ビジネスと人権。企業経営と人権尊重はどのように結び付くのか。海外、国内最新動向と求められる対応。銀行は投融資先の対応まで、気を配る必要がある!【オウルズコンサルティンググループ 矢守亜夕美さん解説】
「ビジネスと人権」を巡る関心が急速に高まっています。そもそも、企業経営と“人権尊重”は、どう結び付くのか。オウルズコンサルティンググループの矢守亜夕美さんに海外、国内の最新動向などを金融機関に求められる対応を含めて解説してもらいました。
矢守さんは「企業経営やビジネスにおいて『人権』がトップアジェンダとなる大きなうねりが世界的に加速している」と指摘します。人権リスクの顕在化は深刻な影響を招くほか、EUでは罰則付きのルールが成立しており、企業や金融機関は「人権デューデリジェンスなどの人権への取り組みが求められる」と解説します。(金融ジャーナル編集部。2024年8月号第Ⅰ特集「ビジネスと人権 銀行経営に必要な視点」掲載。肩書き・数字等は掲載時点)
今、世界の関心は“Social”に集まる
①欧州や米国では企業経営やビジネスで「人権」がトップアジェンダになっている➁日本企業は関心が“環境”に偏重していたが、大手芸能事務所の性加害問題で意識は急速に高まった
——「ビジネスと人権」の重要性は、近年どれくらい高まっているのでしょうか。
企業経営やビジネスにおいて「人権」がトップアジェンダとなる大きなうねりが、世界的に加速している。特に欧州や米国ではそれが顕著だ。ここ数年で潮目が大きく変わったきっかけの1つは、中国の新疆ウイグル自治区での強制労働に対する批判の強まりだろう。
それを受けて、米国が2021年12月にウイグル強制労働防止法(UFLPA)を制定し、新疆ウイグル自治区の関連産品について一定条件(強制労働の不存在の立証など)を満たさない限り、米国内に輸入することを禁止した。
2022年6月の同法施行では、輸入業者へ、①サプライチェーンの追跡やマネジメント ②デューデリジェンス(DD)の実施を求め、対応を迫られたグローバル企業は多かった。
——日本企業の「人権」への対応状況をどのように見ていますか。
新疆ウイグル自治区での問題では、複数の日本企業が下請け先で「強制労働使用の疑いがある」として名前が挙がるなど直接的な影響が出ている。
これまで日本企業はSDGsやESGの領域に積極的に取り組んできたが、海と山に囲まれた地理的な要因もあり、気候変動や環境への対応が中心だったと言える。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に賛同する日本企業の多さもその一例だ。
その一方で、関心が環境へ“偏重”していると見られているのも事実で、
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