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大学中退して独立したら独立なんて必要なかった話⑮

僕一人家のパソコンに向かっていた。これだ。これしかない。僕たちが始められる事業。低資本できる事業はこれしかない。いてもたってもいられなくなった僕は鳥部に電話をした。

「もしもし。鳥部?いつものベンチで話そうぜ!」

「おう。わかった。30分後にベンチで!」とお昼寝でもしてたような声で鳥部が答えた。

30分も待てない。僕は10分も待てずに家を出た。鳥部の家の近くにあるベンチまで5分とかからない。ベンチに行く途中で缶コーヒーを二つ買う。ベンチに着くと腰掛け、缶コーヒーを開けて、タバコの火をつけた。僕の呼吸に合わせてタバコは点滅する。

しばらくすると、鳥部が現れた。短パンにTシャツのラフな格好。

「お疲れさん!あっ!ありがとう」

僕は缶コーヒーを鳥部に手渡した。鳥部も缶コーヒーを開け、一口飲むとタバコに火をつけた。すっと吸い込み、ゆっくりと煙をはくと

「イベントの話?」

「いや、イベントもうやめようかと思って」

鳥部は面を食らった顔でこっちを見ていた。

イベントを始めて数ヶ月が経っていた。イベントは計12回行った。自分たちが思いつく施策を盛り込んでやった。ライブハウスのスタッフに受付を任せず、自分たちでお客様の対応をする。お客様との会話を自らしに行った。話してお酒が好きだとわかると、こちらで用意した酒を振る舞った。帰る際には当日演奏したバンドの音源の入ったCDを無料で渡した。バンドからもお客様からも手応えのある反応があった。鳥部が他のイベントで一緒にやることが多かった子や、ツーリングを一緒に行った音楽好きの白田。鳥部の高校時代の同級生の佐藤。一緒にイベントを行うメンバーも5人まで増えていた。

しかし、問題があった。儲からなかったのだ。赤字ではなかったがお小遣いに毛の生えたレベルの収益。自分たちの人件費を考えれば、明らかに赤字だった。12回もやればわかる。このまま続けていても、生業としてやることは難しい。

「じゃあ、何するの?」と鳥部が言った。

だから鳥部といると面白い。普通ならやめましたで終わり。次の行動なんて考えない。鳥部は次の行動まで考えていた。行動主義者なのだ。

「映像制作・動画制作をしよう」

イベントで収益があげられなかったと言って、何も手に入れられなかったわけではなかった。イベントのプロモーションの一つでイベントの動画をYouTubeに上げていた。まだ国内では動画を上げる人が少なく、YouTubeに動画を上げている人が変人扱いされる時代。チャンネル登録者が1000人もいればトップクラスのYouTuberと言える時代。しかし、少しながら風がふいていた。現在TOP YouTuberと呼ばれる人が毎日投稿を始め出した時だった。これからはネットが発達し、誰もが動画を作る時代になると予見したのだった。

「いいんじゃない!やってみようぜ!」思いの外、かるく答える鳥部。

まず行動しなければわからないことがある。それをお互い理解していた。

僕たちはイベントをやめ、動画制作を始めることになったのだった。



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