在宅看取りで、命を受け継ぐ②
70 代のHさんは要介護5の寝たきりで、在宅療養をされていた患者さんです。家庭のなかで、事例8で取り上げた「お孫さんの宿題の音読に付き合う(88ページ)」という役割を得て、約3 年間、在宅で生活をされていました。
その後、小学生のお孫さんたちは宿題を通じて祖父のHさんと接するうちに、Hさんの介護も自然に手伝うようになったそうです。終末期の頃には、Hさんの便のおむつ替えでも特に嫌がる様子もなく、ごく自然にできるようになっていました。
そうした療養生活の末、最期はご家族皆さんに見守られ、在宅での看取りとなりました。
Hさんが亡くなって、1カ月ほどした頃。グリーフケアの一環でHさん宅を訪問すると、長女さんが、小学校6 年になった孫が書いてくれたという作文を私たちに見せてくれました。そこには、丁寧な文字でこのような内容が記されてしました。
作文には、お孫さんの気持ちが率直につづられ、祖父のHさんの看取りを経験したことで、いろいろなことを学び、成長された様子がとてもよく表されています。
私たちは、在宅医療チームのみんなで読みたいからと長女さんに伝え、お孫さんの作文を写真に撮らせてもらいました。今も、その作文は私たちチームの宝物になっています。
先に逝く人から教えてもらうことも、たくさんある
事例のHさんのように、幼いお孫さんも含めて家族で介護をし、家族で看取るというのは、どの家庭でもできることではないかもしれません。最近では、身近な人の「死」はつらく悲しいこと、幼い子どもには見せないようにするという傾向が強いと思います。
現在30 代後半の私は小学生の時に祖母が亡くなりましたが、祖母に関するすべてを大人が済ませてしまい、自分は遠巻きにしているだけで関わりをもてませんでした。当時はそんなものだから仕方がないと思いましたが、あとから思うと、それは孫にとっても寂しいものです。私が医師になったあと、祖父の具合が悪くなったときは、時間としてはわずかですが薬のアドバイスをするなど、少しでも関わりをもてたので、ありがたかったと思っています。
ほんの些細なことでもいいので、亡くなる人と残る人との間に何かしら関わりがあると、そのことが、本人が亡くなったあとに遺族の気持ちを支えてくれるように思います。
介護をしている最中はつらいことや不安、戸惑いもたくさんあるでしょう。しかしその経験を通じて、残る人たちは先に逝く人からたくさんのことを教えてもらっています。Hさんのお孫さんのように、大好きなおじいさんが病気を経て亡くなったという体験は、お孫さんのなかでずっと生き続けていきます。在宅看取りはこのように「命を受け継ぐ」ものなのです。
【事例20で知ってほしいポイント】
● 大切な人の病気や死は、つらく、悲しいこと。しかしそこに寄り添うことで、次世代の家族もたくさんのことを教えてもらっている。
● 在宅看取りは先に逝く人から、残る人たちが「命を受け継ぐ」かけがえのない経験。
● 看取りの現場に立ち会うことは、在宅医療チームにとっても大きな学びであり、医療・介護の専門職としての成長にもつながる。
引用:
『事例でわかる! 家族のための「在宅医療」読本』
著者:内田貞輔(医療法人社団貞栄会 理事長)
発売日:2021年6月1日
出版社:幻冬舎