求カード化(約80枚)
❺価値マップ作成


例えばグループインタビュー調査とグループダイナミクスのリスク


キーインサイトを求める時に、分析材料の偏りは気になるところです。
例えば、グループインタビュー調査で、当該市場との関係が薄いライトユーザーやノンユーザーを集めて話を聞くというのは効率的ではありません。男女も若い人も高齢者も聞いておきたいが費用的にもなかなかたいへんなので、調査テーマにも人選にも焦点を当てた、フォーカスグループインタビュー調査(FGI)になるわけです。

フォーカスグループインタビュー調査では出席者交互の作用による効果、グループダイナミクスの活用がよく言われます。しかし私は調査グループ数によってグループダイナミクスの比重を変えます。2グループならば、そうですね、感覚的には1、2割くらい、4グループでも2、3割しかグループダイナミクスに時間を割きません。というのは、グループで盛り上がっていく方向が偏りを生むからです。

グループダイナミクスを重視するアメリカ企業のグループインタビュー調査を見て、なるほどと得心したのは調査グループ数の多さです。例えば男性20代のグループなどグループインタビューの単位は最低2セット、仮りに男女それぞれ3世代だと、男女2×3世代の2セットで12グループ、これを代表的な州別に調査していくわけです。数十件以上のグループインタビュー調査になります。
それであれば、グループダイナミクスの結果も数十種類ですから、一定の不偏性を担保できます。

日本では、例えば男女各1グループの2グループ、男女×若年層と中年層で4グループ、それくらいの実施が多いように思います。このグループ数で、それぞれのグループダイナミクスに比重を置きすぎると偏りのリスクが生じます。オンラインでのグループインタビューでも同様です。
日本はライフスタイルなどの同一性が強いので、同じ対象2セットの担保をしない面もあります。

エスノグラフィー調査材料としてのツイッターの魅力は「網羅性」

SNSインサイト解析の最も有効な場面は、最初の仮説探索時です。
調査(リサーチ)の位置づけでは、エスノグラフィーの一つです。

エスノグラフィー(行動観察調査)とは、定性調査の一種であり、顧客の生活環境に調査員が身を置いて顧客と行動を共にすることで、顧客のことを深く知る調査手法をいいます。エスノグラフィーはギリシア語のethnos(民族)、graphein(記述)に由来し、もともとは文化人類学や民族学の分野で主に用いられてきた研究手法でした。調査対象となる民族の文化を解き明かすことを目的として、その土地の風習、行動様式などを詳細に記録するのです。
インタビューやアンケートでは顧客の顕在化したニーズについて直接伺うことができますが、エスノグラフィーでは被験者の日常の行動や何気ない言動を観察する中で、潜在ニーズを探り、意思決定に至るまでの過程を把握することを目的として行われます。
               (株式会社ネオマーケティングHPより)

エスノグラフィーで最初の仮説(インサイト)を発見し、
a. そのインサイトをもっと掘り下げたい、具体例を収集したい【定性調査】
b. インサイトを定量的に計りたい、ターゲット分布を知りたい
定量調査
c. インサイトからアイデアを出し、アイデアの評価を得たい
定量調査
など次段階の調査に進んでいきます。

最初の仮説探しの段階では、消費者の欲求を潜在ニーズも含めて幅広くとらえられていることがとても大切です。資料が少なすぎたり、偏りがあると、得られた仮説が十分なものであるかの疑いが生じます。
前段で、グループインタビュー調査のグループダイナミクスに触れた理由はそこにあります。エスノグラフィーは、何か尋ねたり、外から刺激を与えるのではなく、対象者(生活者)の側でひたすら観察をすることを主眼としています。

SNSインサイト解析の主材料であるツイッターは、自発性アンバイアス性もさることながら、もう一つの特長「網羅性」が、偏りのなさに貢献しています。

4500万人といわれるアクティブユーザーが、フォロワーのツイートを眺める、RTする、そして自分のつぶやきを投稿する。私はこう思う、こうした。この「タイムラインを見る、RTする、つぶやく」の行動の流れの中に、他の人とは違う角度、自分なりのとらえ方が表出される仕組みを持っています。どんどん違う角度のツイートが足されていくわけです。

「在宅テレワーク」のインサイトの世界【価値マップ】の使い方

今回のレポートでは、11万余のツイートから「オンオフ分離派なのでつらい」と「楽になった。これからも」の2つのキーインサイトが得られたと報告しました。

もちろん、107,793ツイート⇒2つのキーインサイトではありません。
下の図、価値マップが「在宅テレワーク」のインサイト全体です。
   (画面の小さい方は、初回から前回まで部分ごとに説明しています)

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キーインサイトの絞り込みは分析者によるものですから、この図の各カードから、自分自身の着目、自社の事業の領域からキーインサイトを選択していいのです。

健康関連事業なら「運動不足」、「体重が2キロ増えた」かもしれませんし、「リビングの机低くて腰を痛める」に着目することもあるでしょう。
その際にも私たちが提示したキーインサイトは参考になるります。「オンオフ分離派」の運動不足ならば、ターゲット生活者は、オンをできれば家に持ち込みたくないわけですから「オフ×健康」提案の方が高い可能性を感じます。

SNSインサイト解析の次段階として、さらにオフ×健康」のキーインサイトを求めて行くことも有効です。

このレポートは、「在宅テレワーク」という社会的に大きいテーマを概観するために、1ヶ月間で10万余のツイートを材料にしています。
ふだんのSNSインサイト解析業務では、目的や求めたい課題を明確にして検索ワードを設定、3千~5千くらいのツイート数のカテゴリーに絞り込むことが多いです。例えばそれは、「旅行」のインサイトと「夏休みの電車での家族旅行」のインサイトの違いになります。

「在宅テレワーク」のインサイトレポートはこれで終了の予定でしたが、在宅テレワークがもたらす新市場について、また地方移住やワーケーションとの関係について整理した付録が付きました。

この章で初めてインサイト解析に触れた方は、コロナ禍での美容化粧品ジャンルへの影響を調べた「マスクとメイク」のインサイト全6回もぜひご覧下さい。いずれも短文です。各章の終わりの下線をクリックすれば次の章に飛ぶことができます。
(金、富樫)

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