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【連載】「灰かぶりの猫の大あくび」#19【RPG編~黄泉がえりは突然に~】第2話

前回のあらすじ

見知らぬ家で目覚めたアイは、母親らしき人物にそそのかされ、地元の神社の例大祭に赴く。そこで行われていたテレポーテーションショーに参加したところ、何の因果か別の時空へと転送される。転送先の魔物の森で出会ったミヤビという剣豪と共に、町で情報収集に当たった後、町の西にある城跡にターミネーターが出ると言う噂を聞き、二人は正体を突き止めるため、城跡へ向かう。


登場人物

アイ
夏目愛衣と思われる人物。しかし、本人に自覚なし。

ミヤビ
アイが魔物の森で出会った剣豪。咲花刀さかばとうを所持。 

モノリス
灰かぶりの猫の自宅のAIスピーカー。現在は義体化済み。主人公の猫の復活のため、『クロノ・スタシス』という曰く付きのゲームを用意する。

灰かぶりの猫
久しぶりに小説を書き始めた、岩手県出身の三十代。本作の主人公。『学校編』にて、芥川賞候補作家の三島創一により、存在を消滅させられる。『RPG編』で、約一カ月ぶりの復活なるか。

※各固有名詞にリンクを添付(敬称略)。
※この物語は、重箱の隅をつついてもフィクションです。


――夜の城跡へとやってきた二人。夜露が降り、肌寒い。

ミヤビ「へっくち」

アイ 「装備を間違えましたかね。コートの一つくらい持ってくれば良かった」

ミヤビ「(周りを見渡し)――それにしても奇妙だな。ルンバで部屋の隅々まで掃除をした後のように、魔物の気配がまるでない。すでに誰かに掃討されたのか、それとも」

アイ 「ターミネーターにやられたということは考えられませんか?」

ミヤビ「アイくん。――今、初めてアイくんと呼ぶんだが、私は今だに、ターミネーターという存在が掴めない。からくりと言うのは分かったが、しかし動力は?」

アイ 「水素電池でしたかね。すみません。映画が上映されたのはもうずいぶんも前のことですし、最近は金曜ロードショーでの放送もないので」

ミヤビ「金ロー? 父上から聞いたことあるぞ。夕暮れの波止場に、物憂げにたたずむ男。その時に流れるトランペットのメロディーが、極上だと」

アイ 「わたしなら、映写機おじさんですね。――って、さっきからわたしたち、何かおかしな話をしてませんか? 前世の記憶とでも言えばいいのか、実感はないのに、どこか懐かしい。例えばそう、『マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや』のように」

ミヤビ「寺山修司じゃないか。ん? 寺山? 誰のことだ?」

アイ 「やっぱり。わたしたちおかしいですよ。ミヤビさんはターミネーターは分からないのに、ルンバの話をしてますし」

ミヤビ「この面妖な事態はいったい?」

?? 「――転生ですよ」

――突然、二人の間に割って入る声あり。振り返ると、

アイ 「タ、ターミネーター?」

?? 「シュワルツェネッガーさんはすでに州知事を辞めていますが、いくら暇だからと言って、この場に現れる道理はありません。出演依頼も出していませんし」

ミヤビ「では、そなたは?」

?? 「登場人物の欄に記載があるはずですが、お二人はまだ、これがメタフィクションであり、ここがゲームの世界の中だということに気付いていらっしゃらないようですね。そして、転生者ということにも」

アイ 「めたふぃくしょん? げーむ? てんせい?」

?? 「仕方がありません。お二人とも、よく耳を澄ませてください」

――??が瞼を閉じると、口の中に内蔵されている超小型スピーカーから、「カントリー・ロード」のオルゴールの音色が流れ始める。すると、まずアイが、メロディーに合わせてからだを左右に揺らし、「ひとりぼっち おそれずに 生きようと 夢みてた」と口ずさみ始める。やがてサビに入ると、今度はミヤビが手拍子を始め、??を交えた合唱となる。

?? 「いかがですか?」

ミヤビ「(静かに目じりから涙を流し)――今、思い出しました。私の青春の歌です。そうだ。私、いや俺は、『クロノ・スタシス』をプレイしている途中で、突然意識を失って」

アイ 「やなやつ、やなやつ、やなやつ。やなやつやなやつやなやつ!!」

?? 「天沢聖司くんにコンクリート・ロードと言われたことに対する怒りをぶちまける月島雫さんですね」

アイ 「雫ちゃんは猫を追っかけて行くうちに、地球屋にたどり着くんですよね。そこで猫のバロンと出会う。わたしも雫ちゃんを見て、物語を書くことに憧れたなぁ」

?? 「意外な過去が判明しましたね。夏目さんも物語を書いていたとは」

アイ 「え? ほかにもいるの?」

?? 「アイドルを目指している間に、すっかり忘れてしまいましたか。猫さんがいるじゃないですか。灰かぶりの猫さんが」

――直後、一陣の夜風が吹き抜け、夏目、名探偵コナンの劇場版『瞳の中の暗殺者』の毛利蘭並みに、一瞬にして忘れていたすべてことを思い出す。

アイ 「――そうだ。そうだった。わたしの名前は夏目愛衣。黄昏新聞の記者。そして、猫さんを復活させるためにゲームの世界に入り込んだんだった」

モノリス
   「そうです。ここはクロノ・トリガーのファンが作ったゲーム、『クロノ・スタシス』の中です」

アイ 「モノリス!(モノリスのことも思い出し、思わず抱き着く)」

モノリス
   「な、夏目さん。くすぐったいです。感覚器はありませんが」

アイ 「ごめんなさい。でもまさか、モノリスがターミネーターと噂されているとはね」

モノリス
   「このゲーム内ではどうも、ディカプリオさんの顔は使えないらしいのです。ドットの問題なのか分かりませんが」

ミヤビ「彼は知り合いか? いったい何者なんだ?」

アイ 「元々AIスピーカーだったんだけど、義体を手に入れて今の姿に」

モノリス
   「つい先日、OpenAIが最新の人工知能モデル『GPT-4o』を発表して話題となりましたが、ワタシのモデルは『GPT-3』です。略してイニシャルG」

ミヤビ「なるほど。藤原とうふ店のところのか」

アイ 「ミヤビさん、モノリスの発言を真に受けないでください。時々、おかしなことを口にするAIなので」

モノリス
   「全く自覚はないのですが、どうやら世間一般ではおかしなAIとして扱われているようです」

アイ 「それよりモノリス、本当にこのゲームの中で、猫さんを復活させることが出来るの?」

モノリス
   「クロノ・トリガーをご存じの方はすぐにピンとくると思いますが、古代の海底神殿でラスボスのラヴォスと対峙した際、戦闘に敗れると、主人公が消滅します。ですがその後、時の最果てに赴くと、老人から『時の卵』を譲り受けることが出来ます。その『時の卵』がまさにトリガーとなり、時空をさかのぼることで、主人公を救い出すことが出来るのです。その設定はおそらく、この『クロノ・スタシス』にも受け継がれているはずです」

アイ 「それって、『僕だけがいない街』みたいな?」

モノリス
   「それこそ、『時をかける少女』ですよ」

アイ 「じゃあ、時の卵を手に入れて、『学校編』のあの瞬間にさかのぼれば良いってわけね」

モノリス
   「はい。消滅する前の猫さんと、猫さんそっくりの人形を入れ替えれば成功するはずです」

アイ 「(心底ほっとしたように息を吐き)良かったぁ。――じゃあ早速、時の卵を手に入れに行きましょう」

ミヤビ「ただ、時の最果てに行くには、時空ゲートやシルバードが必要なんじゃないのか?」

モノリス
   「問題ありません。夏目さんが来る前に、ゲートホルダーを確保しておきましたので。そしてこの城跡には、時空ゲートも存在しています」

ミヤビ「用意の良いこった。じゃあさっさと、その灰かぶりの猫とやらを、蘇らせようや」

――モノリスの案内で、アイとミヤビは時空ゲートの場所へと向かう。空中には、ゲートと思しき黒点が浮かぶ。

ミヤビ「ほう。確かにこれは本物だな」

モノリス
   「(ゲートホルダーのメモリをカチカチと回し)行き先を、時の最果てにセットしてと」

アイ 「ねえ、モノリス。また、記憶喪失になったりしないよね」

モノリス
   「夏目さんが何度記憶を失っても、ワタシは夏目さんのことを忘れはしません。絶対に。それに、『カントリー・ロード』もあります。ワタシを信じてください」

アイ 「うん。分かった。信じる」

モノリス
   「では、行きますよ」

――モノリスがゲートホルダーを天高くかざすと、黒点が大きく開き、モノリス、アイ、ミヤビの順で、時空ゲートに足を踏み入れる。間もなくゲートが閉じ、三人は別の時空へと飛んだ。

                               つづく

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