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【ヒモ男シリーズ】ヒモ男の海水浴

前話「ヒモ男とティーン姉妹」

 俺はコンパスヒモ。今日はデイ子に誘われて、プライベートビーチつきのホテルに1泊旅行だぜ。もちろん6歳になる男女の双子もいるぜ。最近はデイ子の相手なのかベビーシッターなのか、どっちが本業なのか分からないぜ。旦那が海外赴任中でいないから、いいように使われてるんだぜ。
 ホテルに着いたら、早速水着に着替えてビーチで遊ぶぜ。俺はイチとニを連れて、波打ち際で砂遊びをするぜ。デイ子は後ろの方のビーチチェアで、ひとりリラックスしてるぜ。

「あ、イルカ!」

 イチ夫が沖の方を指差して叫んだぜ。イルカが1頭、ジャンプしてるぜ。まるで天然水族館だぜ。
 砂遊びに飽きて、浮き輪をつけた双子を連れて、波に乗るぜ。

「待ってー!」

 俺とイチ夫から少し離れたニ子が、笑いながらバタバタと追いついてくるぜ。ニ子の手を取ろうとした瞬間、俺の隣にいたはずのイチ夫がすっとあり得ないスピードで沖へ流れていくぜ。

「おい、イチ夫!」

 イチ夫の後方には灰色の背びれが見えたぜ。

「待て! デイ子、ニ子を頼む!」

 俺の叫びに、ビーチにいたデイ子が反応したのを確かめてから、俺は必死に泳いでイチ夫を追いかけたぜ。水泳は得意じゃないのに、出し抜けにえも言われぬ力が湧いてきて、イチ夫目指してまっしぐらに超スピードで泳いだぜ。イチ夫に迫ると、イルカがイチ夫の浮き輪のヒモを口に巻きつけて、引っ張っているのが見えたぜ。

「パパ! 助けて!」

 イチ夫は足をバタバタさせてるぜ。浮き輪をつけたままだから、顔が出ているのが幸いだぜ。イチ夫の片腕をつかむと、イルカが俺に気がついて失速したぜ。浮き輪のヒモを口から離すと、今度は俺に向かって来て、腕を噛まれて引っ張られたぜ……

「ねえ、新婚旅行どこ行く?」

 赤いワンピースを着た若いデイ子が、ソファーの上で俺にまたがり、ワイングラス片手に聞いてきたぜ。

「そうだな……サイパンかフィジーか……いや、まだふたりで行ってない場所がいいかもな」

 俺が会社から帰宅すると、顔を曇らせたデイ子が玄関でお出迎えだぜ。俺のバッグを受け取りながら、

「今回も勘違いだったわ……ねえ、あなたも一緒に病院に行かない? 原因だけでも分かれば、別のアプローチができるかも……」

「……ああ……分かった」

 クリスマスイブ、会社帰りにデイ子と表参道で待ち合わせして、手をつなぎながらイルミネーションの下を歩いていると、デイ子が笑顔で、

「今日はお祝いよ」

「? 何の?」

「あのね……成功よ、赤ちゃん。予定日は9月5日ですって。双子かもしれないって」

 俺は思わず立ち止まり、デイ子と見つめ合ってから強く抱きしめたぜ。

「大事にしないといけないな」

「ええ」

「生まれる前に1000万もかかった子どもなんて、なかなかいないからな。双子だったら、ひとり500万か」

「ふふ、そうね。人間の値段って考えたら、高いのかしら、安いのかしら」

「どうだろうな……俺たちの子なら、最低でも1億の価値はありそうだ」

「それ以上よ」

「頑張ったな」

「あなたもね」

 デイ子の両肩をつかんで体を離すと、キラキラと光が反射したデイ子の目から涙が滴り落ちたぜ。俺はそっとぬぐってやったぜ。
 帝王切開だから安心といえば安心だが、赤ん坊の泣き声を聞いたときには震えがきたぜ。抱きながらデイ子を見ると、俺にほほ笑みかけながら、泣いていたぜ。もらい泣きしそうになった途端、突然のどから水が勢いよく飛び出してきたぜ。

「よかった、意識が戻りました!」

 うっすらと目を開けると、数人の男に囲まれているのが分かったぜ。デイ子もいて、俺を見て泣いているぜ。

「ヒモ男……よかった……」

 どうやら俺はイルカに引っ張っられて溺死しそうになっていたみたいだぜ。イチ夫は無傷で無事だそうだぜ。意識を失っている間、妙な夢を見ていたような気がするが、覚えていないぜ……
 イルカに噛まれた腕の傷も大したことなく、俺は夕方にはすっかり回復して、夕食のあと、部屋でデイ子と酒を飲んだぜ。

「あなたのおかげでイチ夫の命が助かったわ。まるで本当の父親みたいね。感謝してもしきれないわ」

 デイ子は珍しく泥酔したぜ。
 子どもが寝入ると、お決まりのコースだぜ。"耳を攻めろ"と、俺の脳にピピっと指令が来て、デイ子の耳を執拗に舐めたぜ。不可抗力だぜ。よがるデイ子の口から、

「あっ……あなたなの?……帰ってたのね」

 その後も、脳の指令に従い、いつもとは違うパターンで攻めると、デイ子はアルコールの力も加わって、深い眠りに落ちたぜ。
 なんだか今日は、イチ夫を助ける時くらいから、自分の体が自分のものじゃないみたいだぜ。デイ子の横で仰向けに寝転がりながら、両手を上にかざして眺めてみたが、特に変わったところはないようだぜ。
 きっと俺の仕事には、自分の体が誰ものかなんて、考える必要はないんだぜ。快楽を与える道具になり切れるかどうか、身代わりの器になれるかどうかが、きっと成功のカギなんだぜ。そんなことを考えていたら、ふと一句浮かんだぜ。

   透明になりて華やぐヒモ人生

(了)

デイ子が出てくる話
第3話「ヒモ男の災難」
第11話「ヒモ男のとある1日」
第12話「ヒモ男パーティー」
第13話ヒモ男、寝取られる!?」

次話「ヒモ男とコインランドリー」

第1話「ヒモ男のラブラブラブホテル」

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