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酒好きになり店を出したら人に騙され人に救われた話⑧

大学生活も慣れてきた秋頃

東洋や酒見という大学の友人のおかげで
夜は飲みがほとんどだった。

当初、あれだけ躊躇していたお酒も
秋頃には飲みに行きたいと思える程
頻繁にお酒を飲んでは酔っていた。

アルバイトも慣れてきた頃
バイト先の先輩からも飲みの誘いが来た。

「嘉松、酒飲めるの?」

「はい、めっちゃ好きです!」
即答だった。

ある程度、仲良くなっていたものの
プライベートの繋がりは
まだ弱かったのでとても嬉しい誘いだった。

「じゃあ、今度城さんと飲み行こうか!」
まさかの人事の城本さんとも
飲みに行くことになろうとは
思ってもいなかった。

嬉しい反面
無知な大学生相手に社会人の方が
一緒に飲んでくれるなんて思うと
緊張も同時にあったのを今でも覚えている。

「城本さんですか…?あの人事の?・・・ぜひ行きましょう!」

緊張しながらも
城本さんは私をチーフに挙げてくれた恩人である。
行かない理由がなかった。

「じゃあ店は歩きながら適当に決めようか。薬院くらいで」

薬院とは福岡の天神地区の隣にある
閑静な住宅街だ。

わくわくしながら、集合場所の
薬院大通駅に向かった。

すると、優しそうな笑顔の男性が近づいてくる。
目の悪い私は遠くからその人影を判別できなかったが
近くに来てようやく、城本さんだとわかった。

仕事の時には見せない満面の笑みだった。

そして少し遅れて先輩も到着した。

「お待たせです!行きましょうか!」
先輩がそう言いながら歩き出した。

「お二人はよく一緒に飲み行かれるんですか?」
ふとした疑問を投げかけてみた。

「そうだよ!よく飲み行ってるね!」
なんか二人の意気投合ぶりは
長年一緒にいるかのような雰囲気すらでていた。

「嘉松は普段、どんな店で飲むの?」
唐突にこんな質問を投げられた。

東洋のおかげで
こんな店が良いという答えは決まっていた。

「小料理屋みたいな場所で静かに飲みたいですね、
 あとビールは発泡酒でなく生ビールが良いですね!」

完全に受け売りの答えである。
当時は決まってそう答えていた。


そんな会話をしながら路地裏を歩いていると
3人の足が止まった。

おしゃれな看板が目についた。
そこには「灯楼」とだけ書かれてあった。

看板から入口まで
30メートル程の道がある
その脇には日本酒の瓶がぎっしりと鎮座していた。
飲食店であることは間違いなさそうだ。

「行ってみますか?」
先輩がそういう前に3人の意思は固まっていたように思えた。

そのまま入り口へと進むと店内が見えてきた。
でかいテーブル席に書道の文字が壁にいっぱい掛けられていた。

肝心のカウンターやキッチンが見えない。
おそるおそる店内に入る

すると、高級料理店に似つかわしくない
髭を生やした男性が笑顔で店の奥から出てきた。

「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」

これが私の人生を変えるきっかけとなった
酒井智矢との出会いだった。



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