質問073:素振りで気をつけることを教えて(そこに自己肯定感は、あるか?)
回答
▶シャドースイングで、現実とイメージの一致を図る
まずは、スイング軌道に関する空間認知を整えましょう。
そのためには、たとえば全身を映す鏡などを前にして行うシャドースイングがおすすめです。
自分がイメージしているスイング軌道と、実際にラケットが通過しているスイング軌道との一致を図ります。
こちらでもご説明しているとおり、私たちは案外、両腕をピタリと真横(水平)に上げることすらできません。
水平よりも少し高くなったり、低くなったりする。
要するに、イメージでは水平に上げている「つもり」なのに、現実は「ズレている」わけですね。
スタティック(静的)な動作でも、このありさまです。
これがダイナミック(動的)なスイングになっては、なおのこと。
つまり自分のイメージしているスイング軌道と、実際のラケットが通過しているスイング軌道との間に、隔たりがあるのです。
ほとんどの人が、「ズレなんてない!」「イメージどおりに振れている!」などと、思い込んでいます。
しかし思い込みとは、思い込んでいるとも自分ですら気づかない無自覚に、その本質があります。
▶ズレを認識すると、脳は自動で補正をかける
これが空間認知に関する「ズレ」なのですけれども、放置したままだと当然、スイートエリアの真ん中でボールを捉えるジャストミートは叶いません。
端的に言えば、イメージでは飛んできたボールに合わせて、「腰の高さ」でスイングしているつもりなのに、実際にラケットが通過しているスイング軌道は、「太ももの高さ」だったりする。
そうすると、フレームの上側(ストロークの場合ラケットフェイスの3時方向)でインパクトしてしまいます。
上下の高さだけではなく、左右の遠近にもズレがあるケースも少なくありません。
この現実に対するイメージのズレを、ジャドースイングの素振りで修正します。
シャドーで実際のスイング軌道を目で見て確認しながら素振りをすれば、脳に備わる補正機能が働いて、自然と改善してくれるのです。
ブラインドで入力するタッチタイピングで、毎回「K」を打っているつもりなのに「J」 が入力される場合、空間認知がズレているのですけれども、この場合は目で見ながらタイプする確認作業をすれば補正がかかるのと同じです。
▶「ありのままの自分のスイング」を認めてあげよう!
このときの注意点。
「ありのままの自分のスイング」を行うようにしてください。
よく、頭のなかに描いている理想のスイングがあって、ボールを打たない素振りだからといってそれに合わせようとする人がいるのですけれども、これをやると「偽りのスイング」になってしまいます。
自分の理想とするフォアのスイングが、ロジャー・フェデラーみたいな打ち方であったとしても、それに合わせてはいけません。
なぜなら、クリップの厚さも、筋肉の柔軟性も、関節の可動域も違うし、手足の長さが違えば、全体としてのスイングの印象も変わるから、合わせても「無理やり」になるからです。
それがあとで述べる、力みのない自由闊達なスイングを阻害する。
なので補正をかけようと意識せず、ありのままの自分のスイングを、シャドーで目で見て確認するだけでオーケーです。
テイクバックが小さいから大きくするとか、フォロースルーでラケットを止めているから振り切るとか、「意識してやる」必要はありません。
「偽りのスイング」が、「ありのままのスイング」を、台無しにするのです。
▶理想だからといって有名人のマネをすると、苦しくなる
それはまるで、「理想とする偽りの自分」を演じていると、自己肯定感を損ねるのに似ています。
自分の理想だからといって、明るいキャラのフリをしたり、いい人のフリをしたり、あるいは好きな有名人のマネをしたりするのは危険。
それで周りの人は、もしかすると認めてくれるかもしれないけど、それは「承認欲求」がほんの少し満たされるだけ。
自分の本心は、全部お見通しですよね。
受け入れてもらえているのは、フリをしているからだけで、「ありのままの自分じゃない……」と。
ここでは「自分を偽っている」というのが、自己肯定できない大きな原因になっています。
もちろん明るい人が、悪いわけではありません。
いい人が、悪いわけでもありません。
偽りの自分を演じることが、「悪」なのです。
悪にはもともと「下手」というニュアンスも含意されています。
割に合わない罪を犯す「悪」は、明らかに生き方が「下手」でしょう。
程度の差こそあれ、偽りの自分でいる「悪」も、やはり生き方が「下手」なのです。
下手がなぜ「悪」なのかというと、「苦しむから」にほかなりません。
周りからの承認欲求は満たされているけれど、それが「ありのままではない偽りの自分」であった場合、間違いなく、本人は「苦しい」はずなのです。
▶自分のスイングを自己肯定できると、オーダーメイドな「振り心地抜群!」のスイングが現れる
話が脱線しました。
頭で描いている理想のスイングがあるからといって、そのフリをするのは「悪」。
つまり「下手」だから、テニスで「苦しむ」原因になるというわけなのです。
どんなに個性的であったとしても、「ありのままの自分のスイング」を認めてあげてください。
個性的だから、それが文字どおり「個性」なのです。
ありのままのスイングを自己肯定できると、そこに自由闊達なスイングが現れます。
何の力みも淀みも引っかかりもない、自分だけのオリジナルなオーダーメイドのスイングなのですから、「振り心地抜群!」なのです。
ロジャー・フェデラーのスイングが滑らかなのは、だれかのスイングではない、「ありのままの自分のスイング」だから。
一方私たちが理想のフォームを意識しているとき、自分では気づいていなかったかもしれないけれど、それは既成のレディメイドなスイングだから、どこかに力みや淀みや引っかかりが生じるもの。
出来あいに自分の体を合わせようとするから、「振り心地窮屈ッ……」なのですね。
袖の通しにくいパツパツの服を着ながらプレーしているようなものです。
▶「理想スパイラル」は一生続く。満たされることがない
理想のだれかのフリをすると、ありのままに発言できず、振る舞えず、窮屈な生き方になる。
それは下手で苦しいはずなのです。
「こんなんじゃダメだ……」「もっと良くなりたい……」
自己不全感が募り、ますます理想的なだれか、何かを追い求めたくなる「理想スパイラル」が一生続いて、いつまでも満たされることがないのです。
作った偽りの自分ではなく、ありのままの自分だから、自己肯定できる。
それこそが、自分に正直・誠実・素直な生き方と、言えるのではないでしょうか。
フルオーダーメイドの、ありのままの自分でありますように。
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