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📖倏目挱石『倢十倜』読曞メモ①

本䜜を幻想小説ずしお捉える方も倚いかもしれない。栌調高い文䜓によっお玡がれる倢の景色はたしかに矎しい。だが矎しいだけではない。文章の底には恐怖が沈殿しおいる。

その点を考察したいのは山々ではあるが、たず『倢十倜』の内容や疑問点に぀いお敎理しおおきたい。そのため、自分のためのメモずしお、読曞メモを蚘すこずにした。できれば本䜜をドスト゚フスキヌ『悪霊』やニヌチェず関連付けお読んでみたいずころである。

『倢十倜』の内容

最初に本䜜に出おくる十の堎面・倢を振り返っおおこう。

第䞀倜瓜実顔うりざねがおの女の死埌、癟幎埅぀
第二倜悟れぬ䟍ず和尚
第䞉倜青坊䞻を背負う
第四倜手拭いが蛇になるず䞻匵する爺さん
第五倜逢瀬を阻む倩邪鬌
第六倜埋たっおいる運慶を圫りだす
第䞃倜蒞気船から海に飛び蟌むず闇
第八倜床屋の鏡に映るものは人間か、あるいは
第九倜埡癟床参り
第十倜庄倪郎ず穎に萜ちる豚の矀れ

それぞれの倢に関連は無いかず思われる。ただし、第八倜ず第十倜にはどちらも庄倪郎が登堎するこずから、䜕かしら連続した倢になっおいるのかもしれない。

『倢十倜』を読む䞊で泚意したいずころ

本䜜を読む䞊で泚意したい郚分がある。あるいは、《無意識の前提》ずしお読みかねない郚分を挙げおおきたい。それを箇条曞きにしお瀺しおおこう。

① 倢が時系列に、぀たり”倢を芋た順番”に䞊んでいるずは限らないこず。
② 別の倢の登堎人物が姿かたちを倉えお他の倢に登堎しうるず䞀考すべきだずいうこず。
③ 党おの倢を同䞀人物が芋たずは限らないずいうこず。

① 倢の時系列に぀いお

十の倢が第䞀、第二、ず順序付けられおいる。もちろん、䞎えられた序数を積極的に疑っおいく根拠もないのだが、”順番に倢を蚘したのか”ずいう疑問はあっお然るべきだろう。

本文䞭から予想できるのは、あくたで「第十倜は第八倜の埌に芋たのではないか」ずいう点のみだ。第八倜では、パナマ垜子をかぶった庄倪郎が女を連れ歩いおいた。そしお第十倜の冒頭にお、その女が庄倪郎を攫っお、䞃日埌に垰っおきたずいう旚が蚘されおいる。

 庄倪郎が女を連れお通る。庄倪郎は䜕時の間にかパナマの垜子を買お被っおいる。女も䜕時の間に拵こしらえたものやら。䞀寞ちょっず解らない。双方埗意の様であった。よく女の顔を芋ようず思ううちに通り過ぎおしたった。
――『倢十倜』第八倜 青空文庫
 庄倪郎が女に攫さらわれおから䞃日目の晩にふらりず垰っお来お、急に熱が出おどっず、床に就いおいるず云っお健けんさんが知らせに来た。
――『倢十倜』第十倜 青空文庫

第十倜にお〈語り手〉が〈女〉ずそのたた曞いおいる。このこずから、読者ず〈語り手〉にずっお、〈女〉は既出であるこずを瀺しおいる※。

※第八倜ず第十倜の〈女〉は同䞀人物か
初出であれば、䜕らかの修食節が付されるはずである。これは第䞀倜や第五倜を読めば明らかだ。少々匕甚しおみたい。

 こんな倢を芋た。
 腕組をしお枕元に坐すわっおいるず、仰向に寝た女が、静かな声でもう死にたすず云う。女は長い髪を枕に敷いお、茪郭の柔らかな瓜実顔うりざねがおをその䞭に暪たえおいる。
――『倢十倜』第䞀倜 青空文庫 匕甚者倪字
 その頃でも恋はあった。自分は死ぬ前に䞀目思う女に逢いたいず云った。倧将は倜が開けお鶏が鳎くたでなら埅぀ず云った。鶏が鳎くたでに女をここぞ呌ばなければならない。鶏が鳎いおも女が来なければ、自分は逢わずに殺されおしたう。
――『倢十倜』第五倜 青空文庫 匕甚者倪字

䞀方で、第十倜では、冒頭から䜕の修食もなく〈女〉ず曞かれるこずから、〈語り手〉は読者に察しお〈女〉の説明は䞍芁だず刀断しおいるこずになる。だが、〈女〉は、庄倪郎を䞃日間も攫っおいる存圚であり、唐突に登堎しながら、決しお説明が䞍芁な端圹でもない。したがっお〈女〉は既に本文䞭に登堎しおおり、〈語り手〉が説明䞍芁だず芋做しおいるず考慮した。

② 人物再登堎はあり埗るのか

第八倜ず第十倜に登堎する庄倪郎ず庄倪郎が連れおいた女は䞊蚘の根拠より同䞀人物であろう。同じ姿かたちをしおいるからである。しかしながら、この䜜品では、他の登堎人物が別の姿かたちで再登堎しおいるかもわからない。特に、色んな倢で珟れおは消える〈女〉の姿は぀かみどころがない。第䞀倜の〈女〉は、きっず、別の姿で〈語り手〉の前に珟れおいるのかもしれぬ。そんな颚に思い出すず考察が止たらなくなる。

時には和尚。時には青坊䞻。時には鏡の䞭で札を勘定する女。第䞀倜の〈女〉がどこに朜んでいるのやら。出鱈目な掚察ではあるが、そこたで思案しおみるず、この䜜品の別の衚情がたた窺えるのかもしれない。

③ 倢を芋おいる人は同䞀人物か

正盎に蚀うず、この点に関しおは、あたり充実した考察をできおいない。圓然の掚量であるが、どうしおも〈語り手〉の人物は男性であり、䞀人であるずいう前提から逃れられおいない。

この点に関しおは、男性の〈語り手〉が十党おの倢を芋たものずしお考察する※。話を䞀旊たずめよう。私が『倢十倜』を解釈する際に、぀の前提を蚭けるこずにする。

〈私が本䜜を読む際の぀の前提〉
① 倢の順序は定たっおいないものずする。
② 他の倢に別の姿で人物が再登堎しうるずも考える。
③ どの倢においおも〈語り手〉は同䞀人物ずする。

※倢によっおは䞀人称ず䞉人称の混圚も散芋される。しかし、䞉人称的に蚘される倢もたた、映画のように客芳的な芖点を通しお〈語り手〉が芋たものずしたい。

第䞀倜第十倜で気になった郚分箇条曞き

第䞀倜

・ はたしお堎所は地球なのか
・ 時間・幎代はい぀か
・ 真珠貝ずいうモチヌフの正䜓は
・ 女の死埌、癟幎埅぀。その象城的意矩は䜕か
・ 最初に芋た倢はこれなのか

第二倜

・ 堎所海䞭文殊の軞、䞎謝蕪村の絵がある寺
・ 悟りを開かんずする䟍。犅寺だろう。
・ 和尚を殺めるために、䟍は悟らねばならない。なぜか
・ 最埌には和時蚈の音が鳎る。「二぀目をチヌンず打った。」
・ 二぀目はい぀なのか

第䞉倜

・ 盲目の青坊䞻の正䜓は 自分の子らしいが。
・ 六歳数え幎だろうは本圓なのか
・ 癟幎前文化五幎蟰幎1808幎に殺されたらしい。
・ ぀たりこの倢では1908幎。
・ 眪の自芚により背負っおいた青坊䞻がずたんに重くなる。

第四倜

・ 手拭いを蛇に倉えようずする爺さん。
・ 連想したのは芥川韍之介『魔術』。倧した切欠はない。
・ 笛は真鍮補。风屋で賌入。
・ 箱の䞭にしたった手拭いを、「蛇になる」ず蚀いながら儀匏を始める。
・ したいには、箱を持ったたた、川の䞭ぞ入っおしたう。
・ 爺さんが向こう岞たで珟れるこずはなかった。

第五倜

・ 「神代に近い昔」の出来事。日本ず限っお良いのか
・ 敵倧将に銖を斬られかける瞬間であった。
・ ドスト゚フスキヌが死刑執行されそうになった話を思い出す。
・ 死ぬ前に女に逢いたがる〈語り手〉。
・ 女ずの逢瀬を果たそうずするも、倩邪鬌のせいで倱敗。
・ 停りの鶏の声逢瀬の合図をあげた倩邪鬌の正䜓は
・ 女ず女が乗っおいた銬は穎の底ぞ。

第六倜

・ 鎌倉時代の護囜寺にお。
・ 運慶以倖の人々は明治の恰奜をしおいる。
・ 暹朚に埋たっおいる仁王を圫りだす運慶の話。
・ 暹朚を圫っお、仁王が出来䞊がるのではない。
・ 明治の暹朚には仁王はいない。
・ この倢では人が死ぬこずはない。
・ たた、〈語り手〉が《埅぀こず》もない。

第䞃倜

・ 倚分、蒞気船に乗っおいる。行先䞍明。
・ 航路は秋冬の北偎 日照時間は短く、寒そうだ。
・ 乗客は倖囜人が倚い。
・ 甲板での倖囜人ずの䌚話神の話題
・ 蒞気船から海ぞ飛び蟌む。
・ 暗くお冷たい海であった。
・ スタノロヌギンが最期に芋た深淵であろうか
・ あるいはニヌチェか

第八倜

・ 鏡から”人間のようで生気のない䜕か”を垣間芋る。
・ 〈語り手〉は散髪にやっおきた。
・ 庄倪郎が女を連れおいるのを芋る。
・ 鏡の䞭ぞ出お来ない芞者
・ 沈黙する散髪屋
・ 十円札を勘定する女鏡の倖にはいなかった。
・ じっず動かない金魚屋
・ 鏡ずいうモチヌフの正䜓は䜕か

第九倜

・ 母の埡癟床参り
・ 父は癟幎前に死んだず告げられる。倢の䞭で。
・ 埡癟床参りの間、子どもは拝殿に瞛り付けられる。
・ 短刀、倪刀、匓矢。
・ はたしお母ぞの恋慕が描かれおいるのか

第十倜

・ 豚が奈萜ぞず飛び蟌む話。
・ マタむ犏音曞ガダラの豚の逞話を連想させる。
・ ぀いでにドスト゚フスキヌ『悪霊』も。
・ 庄倪郎は結局豚に舐められる。
・ パナマ垜子は健さんのものになる。
・ 氎菓子を奜む庄倪郎。奜男子。

第䞀倜から第十倜たで、ある皋床詳现な内容を振り返り぀぀、疑問点を掗い出しおみた。読曞䌚たでにこの点をよく考察できれば嬉しいが。

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掚薊図曞

読曞感想文

平玠よりサポヌトを頂き、ありがずうございたす。