丸膝玲吾

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獣はコーラを欲す

初夏、とはもう言えないのかもしれない。真夏といっても差し支えないほど暑い日々が続いている。 服は季節によって左右される。長袖の出番は終わりを告げた。これから9月の下旬に入るまで、もしかすると10月に入るまで、長袖が箪笥から引き出されることはないだろう。冬、春を共に過ごした彼らに感謝を込めて手を合わせよう。ありがとう。 夏。季節の中で最も好きなのが夏である人は多い。夏の醸し出す雰囲気、レジャー、風鈴やかき氷などの象徴物、田舎とか青春という概念など、夏の持つ魅力は数えきれない

    • 魚は空に沈む

      水面にペットボトルが浮いている。 水面に一匹の魚が浮いている。 この二つの文章に違和感を感じる人はいないと思う。私も長らく感じたことがなかった。水面の波に揺れて漂うペットボトル、魚は共に”浮いている”と表現する。これは誰もが同意する表現の仕方だと思う。 ”浮いている”という表現には”(本来沈むものだが重力に逆らって)浮いている”という文言が隠れている。”水面にある”と言われれば、物が水面に存在しているだけだが”水面に浮いている”と言われれば、物にかかる重力とそれに抗う上

      • [短編] 素敵な海岸

        渚に立った。白砂青松の圧倒的な美しさに、私は息を呑んだ。ここは街から外れた、大きな岩に囲まれた砂浜。日も傾いてあたりが段々と夜に飲まれていく。藍色の空と波立つ海が地平線で溶けて混じり合っている。海岸線に沿って歩く。右手には大きな岩が突出していて、岬になっている。波の花が絶え間なく咲いては散って、とても静かだった。岩場に登って先端に腰掛ける。遮るものがないから砂浜にいた時と、景色は大して変わらなかった。岩の表面にはいくつもの溝ができていて、それは世界中からやってきた船が通るため

        • [短編小説] カフェにて

          カフェで男女が話している。 「モテそうなのに、彼女いなかったんだ」 「全然、気配のけの字すらなかった」 「なんで?」 「なんで?って、顔じゃない」 「えーそんなこと…うん」 「口籠るのやめてよ」 「だって、割となんでもできるでしょ?頭もいいし、運動もできるし、お金もあるし、少しだけ面白いし。あとは顔だけか」 「それならもう十分じゃないの」 「やっぱ顔って大事だしね」 「フォローしてくれよ」 「ごめん」 女は項垂れた。男は被っている恐竜のマスクを激しく揺さぶって、首を上下に振っ

        獣はコーラを欲す

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          [短編小説] 藤倉教授

          「言葉の応用」初回の授業、藤倉教授が講義室に入ってくる。中肉中背、眼鏡をかけていて髪は短い。大半の人がそうであるように、彼がいるだけで場が華やかになる、ということはなく、学生たちは談笑を続けていた。チャイムがなり、藤倉教授が教壇に立って口を開く。 「君たちは学生である前に大人です。大人とは自分自身で責任を負う人たち、彼らのことを指します。あなたたちに少年法は適用されないし、契約も保護者の同意なくすることができます。あなたちの行動、人生の責任は自分たちで持つことが要求されるので

          [短編小説] 藤倉教授

          [短編小説] 不死身人間

          私が不死身であるという噂がたった。その噂の発生元は私ではない。いつの間にか青い空を灰色の雲が覆い尽くしたかのように、気がつくと村の人々が密かに囁き合って、不死身の人間を環から外していた。私がそれに気づいたきっかけも、そう決定的なものではなく、気づいたらそうだった、だけだ。 彼らの決して直に触れることなく遠巻きに覗く態度は、濡れた下着を履いているような気持ち悪さを感じ、私は村から出ようか、と考えた。しかし、ずっと畑を耕してきた人間が街に出て何らかの職にありつける保証もないし、

          [短編小説] 不死身人間

          [短編小説] ひどいじゃないか!

           階段を上がる。心臓がドクンドクンと波打つ。この鼓動の原因は最近の運動不足と、もう一つ、スライムのようにべっとりと体にまとわりつく緊張感から。教室には知り合いは誰もいない。友達もいない。別に、行きたいとも思えない、が、私は大学を卒業しなければならない。レールから外れる恐怖が階段をまた一段上がらせる。  ドアの前に立つ。スライド式のドア。金属の取っ手を握って左に引く。壁の隙間に扉が吸い込まれて、教室の様子が目に飛び込む。まばらに散った人は暗黙の了解のように1番前の席が空いている

          [短編小説] ひどいじゃないか!

          [短編] 歯

          若干粘り気のある布団を裂いた。出てきたのは鍵。小さな金色の鍵。それを鼻に突っ込み、右に回した。かちりと音がして、口が開く。歯が全て金に変わった。

          [短編] 歯

          [短編] じゃんけん

          じゃんけんぽん。君の勝ち。

          [短編] じゃんけん

          [短編] 口口口

          どうも落ち着いて喋れない。普段人と会話することが少ないから、話したいことが募ってしまってマシンガンのように一方的に捲し立てる。そのとき、自分のこと、身の回りのことを話しすぎてしまうのがいけない。例えば、今日会った友人に死んだ父親の兄のことを話した。私が生まれる前のことだったから記憶も話すこともそうあるわけではなく、ただ死んだことを伝えただけだ。つまり、私は父の兄を使って自分を主人公に仕立てた。私の人生の一つの悲劇としてそれを持ち出した。 喉が痛い。それは罪悪感からなのか、単

          [短編] 口口口

          [短編] お金

          頭をひねればお金がもらえるらしい。生憎我が家は正常である。異常を排除するための機構である。私は震えている。将来に不安に震えている。私は二十代の後半に差し掛かろうとしている。私は震えている。そろそろ三十代になってしまう。全てを若さで乗り越えるには言い訳することができない台へと足を踏み入れる。私は不安である。それは将来に対してのぼんやりとした不安である。

          [短編] お金

          [短編] 夜迎

          日の沈みゆく空の青色をなんと形容しようか。明らかに昼間のそれとは違う。色が濃縮され濃さを増し、体の芯に届き、空と地面の距離は口付けをするように近くなる。街はその輪郭だけを残し影に身を落とす。街灯が景色に点をうつも、遠くから見ると雲の上から散らしたように秩序がない、が、それでいい。そうして街は夜を迎える

          [短編] 夜迎

          [短編] 部屋

          カラスが鳴き声を聞いて、静謐な部屋に気づいた。それまでも部屋は存在していた。傷の入った茶色のフローリングに南に取り付けられた窓から光が差し込む。壁に密着した棚とそのわずかな隙間に埃が溜まる。クローゼットにはハンガーにかけられた上着が何着もかかっている。あの紺の服を最後に来たのはいつだろうか。机の上には朝食時の食器が片付けられずに残り、白い茶碗に米が乾燥して張り付いている。布団はまだ畳まれていない。 これらを全てまとめるは部屋。私が夢を見ている間も部屋は存在した。

          [短編] 部屋

          [短編] 痣

          あなたの痣を見る。肌が焼けて爛れ落ち、血で赤みがかった様子が痛々しい。私はそこに手を触れる。あなたは痛いと言う。私はそれを強く押す。あなたは痛いと言う。私は手を離す。あなたは黙っている。私はもう一度手を触れる。あなたは痛いと言う。

          [短編] 痣

          [短編] 桜

          甘い匂い。花を通った瞬間に淡い桃色の情景が浮かぶ、あの匂い。私は川沿いを歩いてる。右手ではくるぶしまでの浅い流れがコポコポコポと空気を服見ながら笑い、左手では桜が風にざわめき立ち花弁を離さまいと枝をしなれせ抵抗している。私は川沿いを歩いている。

          [短編] 桜

          [短編] 日々記

          最近意味を持たないことに憧れを抱く。無意味。無意味こそがこの世の真理なのではないかと思う。その考えは死についての考察からだった。考察はまだ固まっておらず、泥のように形を変えている。ただ、ぼんやりと思っていることとして死には大した意味がないのではないか、と思う。死が大した意味がないなら生きることにも大した意味がなくて、それならもっと思い切った行動をしても、全ては大地に針を刺すほどの些事なのではないか。 最近、水仙という花を知った。ネギの上部のような茎(葉?)を持ち、白花びらか

          [短編] 日々記