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新人広報PRパーソンへ、PRストラテジストが伝えたい5つのこと

ようこそ、PRの世界へ!
新年度を迎え、新たに広報PRの仕事に就いた人も多いのではないだろうか。

PRの仕事は大変なことが多いけれども、同時にとても面白くてエキサイティングなのが醍醐味。僕はPRの専門家として、「X」(旧Twitter)でもよくPRについて投稿している。今回はその中でも過去に反応のよかった投稿を取り上げ、PRの仕事とはどうあるべきなのか解説してみよう。

この春からの新人PRパーソンだけでなく、(その上司や先輩になるであろう)バリバリと仕事をこなしている現役PRパーソンや、広報・PRの力をビジネスに役立てたいと考えている経営者や事業責任者の皆さんにも、参考にしてもらえたら嬉しい限りだ。


⒈ まず肝に銘じよ

スタートアップ広報の皆に告ぐ。メディアが興味あるのは、あなたの会社やプロダクトじゃない。そこから見える「世相」だ。だからとにもかくにも、こういう世の中だから我々の出番なんですという分脈を考えよ。サービスブランド認知は、タクシー広告にでも任せておけ。

広報PRの仕事を始める人は、やることが沢山あることにビックリするだろう。プレスリリースはどう書いたらいいのか、メディアの人とどう話をすればいいのか。最初はやり方も分からないだろうから、実践で徐々に覚えていかなければならない。

一方で、そのような目先の“やらなければならない作業”に溺れてしまうのは避けてほしいとも思う。これは、そもそものPR発想を肝に銘じて仕事をしてほしいという願いからの投稿だ。

特にスタートアップ系の広報PRにありがちなのが、自分の会社やブランドを世の中に知らしめようとして、メディアに対してプレリリースや資料の押し売り状態というケース。もちろん、その気持ちもわかる。

しかし残念ながら大抵の場合、メディアは会社や商品にそれほど興味はない。メディアは、その会社や商品から世の中の「何が見えるか」に関心があるからこそニュースとして取り上げるからだ。Appleのように、やることなすこと注目されるような企業は世界にいくつもない。

広報PRの醍醐味は逆算でアプローチを仕掛けること。◯◯という社会的背景から我々のサービスがいま開発された、我々のプロジェクトがいま◯◯という課題を解決しようとしている、といった引きの視点が大切になる。文脈を考えてからメディアにアプローチするのが大事なスタンスだ。

知られてない会社やブランドを世の中に認知させることは非常に重要なことだ。けれども認知だけだったら「広告」というやり方がある。役割論でいくと、プロダクト名や企業名を認知させるには、真正面から広告を打ったほうが圧倒的に認知の広がりが速いこともある。

まずは文脈を考えよ。PRパーソンは肝に銘じてほしい。

⒉ PRパーソンとしての成長の分かれ目

PRはマーケティングとメディアの越境地域なのだから、PRパーソンの価値向上はそこにある。マーケティング(事業目的)を理解し、ジャーナリズム(報道目的)を理解する。マーケ勉強して自分でもnoteで記事書くとかね。マーケッターや記者と対等に話せるPRパーソンになるか、単なるパブ屋さんになるか。

PRの仕事を始めて四半世紀以上が経つ。これまで数多くのPRパーソンを見てきたし一緒に仕事もしてきた。しかし、PRパーソンとしてあるレベルに到達してる人と、そうではない人の違いをシビアに感じることがある。

PRパーソンとしてレベルアップするのにはいくつか要因があるが、この投稿に書いたことはその一つだと思ってほしい。

PRは、企業のマーケティング(事業目的)とメディアのジャーナリズム(報道目的)の間に立つ仕事でもある。PRパーソンは、会社はこういう事業目的を持っているから、こういうふうに市場開拓をしたい、ということを高いレベルで理解する必要がある。同時に、メディア側にとって報道する意義や目的が何かを把握しなければならない。この両方をバランスよく理解することが大事になる。

なぜなら、事業に対する深い理解がないと、メディアの人と対等に話せないからだ。メディア側からすると「この人よく売り込みに来るけど、事業内容の深い話ができないな」と考える。こうなってしまう原因は、事業やマーケティングの知識が足りないからだ。

一方で、「メディアは何でこれを報道しようとしてるのか」の理解は、社内に向けた知見となる。「メディアにとっての価値ある情報」という視点を、経営者や事業責任者は案外持っていない。

彼らは自分たちの事業や商品に自信があるから、メディアに対して「なんでこんな画期的なサービスを取り上げないんだ」とか「これは大きな話題になるぞ」などと思うかもしれない。しかし先ほども書いた通り、メディアは会社や商品にストレートな興味はさほどない。

PRパーソンは経営者や事業責任者に「自分たちが思っているほど世の中は反応しませんよ」ということを、しっかりと解像度高く伝えなければならない。「頑張ったんですけど、興味を持ってもらえませんでした」では報告にすらなっていない。そもそもジャーナリズム(報道目的)の理解がないとうまく説明できない。

報道目的を説明でき、打ち出し方の工夫が提案できれば、「さすが」と社内からも評価されるだろう。これが、社内からもメディア側からも一目置かれるPRパーソンになれるかどうかの分かれ道だ。

⒊ 本当は経営者の仕事でもある

PRは経営者の仕事。いまどきスタートアップ経営者の皆さんが判で押したように「広報は大事!」って言うけど、「広報は大事(だから自らコミットしよう)」と「広報は大事(で担当者に頑張ってもらおう)」って違いは将来的に大きな差を生む。資金調達は社長の仕事。広報はいわば「評判の調達」だ。

ということで、レベルの高いPRパーソンになるのは大変なこと。だから皆さんは頑張らなければならないのだけれども、一方で、少し気持ちが楽になることもお伝えしたい。

「あなたが一人で抱え込まなくてもいいんですよ」

なぜなら広報PRは、本来的には経営者の仕事でもあるからだ。今どきのスタートアップ企業の経営者と話をすると、嬉しいことに多くの方が「広報は大事だ」といってくれる。しかし発言の中身には差があり、おおよそ二つのタイプに分かれる。

一方は「自分がしっかりコミットする」あるいは「社員やチームのみんなでそういうマインドを持つ」というタイプ。もう一方は、「広報は大事なのは理解しているけれど、よくわからないから新しくきた担当のAさんよろしく」と担当者に丸投げするタイプ。どちらがいい/悪いとジャッジはできないが、個人的に今までのパターンを見ていると、「自分もコミットしよう」というスタンスの経営者のほうが、圧倒的に広報的な取り組みが成功していると感じる。

広報PRというものは、仕事でもあるし戦術でもあるが、同時に「マインドセット」でもある。僕は、PRマインドは全ビジネスパーソンが持つべきだと思ってる。

資金調達は明らかに経営者の仕事だから、経営者はそのために駆けずり回るだろう。広報PRも実はレベル的には同じことだ。なぜなら、お金ではなく評判(レピュテーション)を自分たちの会社にもたらすものだから。そのように考えれば、広報PRは経営者の立派な仕事でもあるのだ。

⒋ 広報PRの仕事の本質

メディアやSNSが消滅しても、自分の仕事は残るか?を、広報PRパーソンは一度ぜひ考えてみよう。それらがなかったら仕事になんないなら、それは極めて限定的なPR業務。メディアが発明されたからPRという仕事が生まれたんじゃない。社会を動かすにはどうするか?というニーズからPRは生まれた。

広報PRの仕事はダイナミックだ。しかし、やることが沢山ある。もっと言えば、やるべき業務は20年前より圧倒的に広がっている。昔はSNSはなかったし、インフルエンサーの存在も今ほど重要ではなかった。

特にこの10年くらいで、この仕事を取り巻く環境と重要性は劇的に変わったと思う。これは嬉しいことではあるけれど、その分、目の前の作業にてんてこ舞いになってしまうのも事実。プレリリースを出さなきゃいけない、メディアと会食をしなきゃいけない、SNSアカウントの運用も必須だ。

ただ、そんな中でも広報PRの「仕事の本質」を忘れないでほしいと思う。そうしないと、仕事が単なる作業になり、それをこなすことだけに振り回されるようになるからだ。

あなたにひとつ質問しよう。
メディアが消滅しても、PRパーソンとしての自分の仕事は残るか?

明日、メディアが完全に世の中からなくなったと想像してみよう。新聞もテレビもXもFacebookも、全部なくなったら? ——そうしたらもう広報担当なんかいらないし、私の仕事は消滅しますよねとあなたが思うのなら、それはまだ本質にたどり着いてない。

そもそもPR、つまりパブリックリレーションズはアメリカで生まれて体系化された概念だ。

テレビもラジオもない頃からパブリックリレーションズという仕事は生まれている。伝達チャネルに関係なく、どういうことをすれば社会や多くの人に物事を伝えられるか、大きなコミュニティを動かせるか。もっと言うと、世の中を動かせるか、というところから生まれている。

PRの起源になったといわれる独立戦争は100年以上も前だ。「なぜ我々は独立すべきか」を人々に伝えるために、当時は馬に乗ってビラをまいていた。広報PRの仕事は、テレビや新聞やSNSありきではないことを忘れないでほしい。

⒌ 最後に……「情報を伝える」ことについて

「情報を噛み砕いてわかりやすく伝える」ことと「その情報が自分に関係あるものだと思ってもらえるように伝える」ことはまったく違う。前者はともすれば伝えたい相手の軽視につながり、後者は伝えたい相手をリスペクトしないとできないこと。

最後に、広報PRという枠を越えて多くの方の反応を頂いた、「情報の伝え方」についての投稿を紹介して締めにしたい。

僕はこれまで仕事柄、情報伝達についての相談を多く受けてきた。スタートアップから大企業、NPO、官公庁、自治体、国……などなど。そして、こういう思いを数多く耳にした。「誰でもわかるように、わかりやすく伝えたいんです」。

情報伝達は確かにそうあるべきだ。しかし、ちょっと心に手を当ててみてほしい。こういう言葉を発するとき、無意識に上から目線になってはいないだろうか? 「(難しくてわからないだろうから)わかりやすく、平たい言葉で」。そんなふうに、相手を軽視するニュアンスが背後に見え隠れする。これは企業や組織に限った話ではなく、一部の報道メディアのスタンスにも感じられる。

では、情報伝達で大切なことは何か。

それは、わかりやすく簡単に伝えることではなく、自分に関係があると思ってもらえるように伝えることだ。

平たい言葉でわかりやすく伝えても、自分に関係ないと思われたら、どうやったって相手には伝わらない。多少難しくても「これって自分のことだ」「私がやりたいことがここに書いてある」と感じたら、人はそれを理解しようとする。

僕は、相手に「自分に関係ある」と思ってもらえるように伝え方を工夫することは、「相手へのリスペクト」だと考えている。なぜならそれは、相手のこと自体をよく考えることだから。

あなたの仕事、つまり広報PRはまさに情報伝達のど真ん中だ。これから数えきれない、“ものごとを伝えること”に関わっていくだろう。その時、自分自身が相手を軽視してないか、ちゃんと相手をリスペクトしてるかを胸に置いて考えてほしいと思う。

——さて。
ここまで読んでくれたみなさんには、「思っていたよりも広報PRの仕事は深いかも?」と気付いてもらえたら幸いだ。そして目の前の仕事をこなし経験を積み積みながら、ここで書いたことを意識してもらえたら、いつの日か最強のPRパーソンになれると思う。お互いに頑張りましょう。


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