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戦前の雑誌の寄贈雑誌・図書欄の大切さー論文「島本一『考古雑筆』とその誌友」を読む

 最近以下の「島本一『考古雑筆』とその誌友」黒岩康博(史文 = Tenri historical review(23)、2021年3月)という論文を読んだが、非常におもしろかった。内容を簡単にまとめると、奈良県の島本一という人物が発行していた雑誌『考古雑筆』の全巻目次、書物交換録(いわゆる寄贈雑誌・図書欄)、掲載されている日記部分が翻刻され、雑誌の発行動機や内容が紹介されている。詳細はぜひ本文を読んで欲しい。

特に私にとって興味深かったのは寄贈雑誌・図書欄や日記部分から『考古雑筆』の流通範囲や島本との関係性が分析されている点である。この論文によれば、島本は柳田国男澤田四郎作をはじめ『芳賀郡土俗研究会会報』を発行していた栃木県逆川村の高橋勝利、佐渡の郷土研究者・青柳秀雄『日向郷土志資料』(注1)を発行していた宮崎の日野巌など遠方の地域の研究者とも交流があったようである。これは私が度々紹介している初期の民俗学における地域ー地域の研究者の交流の一例であるため、非常におもしろかった。

 このように当時の研究ネットワークを検討するという観点から寄贈雑誌・図書欄は貴重である。しかしながら、この論文によれば、民俗学関連の雑誌が後年復刻される際に寄贈雑誌・図書欄が削除される場合があるという。私も加賀紫水の編集していた雑誌『土の香』で最近寄贈雑誌・図書の一覧を調べて以下のように紹介している。このような取り組みの蓄積が必要かと思われるので、今後復刻する雑誌があれば削除すべき部分ではないだろう。

寄贈雑誌・図書の欄のイメージが難しい方々向けに家蔵の『土の香』第13巻第1号(土俗趣味社、1934年8月)のこの欄を一例として以下に紹介しておきたい。ここから『土の香』がどのような人々に読まれており、加賀がどのような人々と交流があったかが分かるだろう。

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 私の場合、この欄から未知の雑誌、本の情報を得ることも多い。未知の雑誌を知って国会図書館サーチや日本の古本屋で調べて場合によっては購入してみる。そして、その雑誌の寄贈雑誌・図書欄を確認してまた未知の雑誌を探すという調査サイクルができつつある。このように自分の関心のあるジャンルの古本、雑誌の読書案内としても活用できる。例えば、私は上記の写真の欄から『志豆波多』という静岡で発行された雑誌を知り、調べて購入することにした。雑誌寄贈雑誌・図書欄は情報の宝庫である。

(注1)『日向郷土志資料』に関しては以下のWebページが詳しい。

(2022/2/9追記)『考古雑筆』は澤田四郎作にも送られていたが、大阪大谷大学の澤田文庫をOPACITY で検索したところこの雑誌の1, 2, 3, 6巻が所蔵されているようだ。

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