コーヒーと音楽 Vol.29
Miles Davis Quintet - It Never Entered My Mind
音楽はいつも同じ音とは限らない。過去に聴いてしっくりこなかった曲が、時を経て琴線に触れることがあります。全く別物の音楽に変貌する。それは音楽が変わったのではなくて、聴き手が変わったからなのかもしれません。
この眠っていたレコードをかけた瞬間に胸が締め付けられてしまいました。泣きたい気持ちになるのに涙は出ない、あの感覚です。美しい曲。
今回紹介するのは、Miles DavisのIt Never Entered My Mindです。1956年に録音されたWorkin' with the Miles Davis Quintetというアルバムの1曲目に収録されています。
トランペットはMiles Davis。テナーサックスはJohn Coltrane。ピアノはRed Garland。ベースにPaul Chambers。ドラムスにPhilly Joe Jones。
とこんな風に知ったかぶって紹介していますが、正直に言うと僕はJazzに関しては初心者です。今までに聴いてきた音楽は圧倒的にロック畑のもの。それでもJazz好きな友人の影響もあって、少しずつレコードを買っては聴きを少しずつ重ねてきました。
そして今、やっと人生がJazzに追いついてきた感があります。やっと自分が近くに感じられる音楽にJazzが入ってきたのです。今まではカッコつけて聴いていたところがあるのも否めませんでした。やっと自然に受け入れられるようになってきた。
人生も折り返し地点ぐらいの年齢となり、悩みや辛さを抱えて生きている心の隙間にJazzは忍び込んできます。そして染み渡ってゆく。
それでは、今日の曲を聴いてみましょう。
Red Garlandの優しいけれど芯のあるピアノ。そこにMilesの語るようなトランペットが入ってきます。
この音楽を聴いていると、目を開けているのに、焦点はどこにも定まらなくなります。気持ちは目の前にはない。別のところに置かれる。それは過去かもしれないし、今自分がいるところとは別の特別な場所かもしれない。そして、しばしばその場所に浸っていたくなるのです。
この曲の作曲者はRichard Rodgers(写真で座っている方)。名前だけ聞くとピンとこないかもしれませんが、ミュージカル映画「サウンド・オブ・ミュージック」の音楽担当と言われれば、馴染みがあるのではないでしょうか。誰もが知っているエーデルワイスの作曲者も彼。
彼の名前はどこかで最近見たなと思ったら、Nina SimoneのLittle Girl Blueについて調べているときだったのを思い出しました。
Nina SimoneのLittle Girl Blueが大好きで、オリジナルの作曲者を調べたら、Richard Rodgersだったんです。もうそのつながりだけでも、Richard Rodgersは特別な作曲家になってしまいました。
It Never Entered My Mind。
こんな風になるなんて、これっぽっちも思っても見なかった。
とでも訳しましょうか。
こんな音楽にはやっぱりコーヒーが合います。物思いに耽りながら、苦味、酸味、甘みを感じるコーヒーをゆっくりと飲む。そして空に目を見やれば、すべての感情が愛おしくなるのです。
雲間から地上に光が差し込む光景は見てきましたが、昨日は光が空に向かっていました。手を思いっきり伸ばしているみたい。大きく手を広げて掴み取ろう。
木曜日。自分の大切にするメロディを胸に、今日も良い1日を!
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