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トントさんは何を間違えたのか?『ローン・レンジャー(2013年)』


 はーい、テツガク肯定です。

 『ローン・レンジャー(2013年)』のネタバレ全開です。
 苦手な方はお戻りください。




 トントさんは何を間違えたのか?



 冒頭、マスクの少年とのやり取りです。

 1933年、サンフランシスコの遊園地にて。
 遊びに来たマスクの少年に老いたトントさんは言います。
 (引用の台詞は吹き替え版のです)



 キモサベ?


 突然動き、さらに喋る展示物に驚く少年。


 馬は連れてきたか?

 と続けると。


 相手を間違えてんじゃない?

 そうマスクの少年に返されると。


 間違い?

 何やら複雑な表情です。
 悲しそうで、何か覚えがありそうで。
 なんとも言い難い表情です。

 それから、マスクを取った少年に。
 老いたトントさんは言います。



 マスクを外してはいかん


 そこから、1869年、『ローン・レンジャー』の話が始まります。

 何度か観ると、この始まりが気になりました。
 いったい、トントさんは何を間違えた。
 あるいは、何を思い出したのか?

 私はそれが1869年にあると思いました。
 映画の32分頃に登場する、白い馬。



 死者を迎えに来てるのさ

 とダン・リードは言います。(主人公、ジョン・リードの兄)

 その後、裏切りと待ち伏せによって。
 テキサス・レンジャーの兄と部下6人は死にます。
 (弟、ジョン・リードは助かります)



 ダン、彼は死んだ

 そう言い、老いたトントさんは頭の上の鳥に餌を与え始めます。
 すると、マスクの少年は――。



 ねえ、餌やるのやめてくれないかな
 もう生きてないんだから

 それにトントさんは。


 精霊が戻るのを待っている
 死とはまた違う

 それから、昔話に戻り。
 トントさんは、死んだ6人と倒れているジョンさんを埋葬します。
 そこに、さきほどの白い馬、聖なる馬が来ます。
 弟のジョン・リードのもとに。白い帽子をくわえて。


 それを見たトントさんは言います。



 違う、そいつじゃない
 間違わないでくれ

 そして、聖なる馬を兄のもとへ連れて行きます。


 彼だ、偉大なる戦士

 ですが、馬は弟のもとへ戻ります。
 もう一度、兄のもとへ連れて行っても。
 やはり、弟のもとへ戻りました。


 強い兄の方だ
 彼を呼び戻してくれ

 トントさんの願いも虚しく。

 その後、目が覚めたジョンさんにトントさんは説明します。


 馬はお前を
 スピリット・ウォーカーだと

 一度あちらの世界にいって
 また戻った

 戦いで――
 死ぬことのない男だと

 これらの場面と設定を整理しますと。
 白い馬、聖なる馬は死者を迎えに来るらしい。
 字幕より吹き替え版の台詞が重要です。
 
 字幕では、『死者をあの世へ運ぶ』ですが。
 吹き替え版では、死者を迎えに来た。
 愚かな私なりに解釈をすれば。

 あの世へ行った死者を。
 再びこの世へ迎えに来る。
 そういう聖なる馬。

 そう解釈もできます。
 とにかく、聖なる馬がいました。


 それで、トントさんはマスクの少年になんと言ったか?


 キモサベ?

 これも重要ですが、その次に言った。


 馬は連れてきたか?

 どんな馬とは言っていませんが。
 この馬が白い馬、聖なる馬だとしたら?

 そして、マスクの少年の返事。


 相手を間違えてんじゃない?

 その一言で、さきほどの場面が過ったとしたら?
 聖なる馬が自分を迎えに来たと思ったら違った、昔のように。

 兄を呼び戻してほしかったのに。
 聖なる馬が選んだのは弟。

 今回も違ったのか、と。
 だから、複雑な表情で……。



 あるいは、逆かもしれません。

 トントさんが言った。


 精霊(魂)が戻るのを待っている
 死とはまた違う

 この精霊(魂)は不死の何か。
 生死とは全く違う概念のよう何か。
 今の私にはなんとなく、そんな気がします。

 ですから、トントさんはあの白い馬を待っていたわけではなくて。
 その白い馬に選ばれた、スピリット・ウォーカーを待っていた。
 そして、ついにキモサベを見つけた……。

 キモサベ


 吹き替え版では兄貴がよかった。
 字幕では劣った弟。

 そうこの映画のトントさんは言いますが。
 私が調べたところ、キモサベは。

 信頼のおける友人


 とありました。


 どちらの意味にせよ。
 おそらく初対面の少年をキモサベと呼ぶほど。
 映画のトントさんは。
 礼儀知らずでもなければ、友好的な人にも思えません。

 節度があり、誰を頼ればいいか知っている。

 タイトルのトントさんは何を間違えたのか?

 それに自分でこう答えるのも変ですが。
 トントさんは何も間違えていません。

 たしかに、マスクの少年はキモサベ。
 信頼のおける友人。

 その精霊が戻ってきた。
 懐かしの昔話が今に戻ってきた。
 今は昔と。

 最後の方で、家に帰ろうとした少年は訊ねます。


マスクの少年
 ねぇ、ウィンディゴとか自然界の秩序とか
 マスクマンとか――全部作り話だよね?

 ローン・レンジャーなんていない
 そうでしょ?

老いたトントさん
 君次第だ、キモサベ

 そう言い、銀の弾丸を少年に渡し。
 それをマジマジと眺める少年が顔を上げると。
 老いたトントさんは消えていました。


 かわりに、鴉が現れ、飛び立って行きました。

 展示物だった老いたトントさんは消え。
 その頭の上にいた鳥、それに似た鴉が現れた。
 その後、キモサベが言ったのは……。


 マスクを外しちゃいけない

 それから……


 ハイヨー、シルバー! ウェーイ!

 と。



 なぜ、トントさんが消えたのか。
 なんとなくですが、精霊(魂)が戻ってきたから。
 あの謎めいた少年こそ、ローン・レンジャーって精霊を信じる。
 正真正銘のスピリット・ウォーカー。

 なーんて、テキトウなことを言いましたが。
 この謎の少年はこの映画を観た人、その象徴のような人物に思えます。
 ですから、ローン・レンジャーでもキャプテン・ジャック・スパロウでもなんでも。

 物語って精霊は死なない。
 ITがペニーワイズとして戻ってくるかは。
 君次第だが。

 という具合の夢のある映画だと私は思いました。
 実は、そう思う理由がこの映画にはもう一つあります。
 それはまた別の機会に。

 

  

  
 

 それでは、また次の機会にお会いしましょう。










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