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【小説】「裏切るなら自分(仮)」#3(短編集『感情採集』より)

 ――本上聖ほんじょうさとし(11)の場合。

 だって、ジャングルジムの上からこうさ、銃を構えて、バンバンって撃ったんだよ。いくら死にゲー(ぼくたちが勝手に名付けたゲームの名前)でも、エレナちゃんを撃つのは禁止だって、最初に決めたはずなのに。アオはさ、破ったんだ。もちろん注意した。アオ、それはルール違反だって。そしたらアオはさ、ゲームなんだから良いじゃんの一言。ルールがあるからこそゲームなのに、ルールを破ったらゲームじゃない。そうでしょ? だからぼくは、それは殺人だよ。そう返したらアオは、は? お前はいつもそうやって、物事を大げさにするよな。どうせ本から得た知識なんだろ。今はな、現実の話をしてるんだから、本の話は持ち込むなよ、って。あ、エレナちゃん。ううん。ケンカじゃないよ。エレナちゃんはルールに従って、救護係に助けてもらって。うん。あ、アッちゃんお願い。そしたらアオが、おいおい、なんで生きてんだよ。たった今、俺が撃っただろうが。――もしアオが、エレナちゃんへの発砲を正当化するなら、ぼくだってルールのスキを突くよ。アオだって、知らないわけじゃないだろ。平地での発砲と高所からの発砲の命中率には差があることを。今のアオの銃弾は、エレナちゃんの急所を外れたのさ。もともとアオは、命中力より威力を優先してたから、十分にあり得る話だよ。また屁理屈を。もう我慢ならない。次はお前だ、サトシ。バン! それでぼくは負けたってわけ。もしお姉ちゃんならどうしてた? 拳? ダメだよ。近づいた途端、ハチの巣で終わりだよ。でもさ、これ以上ルール破りはされたくないんだ。なんかアオは、ゲームとは関係なく、エレナちゃんのこと狙ってる気がするし。うん、そう。異性として。え? ぼく? ぼ、ぼくは違うよ。ただ隣の席だから仲良くしてるだけで、異性とかどうとか、そんなんじゃないよ。ホントだって。神に誓う。お姉ちゃんのハーゲンダッツに誓う。ぼくはそうお姉ちゃんに言ったけど、もちろんそんなわけないよね。お姉ちゃんが気付いてるくらいだから、クラスのみんなも気付いてるんだろうと思う。でもそうすると、アオのやったことって、その、なんていうか、シットって言うやつなのかな。本によく出てくるけど、いまいち、よく分かんないんだよね。怒りとも違うらしいし、憎しみ? とも違うらしいし。みんなさ、どうしてそれが、こころの動きが、だよ、シットって言う感情だと分かったのかな。あれ、逆? こころの動きに、後からシットって名付けたのか。ああ、そっか。そうだよね。あれ、お姉ちゃん、たまにシットって言うよね。ん? あれは英語? そうなんだ。知らなかった。くそったれ? シットって言うと、くそを垂れるの。なんか変なの。なら、ぼくは使わない。死んでも使わない。あ、そうだ。今度教えてあげよう。アオにさ、それはシットってやつだよって。それから、シットを感じた時は、シット!って言うと良いよって。おめでたいって? え、なにが? お姉ちゃん、なんでいつもそうやってごまかすのさ。ぼくだってもうすぐ、中学生だよ。毛が生えたら認める? もうお姉ちゃんさ、いつもそればっか。いいよ。じゃあ、生えたら教えてよ。認めてよ。男だって。大人だって。――男か。男ってなんだろう?

                               つづく

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