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植物をえがく小説家:キム・チョヨプ『地球の果ての温室で』

キム・チョヨプ『地球の果ての温室で』
地球は巨大な温室であり、温室は小さな地球であるのかもしれない。人類滅亡の危機が物語として展開しているにもかかわらず、暖かく穏やかな筆致のおかげか、植物に護られているような感覚になる。豊かな植物のイメージは『地球の長い午後』を彷彿させる。

大地に根を張りながら広がっていく本作の植物のイメージを、グレゴリー・ケズナジャット『開墾地』や大江健三郎の中期作品、プルースト『失われた時を求めて』と比べながら読んでみるというのも面白い試みかもしれない。

 ”ダスト”という大気汚染物質が拡散したことによって、ほとんどの動植物が死に絶えてしまうという厄災が起こった、『風の谷のナウシカ』を連想させるような世界が、作品の舞台となっている。

 人類滅亡の危機であることには間違いないものの、文体は暖かく静かなものであり、大樹に守られているかのような気分になる。植物に対する豊かなイメージは、大江健三郎の中期作品に描かれるような巨木の印象と相通ずるものがあるかもしれない。

 一方で、作中にみられる”どこまでも広がっていくかのように思われるつる”のイメージからは、グレゴリー・ケズナジャット『開墾地』やプルースト『失われた時を求めて』が連想されることだろう。それらの作品と対比して読んでみるのも面白いのかもしれない。

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