灰かぶりの猫

久しぶりに小説を書き始めた、岩手県出身の三十代。読書は硬軟問わず。「猫」は動物の中でも…

灰かぶりの猫

久しぶりに小説を書き始めた、岩手県出身の三十代。読書は硬軟問わず。「猫」は動物の中でも特別。アニメ好き。好きな言葉は「どうで死ぬ身の一踊り」。その言葉通り、死ぬまでに一冊の著作を刊行することが目標。なお、投稿は不定期。

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  • #創作大賞2024 応募作品

    創作大賞2024に応募した作品のまとめです。

  • 灰かぶりの猫の大あくび

    物書きの灰かぶりの猫と新聞記者の夏目が織りなす、荒唐無稽でネタ満載のメタフィクションパロディコントです。

  • 短編小説

    何も考えていない? そんなことありません。これまでに書いた短編小説をまとめています。

  • 短編小説あとがき

    作品の背景などを、好き勝手に語り尽くします。ネタバレもあります。

  • ショートショート

    ※みなもすなるしょふとしょふとといふものを、われもしてみむとてするなり。 『灰かぶりの猫日記』より

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  • 固定された記事

【短編小説】「If I Can't Be Yours」あとがき

 皆さんどうも、灰かぶりの猫です。  今回の小説のタイトル「If I Can't Be Yours」は、正確には「Thanatos - If I Can't Be Yours」です。ご存じの方はご存じだと思いますが、これは『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』の主題歌です。一つの幕切れとして劇中で流れる際、スタッフロールが螺旋状にスクロールされるのがとても印象的ですよね。  今更、なぜエヴァ、それも旧劇場版なのかと思われるかもしれませんが、それは偶然に過

    • 【小説】「渋谷、動乱」エピローグ

       翌日の朝、知らないうちに運び込まれていた病院のベットで、奥田秋生は目を覚ました。意識がまだぼんやりとしていたが、こんなにゆったりとしたベットで目を覚ますのは、何年かぶりのことだと思った。  何気なくベッドサイドの置き時計を見て、日付が変わっていることに気付いた。ゆっくりと深く呼吸をしながら、真っ白な天井を見つめ、昨日のことを思い出していると、まるですべてが夢の出来事だったように思えた。あの掲示板の黙示録でさえ、どうして自分はあれほどまでにこだわっていたのか、今はとても不思議

      • 【小説】「渋谷、動乱」第8話

         ――まさか、こんなことになるとは。  ハチ公前広場の群衆の波にもまれ、身動きが取れなくなっていた奥田秋生は、当初の計画の変更を余儀なくされつつあった。奥田はネットカフェ「トマリギ」の303号室で、掲示板の監視を行っていた最中、急に立ち上がった箭内聡明に関するスレッドに、渋谷の書き込みを見つけた。さらに、YouTubeでの動画配信を見た瞬間、居ても立っても居られなくなり部屋を飛び出した。出動の時間だと思った。街が呼んでいると思った。  息せき切って広場にたどり着き、即、事

        • 【小説】「渋谷、動乱」第7話

           ハチ公前広場から4車線の神宮通りを挟み、広場全体を見下ろすことが出来るガラス張りのビルの3階のカフェに、予定より早く仕事を切り上げた美容師の藤堂凌太朗の姿があった。藤堂が聞いたあの地鳴りからすでに、3時間近くが経過していたが、仕事中も耳鳴りのように、あの地鳴りが反響し続けていた。藤堂は絶対音感を持っていたわけではなかったが、音のことに関して、自分が聞いた音がどこから、何から発せられているのか、同定しないと気が済まないような気質があった。仕事を切り上げた後、藤堂はひとり、それ

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        【短編小説】「If I Can't Be Yours」あとがき

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        • #創作大賞2024 応募作品
          14本
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          28本
        • 短編小説あとがき
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        記事

          【小説】「渋谷、動乱」第6話

           Nテレビ系列の夕方の情報番組「ザ・ライブ」のコーナー枠で放送する、巷の「○○推し特集」の収録のため、ディレクターの橘哲史ら撮影クルーは、渋谷の美竹通りに立ち並ぶ、仮装のための動物の耳を販売している、その名も「ケモミミ」という店での撮影を終え、機材の撤収を進めていた。  スタッフたちが次々と、路肩に止めた商用車のバンへ、カメラやガンマイク、照明などの機材を片付けていく。その様子を店内から見守っていた橘は帰り際に、白兎の耳を頭に付けた店長の白石琴子にお礼を述べ、店を後にしようと

          【小説】「渋谷、動乱」第6話

          【小説】「渋谷、動乱」第5話

           YouTuberの錦戸愛斗と野間紅が待機していた場所から、渋谷駅の構内へと下る階段を挟み、ハチ公前広場にでんと置かれている東急5000系の電車、通称「青ガエル」の前には、時間にして10分ほど前から、示し合わせたかのように、10代から20代の若者たちが集まり始めていた。皆、スマートフォンに視線を落とし、その場に集うほかの若者たちの顔を見る素振りを一切見せないことから、彼らが単に、この場所で友人や恋人たちと待ち合わせるために集まってきたわけではないということは明らかだった。  

          【小説】「渋谷、動乱」第5話

          【小説】「渋谷、動乱」第4話

           スクランブル交差点から、地下を東急田園都市線が走る道玄坂の大通りを進み、間もなく右手に見えてくるセンタービル手前の信号を左に折れ、ラーメン屋や寿司屋、焼き肉屋などの飲食店が軒を連ねる2車線の細い通りに、奥田秋生がよく利用するネットカフェはあった。  ビルの表の立て看板には、黄色の背景に赤字でデカデカと、「24時間無料」の文字が躍っていた。店内は、他のネットカフェと大きな違いはないのだが、この街に数ある店舗の1つとしては、なぜか奥田同様、中高年男性の利用が目立つ店だった。部屋

          【小説】「渋谷、動乱」第4話

          【小説】「渋谷、動乱」第3話

           渋谷駅に向かって走る電車内で、SNSで突然、地鳴りに関するツイートが増え始めたことに気付き、秒で流れてくる不特定多数のつぶやきを、それこそ、つぶさに調べていた錦戸愛斗は、まるでそうなることをあらかじめ知っていたかのように、「来たか」とひとり呟いた。それから間もなく、電車は渋谷駅に到着し、大きく呼吸をするかのように、愛斗もろとも、勢いよく乗客をホームに吐き出した。急ぎ、改札へ向かう人波に乗らず、愛斗はあえてゆっくり歩き、改札を抜けて地上を目指した。  スマートフォンに目を落と

          【小説】「渋谷、動乱」第3話

          【小説】「渋谷、動乱」第2話

           大澤美桜が、高校時代の友人の中村早矢香と、あらかじめ調べに調べ尽くしたルートを通り、その街の裏通りにある、知る人ぞ知る古着屋を訪れようと思ったのは、その日が初めてだった。  地下鉄のホームからエレベーターで地上に上がり、新宿駅の改札を抜け、平日の真昼間にもかかわらず、若者たちの姿でごったがえす竹下通りに出た時、すでに2人はかなりの体力を消耗していた。自宅のアパートから、今日だけ特別にタクシーに乗り、電車に乗り、ここまで美桜が乗る車いすを押し続けてきた早矢香の額には、じんわり

          【小説】「渋谷、動乱」第2話

          【小説】「渋谷、動乱」第1話

           ――2021年7月31日。午前11時14分。  鏡のように磨き上げられた琥珀色の木目の床に、中町康太の襟足の髪がパラパラと落ちていく。康太の後ろでやや中腰になり、細身の鋏を自分の手先として操る藤堂凌太朗の手は、片時も休まることなく、リズムよく、自分に与えられたカットの時間の一秒一秒を、文字通り切り刻んでいた。店内に流れる、しっとりとしたクラシックの音量は控えめで、鋏が髪を切る「サクッサクッ」という音はもちろん、耳をすませば、櫛が髪を梳く音さえ聞こえそうなくらい、店内は静寂

          【小説】「渋谷、動乱」第1話

          【連載】「灰かぶりの猫の大あくび」#20【RPG編~黄泉がえりは突然に~】第3話

          前回のあらすじ 城跡へとやってきたアイとミヤビの二人は、難なくターミネーターの正体を突き止める。それは外ならぬ、モノリスだった。モノリスが流した「カントリー・ロード」を聴き、現世での記憶をすべて取り戻した二人は、いよいよ灰かぶりの猫の復活のため、時空ゲートを通り、時の最果てへと向かう。 登場人物 アイ 夏目愛衣。黄昏新聞の新米記者。アニメ好き。今期放送中の『怪異と乙女と神隠し』の化野乙ちゃんにはまる。 ミヤビ アイが魔物の森で出会った剣豪。咲花刀を所持。その正体は、『

          【連載】「灰かぶりの猫の大あくび」#20【RPG編~黄泉がえりは突然に~】第3話

          【連載】「灰かぶりの猫の大あくび」#19【RPG編~黄泉がえりは突然に~】第2話

          前回のあらすじ 見知らぬ家で目覚めたアイは、母親らしき人物にそそのかされ、地元の神社の例大祭に赴く。そこで行われていたテレポーテーションショーに参加したところ、何の因果か別の時空へと転送される。転送先の魔物の森で出会ったミヤビという剣豪と共に、町で情報収集に当たった後、町の西にある城跡にターミネーターが出ると言う噂を聞き、二人は正体を突き止めるため、城跡へ向かう。 登場人物 アイ 夏目愛衣と思われる人物。しかし、本人に自覚なし。 ミヤビ アイが魔物の森で出会った剣豪。

          【連載】「灰かぶりの猫の大あくび」#19【RPG編~黄泉がえりは突然に~】第2話

          【小説】「裏切るなら自分(仮)」#4(短編集『感情採集』より)

           ――中田香織(30)の場合。  息子だからって、いつまで紐で繋いでろって言うんですか? 犬猫じゃないんですよ。へその緒を切った瞬間から息子は息子、私は私と思って育ててきました。放任と言われたらそれまでですが、子どもには子どもの自由がありますよね。自分の幼少期を反面教師に、親の言いなりにだけはさせたくないんです。今回のことはもちろん、私からも反省を促しはしますが、反省するかどうかは本人次第だと思っています。強制して、その場限りのごめんなさいで取り繕わせても意味がないことは、

          【小説】「裏切るなら自分(仮)」#4(短編集『感情採集』より)

          【小説】「裏切るなら自分(仮)」#3(短編集『感情採集』より)

           ――本上聖(11)の場合。  だって、ジャングルジムの上からこうさ、銃を構えて、バンバンって撃ったんだよ。いくら死にゲー(ぼくたちが勝手に名付けたゲームの名前)でも、エレナちゃんを撃つのは禁止だって、最初に決めたはずなのに。アオはさ、破ったんだ。もちろん注意した。アオ、それはルール違反だって。そしたらアオはさ、ゲームなんだから良いじゃんの一言。ルールがあるからこそゲームなのに、ルールを破ったらゲームじゃない。そうでしょ? だからぼくは、それは殺人だよ。そう返したらアオは、

          【小説】「裏切るなら自分(仮)」#3(短編集『感情採集』より)

          【小説】「裏切るなら自分(仮)」#2(短編集『感情採集』より)

           ――君塚徹(34)の場合。  攻守逆転だって? バカな。確かに手を出したよ。文字通り、最初に君の手を握ってしまったのは僕だ。ただ、不可抗力というものがあるだろう。ニュートンもびっくりの。こうして、毎日のように目と目を合わせていれば、否応なく惹きつけられる。僕と君は、林檎と大地だったってだけさ。第一、君はすぐに手を離さなかったじゃないか。それは明確な意思表示だよ。このままでも良いと言う、僕の気持ちを受け入れると言うね。そう、君だって望んでいたはずだ。待ってたんだろ。僕のよう

          【小説】「裏切るなら自分(仮)」#2(短編集『感情採集』より)

          【小説】「裏切るなら自分(仮)」#1(短編集『感情採集』より)

           ――本上日葵(17)の場合。   あんたよくさ、涎にまみれた他人の言葉を鵜呑みにできるね。あ、そっか。分かった。舌の上で味わうことなく(そんなんありえないんだけど)、口に放り込んだ途端、口内をショートカットして、そのまま食道を通過させてるんだ。ほうほう、なるほどね。あれでしょ、ETCだ。昔はさ、昔って言ってもわたしがちっちゃな頃だから、まだ平成とかだったと思うけど、パパの運転で高速道の料金所だったかな、そこをさ、通過するとき、必ず止まってたんだよね。お金払うために。知らな

          【小説】「裏切るなら自分(仮)」#1(短編集『感情採集』より)