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念願のハノイのほいさんよりも感動が強かった大判焼き屋

3月3日ひな祭りの日。何をするわけでもないが、そういえば昔は祖母の家でひな人形をフルで並べていた。
ふとひな祭りの歌が頭を流れる。数年ぶりに思い出したが、幼少期から実は歌詞が曖昧な部分があったのだが、大人になってもググるでもなくひたすら曖昧にしていた箇所があった。それは一番の歌詞の3行目、「五人ばやし」だ。

あかりをつけましょ ぼんぼりに
お花をあげましょ 桃の花
五人ばやしの 笛太鼓
今日はたのしい ひなまつり

「ごにんばやし」だったか、「ぎょうにんばやし」だったか。幼少期からこれまで、「ご」と「ぎょ」の中間くらいの発音であやふやに歌ってきたが、最近「ごにん」が正解だと知った。確実に幼稚園などで学んだと思うが、なぜか記憶が定着しておらず、大人になった今再度学び直した。これもリスキリングと言って良いだろうか。
しかし問題なのはそのあとに続く「笛太鼓」であった。私は自信をもって「末太鼓(すえだいこ)」と歌っていたのだが、実は「笛太鼓(ふえだいこ)」だと知った。家で何気なく歌っていると夫から「え?」と指摘されてしまった。青天の霹靂だった。
「5人並んだ中に、笛を持ってるやついるじゃん」と至極まっとうな正論を振りかざされた。ぐうの音も出ない、と言いたいところだが、
①そもそも笛なんてもってるやついたっけ、というくらいにひな人形メンバーが記憶されておらず、
②5人だか行人だかわからないけれど、とにかく何人かひな人形兄弟がいて、そのうちの末っ子を「末太鼓」と呼ぶのだと思っており、自分の中で話の筋は通っていたため、ぐうの音は多少出させてもらった。私なりの論理を説明すると、夫は「ほお…」と一瞬感心したように思われたが、それよりもなぜこんなに歌詞を変に記憶しているのか、という点に執着しかけたので、ひな祭りの歌に関する話は終わらせることにした。と同時にこれ以上ここに書き記しても常識のなさを露呈してしまうだけなので、この話はここまでにしようと思う。

そんなこんなで迎えた3月3日、夜に東京の中野で所用があった。それまでにさくっとご飯を食べる必要があったのだが、ご飯は前日の夜からここだと決めていた。
ベトナム料理屋「ハノイのほいさん」。
数年前から食べログで保存していたこのお店、いったい何で知ったのか忘れてしまったが、とにかく中野に行く機会があったら絶対に訪れたかったお店のひとつだ。クーポンを確認すると「パクチー大盛無料」とあるではないか。楽園か。と誇張しすぎるくらいに舞い上がって、当日急ぎ足でお店へむかった。

お店は中野駅北口を出て、商店街を突っ走り、程よいタイミングで右に曲がっていくと飲み屋街に現れる。このあたりはこじんまりしたお店が多く、どれも気になる。また別の機会に飲み歩きにもこよう。
18時頃お店に到着すると、店内は半分くらいの埋まり具合だった。席に着くと慌ただしくメニュー表を開き、定番のシンプルな鶏のフォーを注文。時間がなかったので到着して即いただきます。おいしい。特に麺がもちもちだ。お皿一杯に広がるパクチーも最高だ。ゆっくり味わいたかったが、ものの10分で食事を終えた。時間があればベトナムスイーツ、チェーなども押し込みたかったが、諦めて予定の場所へと向かった。

駅前につくと、商店街の入り口に何やら行列ができている。大判焼きのお店、「れふ亭」だ。すぐさま自分のスイーツレーダーが反応し、「食べ歩きしながら予定の場所へ向かうことで、スイーツが食べたいという自分の気持ちと、急いで予定の場所に向かわなければならないという状況の二つともを一気に解決できるではないか」という謎の論理を脳内で展開した。すぐさま列に並ぶも、現金しか支払えないこと、そして小銭を持っていなかったことを思い出した。ここで早速謎の論理は崩壊し、列を離れ急いで近くのATMに駆け込むという時間のロスが発生した。時間がない中でも、お金をおろしてでも食べたい大判焼きって何なんだろう。しかしあの行列が私を確信させたのだ、絶対おいしいから食べなければ、と。
ATMでお金を引き出し始めてから気がついた。小銭はないけどお札は入っていたのだ。「おい」と突っ込みを入れるしかなかった。せかしても仕方のないATMに対し、早く仕事を終わらせてよ、とむなしいプッシュをかけた。
無駄にお札を引き出して時間をロスしてしまった。一目散にお店へと向かう。さっきの列が進んでいる。自分の後ろに並んでいた人は結構前のほうに進んでいる。悔しいが回転が速そうなので、何を食べようかとメニューを見る。
選んだのは、チーズ入りあんこ。自分の前に並んでいた人も頼んでいたが、決して真似したわけではないからな、その人が注文する前から心に決めていたんだからな、と誰に伝えたいのかわからない感情を心の中で叫ぶ。

受け取った大判焼きはほかほかで柔らかい。「松」と刻印がおされている。まだまだ寒い3月初旬に、この後もがんばってね、と言われているような温かさを感じた。

歩きながらさっそくほおばる。なにこれ、おいしい。クリームチーズと餡子が口の中で絡み合い、最高のマリアージュを生み出す。大判焼きなんて何年ぶりに食べたのかわからないけれど、人生で食べた大判焼きの中で一番おいしいと思った。他の味も気になるけど、また来たらきっとチーズ入りあんこを頼んでしまいそうだ。そのくらい、最高だったのだ。

数年間恋焦がれていたハノイのほいさん、おいしかったのは言うまでもないが、思いがけず駅前の大判焼きやと出会えたことが、この日の大きな収穫であった。ふとした出会いっていいよな、と思いながら、またも大判焼きを秒速で食べ終わり、足早に予定の場所へと向かった。今度ゆっくり中野を探索してみよう。新しい出会いに期待を膨らませながら。




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