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酒好きになり店を出したら人に騙され人に救われた話⑯

親不孝通りで飲食店を始めてはや1ヶ月
周りの店の状況がわかってきた。

まずはうちの店が入っている5階。
それは驚きの連続だった。

まずは衝撃の出会いであり
飲食時のお父さん的存在となったハマさんとの出会いは
外すことはできないだろう。

その出会いは通常の仕事の始まりだった。
開店準備をしていると
zのオーナーが出勤してきた。

「こんばんは!」

なるべく元気に挨拶をした。
最初に得ている情報は
矢沢永吉のファンの店だ。
嫌われたら終わりだという強い危機感を持っていた。
しかし、思いのほか返ってきた返事は優しい声だった。

「こんばんは、よろしく!」
それだけ言い残すと、店のなかに入って行った。

イメージと声のギャップに唖然としていた。
大学の時にアルバイトで経験した
矢沢永吉のライブにいたお客様のイメージとは
かけ離れていたからだ。

歌って騒いで盛り上がる

陽気な方が多い中で
この人は少し違うのだろうか。

そんな妄想はとんでもない
爆音とともにかき消されることとなる。

それぞれの店に入ったあと少し考えた。

〈今後、長い付き合いになるのだからちゃんと挨拶に行こう〉


一杯だけお酒飲もうと思い、zの扉の前に立った。
その時は覚悟が決まっていたのだろう。

躊躇することなく
すんなりドアに入った。

「すみません、お疲れ様です」

・・・

物音ひとつもない静かな店内だった。
扉を開いただけで店の奥は全く見えない

〈営業前なのかな?〉

そう思いながら
扉の奥に進んでいく

すると衝撃の光景が
目の前に広がった。

客席であろうソファー席に
先程、挨拶したオーナーであろう男性が
寝ていたのだ。

「あの。。すみません」
おそるおそる声をかけると
その男性は驚いたように起き上がった

「おぉ、となりのおでん屋の。。。」
少し寝ぼけたような声で挨拶を返された。

「挨拶がてら一杯のみに来たのですが、大丈夫でしょうか?」

「おぉ、ありがとうございます!座って座って!」
オーナーの男性は嬉しそうに誘導してくれた。

そして、いろんな話をする中で
いろんなことがわかってきた。

このオーナーさんは元某大手清掃会社の
お偉いさんだった。

早期退職して店を始めたらしい
話が進むにつれてお互いの距離感が縮まってきた。

「なんて呼ぼうかなぁ。。正太ならマサやな!」

「俺のことはハマさんかハマちゃんなっ!」
向こうの呼び方は指定されてしまった。

ここからハマさんと私の親子のような
関係がスタートした。

「今日、営業終わったら飲みに来んね!」
そんな優しい声かけに即座に承諾していた。

そして夜、店に伺うとこんな第一声からスタートした
「おぉマサ!まっとったぞ!ビールでいいや?」

徐にビールを出してくれると
待ってましたとばかりに
永ちゃんのDVDを流し出した。

身体中に響く爆音で楽しそうに熱唱し始めた。

やはり、永ちゃんのファンは変わっている。。
そんな衝撃の出会いがハマさんとの出会いだった。



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