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なぜプロジェクトマネジメントが機能しないのか 45 アジャイルの条件③

日本で最初の民間シンクタンクで、プロジェクトマネジメントのコンサルタントとして、ある時はPМ、ある時はPМОとして、お客様と問題解決に取り組んでいます。本記事では、まだPМBОKには書かれていない暗黙知を言語化し、形式知としてお伝えすることにチャレンジしてみようと思います
マガジン:https://note.com/think_think_ab/m/m0e070db46016

第43回と44回では、アジャイルについて
・予測可能性が低く、変化可能性が高い場合、全体QCDはバランスし難い
・そのため、スプリント単位のQCDバランスを繰り返すアジャイルは有効
・であるが、逆にアジャイルは全体CDバランスにコミットする概念がない
と述べ、

変化要素の所在(外部 or 内部)については、
・変化要素が内部の場合、プロジェクトマネジメントを機能させることで、
 予測可能性を高め、変化可能性を低められる可能性が十分にあるため、
 アジャイルを採用して自らQCDバランスを放棄しないよう注意が必要。
と述べました。

では、
内部の変化要素とは具体的などのようなもので、
どのように対処すればよいのしょうか。

内部の変化要素

内部の変化要素のうち、
不確実性との観点で、最も扱いの悩ましい変化要素は「実現性」です。

実現性」には、
 単純な技術的な組み合わせ要素や、部門跨りデータの整合や利用許可が
 含まれ、主に開発部門が主体となる作業になります。

実は、
実現性確認は、
本来、要件定義工程の中に暗黙的に含まれます(*)が、
後述の理由で、要件定義ではなく設計工程に先送りされることがあります。

*:要件定義の意味と実現性確認
  要件定義はスコープ(タスクの全量)を確定する工程です。
  スコープ(タスクの全量)の確定には、要件 制約 の調整、
  言い換えれば、やりたいこと できないことの整合が必要となります
  実現性確認は、制約(できないこと)を明らかにするタスクのため、
  本来は要件定義工程に含まれます。

実現性確認が先送りされる理由

要件定義はユーザ主体との思い込み
要件定義はユーザが主体で、開発部門は深く関わらない。
よって、開発部門主体の実現性確認は設計工程で実施する。との思い込み

組織の脆弱性(全体メリットよりも部門メリットを優先)
実現性確認は要件が固まった後に実施したいという、
全体メリットよりも部門メリットを優先する組織的な脆弱性による不作為。

ウォーターフォールモデルの曖昧さ
ウォーターフォールの要件定義は、要件を決定する工程として定義されているが、実現性確認が含まれていることは明確に定義されていない。

すなわち、
内部の変化要素で最も扱いの悩ましい実現性で、
その実現性に対する対策であるはずの実現性確認
組織の脆弱性による不作為が原因で放置され、先送りされてしまうのです。

結果的に、
要件定義工程以降も新たな制約による要件の見直しや調整が必要となり、
スコープクリーピング(なかなか決まらない状態)に陥ってしまうのです。

このような 不作為による内部の変化要素 に対しては、
本来の実施すべきタイミングで 実現性確認 をすることで対処すべきです。

こうした可能性を踏まえ、繰り返しになりますが、
アジャイル採用にあたっては、変化要素が外部か、内部かについて、
丁寧に見極めて、開発モデルを検討することをお勧めします。
(変化要素が外部の場合は、アジャイルはとても有効です)

外部と内部

上述の最後で変化要素の外部と内部を扱いましたが、
実は、外部と内部の境界線は、2種類あります。

ひとつは、
開発部門とユーザ部門の間にある境界線です。
開発部門にとっての外部と内部は、
ユーザ部門にとっての外部と内部と異なります。
(開発部門からみるとユーザ部門は外部になります)

もうひとつは、
プロジェクト全体とプロジェクトの外側にある境界線です。
この場合は、開発部門とユーザ部門にとっての外部と内部は一致します。

開発モデル採用にあたり、変化要素が外部か内部かは、
後者で判断すべきですが、アジャイルは開発部門にその出自があるため、
混乱しないよう、あらかじめ言葉の整理が必要です。

組織的な不作為とアジャイル

補足ですが、
アジャイルはユーザ部門・開発部門を含むプロジェクトメンバー全体の
高い主体性と熱量、高いコミュニケーション力が前提のため、

前述のような変化要素が内部の
いわゆる縦割り組織の脆弱性が原因による不作為が原因の場合、

以下のような縦割り組織の特徴によって、
アジャイルそのものが機能しない場合があります。

<縦割り組織の特徴>
コミュニケーションの障壁
  縦割り組織の部門間コミュニケーションの制限は、
 アジャイルの透明性とオープンコミュニケーションの要求と衝突します。
・柔軟性の欠如
 
縦割り組織の柔軟性不足は、アジャイルの迅速変更対応と相容れません。
・意思決定の遅延
 
縦割り組織の遅い意思決定は、アジャイルの迅速な決定にと矛盾します。
・責任と所有権の不明確さ
 
縦割り組織の責任の不明瞭さは、アジャイルの責任重視と相反します。

そういう意味で、アジャイルは
外部の変化要素に対しては有効ですが、

内部の変化要素に対しては、変化要素の原因を踏まえ、
アジャイルの採用で、本当に想定する問題が解決できるのか、
一度、立ち止まっての検討が必要かもしれません。

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