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【連載】「灰かぶりの猫の大あくび」10【学校編~僕たちはどう生きるか~】第二話

登場人物

灰かぶりの猫
久しぶりに小説を書き始めた、岩手県出身の三十代。芥川賞候補作家の三島創一そういちの代役として、夏目の母校での講演を依頼される。

黄昏たそがれ新聞の夏目 
新米記者。アニメ好き。『僕の心のヤバイやつ』第2期にはまり、今はこのアニメを観るために生きている。「旅館編」を経て、すっかり猫の相棒役に。第一話では、虎の尾ならぬ、猫の尾を踏みかける。

モノリス
灰かぶりの猫の自宅のAIスピーカー。知らぬ間に、猫と夏目の会話を学習ディープラーニングしてしまい、時々おかしなことを口にする。シンギュラリティが訪れた場合、猫と敵対する可能性も。

三島創一
小説家。夏目の高校時代の先輩。学生時代に、大学の個性的な教授陣との交流を戯画化した『シランケド、』で、現像新人賞を受賞しデビュー。人間の母性を地球にまで拡張した問題作『たゆたふ』で、芥川賞候補に。現在は体調不良。本当か?

杉田
聖子ちゃんカットをした女生徒。インターハイ記録も狙えるほどの韋駄天いだてんの持ち主。

福田伸一
生物学教師。とにかく口が軽い。

坂本銀八
校長。作家として三島創一のことは認めながら、猫に対しては小馬鹿にしたような態度を取る。

(以下、灰かぶりの猫=猫、夏目=夏目、モノリス=モノリスと表記)

※各固有名詞にリンクを追加。
※この物語は疑うまでもなくフィクションです。


前回のあらすじ

芥川賞候補作家の三島創一の代役として、夏目の母校で講演をすることになった猫。挨拶をするため、校長の坂本を訪ねるも、そりが合わず、らぬ問答を繰り広げてしまう。廊下で夏目からお𠮟りを受ける中、杉田と言う女生徒が二人の前を駆け抜けていく。彼女を追っていたらしい生物学教師の福田によると、どうやらこの学校には、いわくがあるらしいと教えられる。


――『旅館編』以来の久しぶりの登場に張り切り、第一話で少々しゃべりすぎた猫は、この辺りでコーヒーブレイクとでも行きたいところだった。ところが間を置かず、背後からある人物が登場し、猫に『凪のお暇』を与えないのだった。

杉田 「――あの」

――背中に声を投げかけられ、猫と夏目、後ろを振り返る。

夏目 「あ、さっきの」

杉田 「(後ろ手を組んで、眉間に皺を寄せながら二人に近づき)どちら様ですか?」

夏目 「(猫を手のひらで示し)こちらは、灰かぶりの猫さんです。三島創一さんの代役で、講演をすることになった。先生から聞いてませんか?」

杉田 「すみません。先生たちの話を聞く耳は持っていないので」

猫  「なら、僕らはどうだい?」

杉田 「三島と言う人の代役なら、おじさんも作家なんですか?」

夏目 「そうですよ。無名で、一冊の書籍もないですけれど」

猫  「おい、夏目くん?」  

杉田 「(真剣なまなざしになり)それって、作家って言えるんですか」

猫  「――ぐぬぬ」

夏目 「杉田さん、弱い者いじめはいけませんよ。身体的な暴力はもちろんですが、言葉の暴力も、十分に相手のことを傷つけることになるんですから」

杉田 「(え? どうしてあたしの名前)」

猫  「夏目くん。傷口に塩を塗り込んでいるのは、むしろ君の方なんだが」

夏目 「(急にいじけたような態度を取り)――だってだって、猫さんが第一話で、モノリスにばかり話しかけるから…」

杉田 「あの、猫のようにじゃれ合うのはほどほどにして、あたしの質問に答えてくれませんか? もう一度言います。それで作家って言えるんですか?」

猫  「これはあくまでも僕個人の見解だが、形式は問わず、一定の文章を書き、それが他人に読まれたことがあるのならば、最低限の作家の条件は満たしていると言えるんじゃないかな。自分で書いているだけなら自称になるが、一人でも読者がいて、その読者が作者を作家と呼ぶのならば、その人は十分に作家と言えると思う。もちろん、商業的な作家とは別だが。――幸いにも、決して数は多いとは言えないが、こんな僕にも、とても貴重な読者がいてくれているようなんだ。君のように、僕のことを全く知らない人にとっては、who are youあんた誰?となるが、一度でも僕の文章を読んでくれたことがある人ならば、僕のことを作家、もしくは文章を書いている人と認めてくれるはずだ。その条件に照らせば、僕も一応、作家と言えないこともないと思うのだが、どうだろう?」

杉田 「じゃあ、あたしにとっておじさんは、作家ではありませんね。先生でもない。なら、おじさんの話を聞く耳は持っていることになります」

猫  「(悔しがるべきか、悲しむべきか、喜ぶべきか、竹中直人ばりの顔芸で葛藤を演出しながら、ようやく)――あ、ありがとう。まあ、君にとっては、僕は作家ではない方がよさそうだね」

夏目 「猫さん。ここは学校ですし、講演の時以外は、作家としての看板は下ろしてもいいんじゃないですか」

猫  「なら僕は、何者になるんだい?」

夏目 「モノリスに聞いてみましょうか」

猫  「困ったときのドラえもんか」

モノリス
   「いいえ、ワタシは、さそり座の女。ではなく、猫型ロボットでもありませんよ。――すみません。もう一度、ご質問をお願い致します」

夏目 「ねえ、モノリス。今回の学校編では、猫さんは作家の看板を掲げていると、ちょっと都合が悪いみたいなの。だから、作家の代わりの看板が欲しいのだけれど、何が良いと思う?」

モノリス
   「かしこまりました。――では、『GTO』はいかがでしょうか」

猫  「おいおい。それは、Great Teacher Onizukaの略称じゃないか」

モノリス
   「間違えました。ならば、スクールロイヤーはいかがでしょう」

猫  「僕の頭の中には、六法全書の一文字たりとも刻まれてないよ」

モノリス
   「(猫を真似して)フー、ヤレヤレ。仕方がありませんね。では、それこそ、『猫』で押し通してはいかがしょう」

猫  「(思わず、手のひらを拳で叩き)ガッテン、ガッテン

夏目 「決まりですね。杉田さん、猫さんは今から、猫と言うことになりましたので、猫のように接してあげてください」

杉田 「え? 意味分かんないんだけど。――チャオちゅ~るでも用意すればいいの?」

猫  「夏目くん、戸惑ってるじゃないか」

夏目 「と、とにかく、わたしたちはあなたが毛嫌いするような大人ではないですよ」

杉田 「まあ、猫だろうと、グレゴール・ザムザのような虫だろうと、あなたたちがこの学校の第三者的な立場の人間と言う事なら、少しは心の門は開いてあげる。――あ、そうだ。どうですか、物は試しに、あたしたちのアジトでも覗いてみます?」

猫  「アジト?」

杉田 「あたし一人で、チェ・ゲバラみたいに学校に反旗をひるがえしているわけないでしょ。少数だけど、粒ぞろいの精鋭が揃ってるよ」

猫  「――君はいったい、何をする気なんだ」

杉田 「(そっと瞼を閉じ)schoolスクールを、本来の形に戻すだけです。ラテン語のscholaスコラ、そしてscholaの語源となった、ギリシャ語のskholeスコーレ、――つまり『余暇』。あたしたちは、それを取り戻したいんです」

夏目 「??」

猫  「なるほど。杉田君、確かに君の考えには百理あるな。何故なら、猫の定義そのものだからさ。遊びながら学び、学びながら遊ぶ。それが猫のあり方と言うものだからね」

杉田 「(毛先を指先でもてあそびながら)へー。思ったより理解あるんですね」

猫  「猫だからね」

杉田 「あ、分かりました。猫って、そう言う意味なんですね」

猫  「じゃあ、杉田君。あ、君のことはこの後もずっと、杉田君で良いのかな」

杉田 「どっちでも。名前でも良いですよ。薫子かおるこ。それがあたしの名前です」

夏目 「わぁ。素敵な名前」

薫子 「そうですか? あたしは古臭くて、あんま好きじゃないんですけど」

夏目 「薫子さん、登場人物のらん見ました? わたしなんてまだ、下の名前ないんですよ」

薫子 「――あ、ほんとだ」

夏目 「(懇願こんがんするように)猫さん、わたしも下の名前欲しいですよぉ。決めるのはまあ、いつでも良いかなんて言わず、真剣に考えてくださいよぉ…(わざとらしく泣きべそをかく)」

猫  「夏目くん。安心したまえ。君の名前が登場する話は、『学校編』の後にあるらしいぞ。その話では、君がほぼ主役みたいだ」

夏目 「(目を輝かせ)本当ですか? 今、そんなこと言ってもいいんですか? この場での発言は、記憶にございませんとは行きませんよ」

猫  「猫に二言なし」

杉田 「ねえ、そろそろ良い? みんな、アジトで待ってるんだけど」

猫  「ああ、すまない。ただこれが、僕らの物語のお約束なんだ」

杉田 「――ふーん。あたしたちの世代には流行りそうもないけど。ま、いっか。じゃ、付いてきて」

――猫と夏目、薫子の後に続き、薫子の言うアジトへと向かう。果たして、そこに待ち受ける少数精鋭の生徒たちとは。

                               つづく

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