アレゴリカル手羽先唐揚げ出版社

手羽先唐揚げをこよなく愛するユニットが好きに書いています。音楽性の違いを認識しつつ、ビ…

アレゴリカル手羽先唐揚げ出版社

手羽先唐揚げをこよなく愛するユニットが好きに書いています。音楽性の違いを認識しつつ、ビジネスから小説、書評、哲学などそれぞれの個性で色々書いてます。手羽先唐揚げとクラフトジンジャーエールのお店もやっていく未定の予定です。

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最近の記事

【読書】『〈公正(フェアネス)〉を乗りこなす: 正義の反対は別の正義か』(朱喜哲)

多様性はとても大切だ。だが、各々が異なる価値観を持ちながら共生する社会を想像すると、すぐに壁にぶつかってしまう感覚がずっとあった。金子みすゞの如く「みんなちがって、みんないい。」は理想だが、本当に社会はそれで成り立つのだろうか?─という疑問だ。 そんな閉塞感を抱いていた折に、『〈公正(フェアネス)〉を乗りこなす: 正義の反対は別の正義か』(朱喜哲著)が目に留まり読了した。 著者はジョン・ロールズやリチャード・ローティを引きながら一つずつ丁寧に議論を進めている。まずは、本書

    • コミュ障なのかと思っていたら、感情と向き合うのが苦手なのだと気がついた話

      ずっと自分のことを「コミュ障」だと思いながら過ごしてきたが、どうも違和感があった。仕事で何か目的が明確な場合には、割とすんなり行く。言葉に詰まることはなく、別に挙動不審な訳でもない。(自称) 対照的に、目的がよくわからない場合には、途端にポンコツになってしまう。その際たるものが、雑談などの他愛もない日常会話だろう。そこには、会話の目的はない。会話自体が目的なのだ。いい歳した大人ながら、私はこれが苦手だ。 * 「コミュ障を克服するには」だとかのトピックで検索すると、だいた

      • 【読書】わからないことを、もっと大切にしたい──『弱さの思想』『「雑」の思想』『「あいだ」の思想』(高橋源一郎・辻信一) [後編]

        高橋源一郎と辻信一が10年に及ぶ共同研究を通じて培ってきた思想をまとめた三部作。三冊全てが対談形式となっており、一冊あたり200ページ強のボリュームのため読みやすい。私個人としても、これまで社会に対して抱いてきた違和感や問いが言語化されており、とても多くの学びと含蓄に満ちた本だった。私にとって、恐らくこの本からの学びは今後の人生を送る「あいだ」のよすがのようなものになるように感じた。 具体的な中身はぜひ実際に読んでいただきたいが、このエントリでは各本からの気づきや感想、抱いた

        • 【読書】複雑なものを複雑なままにしておきたい──『弱さの思想』『「雑」の思想』『「あいだ」の思想』(高橋源一郎・辻信一) [中編]

          高橋源一郎と辻信一が10年に及ぶ共同研究を通じて培ってきた思想をまとめた三部作。三冊全てが対談形式となっており、一冊あたり200ページ強のボリュームのため読みやすい。私個人としても、これまで社会に対して抱いてきた違和感や問いが言語化されており、とても多くの学びと含蓄に満ちた本だった。私にとって、恐らくこの本からの学びは今後の人生を送る「あいだ」のよすがのようなものになるように感じた。 具体的な中身はぜひ実際に読んでいただきたいが、このエントリでは各本からの気づきや感想、抱いた

        【読書】『〈公正(フェアネス)〉を乗りこなす: 正義の反対は別の正義か』(朱喜哲)

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        • ほんのサムシング
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        • アレゴリックな手羽先たち
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        • ショートショート
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        記事

          【読書】強さと弱さの二項対立を超える──『弱さの思想』『「雑」の思想』『「あいだ」の思想』(高橋源一郎・辻信一)[前編]

          高橋源一郎と辻信一が10年に及ぶ共同研究を通じて培ってきた思想をまとめた三部作。三冊全てが対談形式となっており、一冊あたり200ページ強のボリュームのため読みやすい。私個人としても、これまで社会に対して抱いてきた違和感や問いが言語化されており、とても多くの学びと含蓄に満ちた本だった。私にとって、恐らくこの本からの学びは今後の人生を送る「あいだ」のよすがのようなものになると感じた。 具体的な中身はぜひ実際に読んでいただきたいが、このエントリでは各本からの気づきや感想、抱いた思い

          【読書】強さと弱さの二項対立を超える──『弱さの思想』『「雑」の思想』『「あいだ」の思想』(高橋源一郎・辻信一)[前編]

          【読書】『うしろめたさの人類学』(松村圭一郎)

          以下のエントリでも取り上げた『うしろめたさの人類学』(松村圭一郎著)について、読了後のメモと所感を備忘録としてまとめておきたい。 この本では、文化人類学者である著者がエチオピアの参与観察から得た「構築人類学」のレンズを通して日本社会を覗いていく。エチオピアと日本との対比によって、現代の日本社会が抱える歪みに気付くことができる。平易な言葉で書かれており、とても読みやすい本だ。 【はじめに】構築人類学について世間の常識や仕組みは私たち自身がつくり出している 「構築人類学」と

          【読書】『うしろめたさの人類学』(松村圭一郎)

          千葉雅也「現代思想入門」を読んで

          タイトルには似つかわしくない感想かもしれないが、とても勇気づけられる本だった。「フランス現代思想の本」というと高尚で世間離れしたもののような気がしてしまうが、この本ではむしろ世俗性こそを肯定し、「こんな生き方でよいのだろうか」と日々落ち込みがちな読者を元気づけてくれる。 *** ひとまずざっくりと内容を振り返りたい。まずは、デリダ、ドゥルーズ、フーコーというフランス現代思想のスーパースターの思想の紹介から始まる。脱構築とはなにか、彼らが何をどのように脱構築したかが最初の3

          千葉雅也「現代思想入門」を読んで

          「共感」が抑圧された社会

          とある飲食店に入った。どこにでもあるチェーン店だ。 溌剌とした店員がいる。もしかすると店長だろうか。 注文を訊かれて、応える。 私もつい、少しだけ声のトーンが明るくなる。 「いま相手のとっているコミュニケーションが、 あなたがいまとっているコミュニケーションです。」 ふと、『こころの対話』のセンテンスを思い出す。 注文後も、周囲に気を遣ってくれる人だった。 複数名の客に「取り皿使われますか?」とか、会計後の客に「お気をつけて帰ってくださいね。」とか。 「そういう」マ

          「共感」が抑圧された社会

          【小説】筑紫国の押領使が毎日大根を二本食べ続けた結果「徒然草」より

          -1- その里は、秋から冬に移り変わろうとしていた。 山へ、冷気が頂から流れ込み、その山腹を冷たく乾燥した風がなでつけ、その風が人々と家屋に容赦なく吹きつける。 山裾を絶えずに流れる川の水も、朝は凍るような冷たさであろう。その水は、地域の田畑を肥沃にし、人々に作物をもたらす。 この川の水を引き、農作物を育てる簡素な武家屋敷があり、ここにひとりの押領使がいた。 押領使とは平安時代に、朝廷より与えられた、地方の治安維持にあたる役職だ。 京の検非違使とは異なり、地方担当

          【小説】筑紫国の押領使が毎日大根を二本食べ続けた結果「徒然草」より

          【読書】『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる ―答えを急がず立ち止まる力』(谷川嘉浩・朱喜哲・杉谷和哉)

          ネガティブ・ケイパビリティ。これは、詩人のジョン・キーツが「不確実なものや未解決のものを受容する能力」として用いた言葉だが、この概念自体が本人によって仔細に論じられている訳ではない。 この本は「ネガティブ・ケイパビリティ」を書名に冠しているが、その概念自体に触れることは数回程度に留まり、紙幅の大半を様々なテーマを多面的に検討する三人の哲学者の鼎談に割いている。書名の通り、それは性急に何かを片付ける訳ではなく、そもそも結論を出す訳でもない。「結局、何が言いたいの?」という態度

          【読書】『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる ―答えを急がず立ち止まる力』(谷川嘉浩・朱喜哲・杉谷和哉)

          AIについての備忘録

          AIの技術革新が目覚ましい。昨日見たニュースによると、「Microsoft 365 Copilot」を使えば、ちょっとした指示でメールの文章やプレゼン資料を作ってくれたり、議事録を取ってくれたりするらしい。素晴らしい機能である。 一方、Twitterで見かけた「GPT-4搭載のすごい自動ブログ生成ツールもあるよ!」という内容のつぶやきには、やや倒錯を感じてしまった。というのも、私にとってブログとは個人の自己表現のツールという意味が第一義であり、そこをAIが置き換えることの価

          物語としてのメルカリ

          子どもの頃から、積極的に他人の人生に関わっていくのは苦手な質である。しかし、自分には直接の影響がない距離から人の生活をのぞき見し、想像を巡らせるのは好きである。正確に知りたいわけではなく、少しだけ見える・聞こえる情報から勝手なストーリーを想像するのが面白いのだ。 例えば、電車の窓から見えるマンションのベランダ。そこに干された洗濯物。その断片的な情報から、その家庭の生活に思いを巡らす。阪神タイガースの大きなTシャツと少年野球のユニフォーム。くたびれた女性物のカットソーに、大量

          失われた筆跡とプロセスの追憶

          仕事で、ノートの代わりに iPad を使っている。Apple Pencil(第2世代)とペーパーライクフィルムの組み合わせは至高で、まるで本物の紙とペンのようだ。 以前は、 ラップトップに直接メモや会議の議事録を打ち込んでいた。その方が、後からノートの乱筆を見返して悪戦苦闘することもない。極めて「効率的」だと思っていた。実際、メモを取ったページをパラパラとめくって迷子になることもない。 ただ、「手書き文字を認識してテキストに自動変換される機能」には違和感を感じる。Appl

          失われた筆跡とプロセスの追憶

          【序文小説】手羽先唐揚げと強引な共通性についてのアレゴリー

          金曜の午後七時。 大阪梅田東通りを二人の男が歩いていた。 冬の終わりとも、春先とも言える三月上旬は、湿り気のある生暖かさと、粉っぽさ(花粉によるものだろう)が入り混じり、粘りこい空気感だ。 梅田東通りは、様々な看板たちで彩られている。 あかあかとした焼肉屋の電飾看板、控え目に沈んだパープルのホテルの看板、黒くちりちりと光る下着屋のサイン、壁に取り付けられたパイプ状の細く青いネオンはモダンな中華料理屋のもの、見慣れた某居酒屋チェーン店の電飾…その中を二人の中年男性が横並

          【序文小説】手羽先唐揚げと強引な共通性についてのアレゴリー