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見つめる先には

雨上がりの陽の光は希望に満ち溢れている。

地面に浮かぶ水溜まりは人々に煙たがられるが

見方を変えると街をキラキラと映す鏡に。

そんな感じで少し目線を変えてみると新たな発見があるから、

人生は心の底から楽しいと思える。

雨に打たれ続けたエディンバラからヨークへと帰ってきた僕は

今晴れ渡った空の下、城壁の上を歩く。

かつてはローマ人、アングロサクソン、ノルマン人など度重なる侵略、

まぎれもなくこの城壁は数えきれない戦いを見守ってきた。

僕がこうして街を見渡しているように

兵士たちは勇敢にも見張りをしていたのかと思うと

なんだか歴史の重みを感じた。

殺伐とした重厚な石畳を歩く僕らの顔には不思議にも笑顔が広がっている。

すれ違いざまに少し世間話をしたり、アイコンタクトをしたり、道を譲りあったり、

ただの観光客であった僕もその瞬間はまぎれもなくその土地の一員であった。

僕のようにあてもなく散歩する人もいれば、静かに遠くを見渡す人もいる。

彼女もその一人だった。

太陽に照らされた艶やかな肌はどこまでも透き通っていて

それでいて一点を見つめるその姿は彼女の存在を際立たせていた。

僕も彼女の隣でヨークの街を見渡す。

大好きなビートルズのあの歌もなんだかこの時はやけに煩く感じて

イヤホンを耳から外した。

途端、愉快な足音や小鳥の囀り、水仙と春風の話し声、

数え切れない音が鼓膜を揺らして、気づけば彼女と同じようにしてどこか遠くを見つめていた。

見つめる先は同じでも、思い浮かぶ感情や情景は千差万別で

それでも町は優しく見守ってくれる。

様々な思い出や後悔が入り混じっていたあの時間は忘れられない思い出の一つになるだろう。

旋毛に落ちてきた雨の一滴でハッとする。

雨粒が陽の光を攪乱して一層光り輝いていた。

ああ、雨上がりの陽の光は希望に満ち溢れている。











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