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📖中島敦『山月記』を読む(β版)
今回は中島敦『山月記』をじっくりと読んでいくことにします。
記事は長めです。が、お付き合いいただけると嬉しいです。
『山月記』といえば、李徴が虎になる話でした。俗世を離れ竹林にこもり、詩作においても大成せず、李徴はついに虎になってしまいました。「臆病な自尊心と尊大な羞恥心」というフレーズを覚えている方も多いのではないでしょうか。
主な登場人物は李徴と親友の袁傪。袁傪の深い友情に尊さを感じた方もいらっしゃるかもしれません。
ストーリー解説はここまでにして――『山月記』をどう読んでいくのか?――最初にその視点についてお話します。
『山月記』を読む視点
今回は本作を6つの視点から読んでいきたいと思います。
(1) 李徴を自分の話として読んでみる
(2) 虎という獣になること〜『ちいかわ』のキメラ
(3) 対句的な表現の美しさ
(4) 能のような構成〜語る李徴と聴く袁傪
(5) ラストシーン〜月の解釈
(6) 李徴を他者として捉え直す
(1) 李徴を自分の話として読んでみる
この話題は授業で教わった方も多いかもしれません。李徴に対して感情移入しながら読んでいく、オーソドックスな読み方です。
”妻子や友人関係を放り投げたあげく、詩作も中途半端であった李徴。自意識ばかりが肥大したエリートの末路。自堕落な生活を続けて、ついには獣に身を堕とす。詩作も大成しなかった。”
本作の李徴から示される苦々しい教訓は、中高生に強烈なインパクトを与えたかもしれません。とはいえ、李徴の人格と詩作の腕に関連はあったのか?、その点についても疑問を投げかけていきたいと思います。
(2) 虎という獣になること〜『ちいかわ』のキメラ
虎(獣)に変身する物語は、なにも『山月記』だけではありません。たとえば『ちいかわ』のキメラ回もそうでした。ちいかわと呼ばれる生き物からキメラというモンスターに変身してしまったキャラクターの話です。
このように二作品を並列してみると、「虎になる/獣になる」というイメージが、具体的につかみ取れるように思います。
(3) 対句的な表現〜「臆病な自尊心と尊大な羞恥心」
「臆病な自尊心と尊大な羞恥心」――『山月記』には対句的な表現がふんだんに盛り込まれており、それらの表現が文章にリズムを生んでいます。本節ではこの点をじっくりと鑑賞してみたいと思います。
(4) 能のような構成〜語る李徴と聴く袁傪
『山月記』を振り返ってみると、語っているのは李徴ばかりで、袁傪はただ李徴の話に耳を傾けています。この形式は、たとえば夢幻能の構成に似ているように感じます。夢幻能というのは、俗世への未練を残した幽霊の話を生者が傾聴することによって物語が展開していく能のことです。
もちろん李徴は幽霊ではありません。しかし、竹林という非日常的な空間において俗世への未練を語ります。一方、袁傪はただ李徴の話を聴くばかり。最終的に李徴は虎になってしまう点も、超常現象的です。それこそ一切が夢のようにも感じられる体験です。なんだか夢幻能みたいですね。
(5) ラストシーン〜月の解釈
『山月記』のラストシーンはこうでした。
虎は、既に白く光を失った月を仰いで、二声三声咆哮したかと思うと、又、元の叢に躍り入って、再びその姿を見なかった。
ここで気になるのは「白く光を失った月」。これは何を意味しているのでしょうか? 柿本人麻呂の和歌やサマセット・モーム『月と六ペンス』などの作品と見比べながら、月の意味するところについて考察してみたいと思います。
(6) 李徴として他者を捉え直す
この話題はレベル高めです。(1)では李徴に感情移入しながら『山月記』を読んできました。ここでは反対に、李徴を他者として見直してみましょう。プライドが高く、コミュニケーションも苦手な李徴。現代社会を生きている私たちにとっては、”厄介な人物”として映るかもしれません。
しかし李徴にも手を差し伸べることも大事ではないでしょうか? 社会はどんな人物であっても(李徴であっても)包摂せねばならないからです。そういった社会福祉的な面から読んでみると、また考察が深くなるように感じられます。
おわりに
今回は中島敦『山月記』の読書記事を書いてみました。語りたいことは山ほどありますが、今回ではここまで。もっと体裁を整えた上で、10,000字程度の記事にしたいと思っています。(この記事は2,000字にも達しない程度です。)
また、読者の皆様にひとつご質問があります。『山月記』のストーリー解説は必要でしょうか? あるいは不要でしょうか? コメント欄で教えてくださると幸いです。
平素よりサポートを頂き、ありがとうございます。