[短編] 素敵な海岸

渚に立った。白砂青松の圧倒的な美しさに、私は息を呑んだ。ここは街から外れた、大きな岩に囲まれた砂浜。日も傾いてあたりが段々と夜に飲まれていく。藍色の空と波立つ海が地平線で溶けて混じり合っている。海岸線に沿って歩く。右手には大きな岩が突出していて、岬になっている。波の花が絶え間なく咲いては散って、とても静かだった。岩場に登って先端に腰掛ける。遮るものがないから砂浜にいた時と、景色は大して変わらなかった。岩の表面にはいくつもの溝ができていて、それは世界中からやってきた船が通るための澪なのだ。突出したところは小さな浮島で、あれは瀬戸、あれは黒潮、あれは運河…。「「「ザッパーン!」」」と大きな音がした。潮煙が目線まで立ち上った。それは静謐な空間を壊す始まりの鐘楼だった。人の心は徒波、彼女はもう言ってしまった。私は、まだ言えないままだった。

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