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酒好きになり店を出したら人に騙され人に救われた話⑨

店に入ると、壁には色紙に書かれた書

目の前には作務衣のようなものを来た飲食店らしくない男性

今まで知っていた飲食店とは
少しイメージも違っていて戸惑いを隠せなかった。

なによりカウンターもキッチンもがないのだ。
見えるのは20名程が座れるであろうテーブルだけだった。

「どうぞこちらへ。」
作務衣を着た男は丁寧な対応で店の奥へと案内する

奥に行く間に書を見るとすごく独特な書体で
いい雰囲気の書が目に入る。

この時点で、この店に少し興味が増していた。

奥に通されると
そこにはキレイな木目のカウンターと高級そうな皿
棚には焼酎がきれいな等間隔で並んでいる。

その横にあるキッチンでは
イケメンそうな男性が調理をしている。

「すげっ…」
入り口に並ぶ書とイメージがマッチした店内は
まだ、飲みに行った回数が少ない私としては
相当な高級店に見えた。

平日の夜だったので
お客様は私たちだけだった。

3人とも席に座ると
作務衣をきた男性が笑顔で
飲み物を聞いてきた

「生3つお願いします」

当たり前のようにビールを頼むと
3人とも今まで黙っていた口を開いた

「なんかすごいね」
先輩の安藤さんが唐突に口を開く

思っていたことは皆一緒だったのだろう

メニューを見て更に驚いた
丁寧な筆文字でメニューが記載されているのだ。

その書体が店内の雰囲気も相まって
重厚感に満ちていた。

そうやって息を飲む間に
ビールとお通しがやってきた

お通しとは思えない
キレイな盛り付けと食材に更に
心を惹かれていた。

ついでにだし巻きと天ぷらも注文して
ワクワクしながら料理を待った。

「お待たせしました」
高級そうな皿に乗ったプルプルと震える
黄色のだし巻きはとてもキレイな色をしていた。
重厚感のある色の皿との相性でとても輝いて見えた。

ワクワクしながら
料理を取り分けに入る
そのだし巻きに箸を触れると
持ち上げるだけで切れてしまいそうなくらい
繊細な柔らかさを保っていた。

さらにワクワク感が増す

その輝く黄金の卵焼きを
口に持っていくと
風味の良いかつおだしの香りと
その食感に完全に心奪われてしまった。

2人の顔をみると
同様に満足そうな顔をしていた。

あの料理人は何者なんだろう?
そんな疑問も湧いてくる

天ぷらも食して
ゆっくりした頃に
その作務衣姿の男との会話が始まる。

「なんで作務衣なんですか?」

すると意外な答えが返ってきた

「昼間は路上で詩人やってるんですよ」

そこで全ての伏線がつながった

入り口から見える書
メニューの筆文字
すべてこの人が書いていたのだ

その”酒井智矢”という
路上詩人に興味を持ってしまったのが
人生の分岐点のひとつだったのかもしれない



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