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3分で読める小説

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1〜3分で読める!〜1800字以内の創作小説
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2021年9月の記事一覧

【連作】ヨッチのこと5

【連作】ヨッチのこと5

給食時間。

ツヨシが一方的に絡んできたから悪いのに、何故か一言だけ言い返した僕まで先生に酷く叱られた。

喧嘩両成敗…なんて理不尽な理由で叱られるのは納得いかない。

机で一人突っ伏していると、ヨッチの声が降ってきた。

「5時間目、“ぼいこっと”しようぜ。付き合うからさ!」

顔を上げるとイタズラっぽい笑顔がそこにある。

僕は立ち上がった。

きっと先生に叱られても納得できる、と思えたんだ。

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【1話完結小説】愛護精神

【1話完結小説】愛護精神

「こんにちは〜。」

『マダム。ようこそいらっしゃいました。ごゆっくりお選び下さい。』

「アラ、この子可愛いじゃない。丁度こんな感じの子、探してたの。」

『流石マダム、お目が高い。こちらは昨日入荷したばかりでございます。』

「でもこの子だけ買ったらペアのこっちの子、あぶれて売れ残っちゃうかしら?」

『いえいえ、そのような事はどうかお気になさらず。』

「でも売れ残りの子は処分されちゃうんで

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【連作】ヨッチのこと4

【連作】ヨッチのこと4

「押忍!」

振り向くとヨッチだった。
最近空手を習い始めたらしい。

「俺、上手いよ!毎日100時間は稽古してるからさ!」

押忍!押忍!押忍!…
連続で挨拶ポーズを見せてくる。

初回は延々挨拶練習だったんだろうな、と思いながら僕は笑って言った。

「うっせーよ!」

end

←ヨッチのこと3

ヨッチのこと5→

【連作】ヨッチのこと3

【連作】ヨッチのこと3

新学期の昼休みはまだどこか落ち着かない。

「な、お前絵上手いんだろ?キメツ描いてよ!」

ヨッチがおもむろに自由帳を差し出してきた。

*****

「…できたよ。」

描き終わり顔を上げると、僕の周りには誰もいなかった。

校庭からは皆が楽しそうにサッカーする声が聞こえてくる。

(…あぁ、またこのクラスでも一人かな。)

そう思った瞬間、

「ごめんごめん!これとこれにも描いてよ!」

連絡

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【連作】ヨッチのこと1

【連作】ヨッチのこと1

ふーせんの実をガラガラいわせながら、
ヨッチが公園にやってきた。

1人でブランコを漕いでた僕に向かって叫ぶ。

「探検ごっこしよーぜ!」

駆け寄った僕に

「はい!きび団子。」

ふーせんの実を1粒。

「犬じゃねーし!」

笑いながら2人で駆け出す。

夏が一気に膨らんでいく。

end

ヨッチのこと2→

【連作】ヨッチのこと2

【連作】ヨッチのこと2

放課後、ヨッチが急に声をかけてきた。

「今夜10時、お前んち近くの三角公園集合な!」

*****

翌朝。

「お前昨日来なかっただろ!母ちゃんに怒られんのビビッたな!?」

笑顔で空手チョップをかましてくるヨッチ。

実際来なかったのはヨッチの方。

だから僕が10時10分まで待ってた事、知らないんだ。

end

←ヨッチのこと1

ヨッチのこと3→

【1話完結小説】記憶に無いおつかい

【1話完結小説】記憶に無いおつかい

「あんたは小さい頃“は◯めてのおつかい”に出たことあるのよ。」

 そう言いながら一度もその時の映像を見せてくれたことのない両親は、俺が20になった年に交通事故で死んだ。
 葬式も終わり、両親の部屋の片付けをしていると“は◯めてのおつかい”と書かれたDVDが出てきた。

「ああこれか。言ってたことは本当だったんだな。」

 特に興味もなかったが、何の気無しに再生してみる。例の音楽と共にVTRが始ま

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【1話完結小説】僕たちは龍だった

「ほら、大変でも生きていればさ。辛い思いに耐えて滝を上りきった鯉は龍になれる…っていうしさ。今辛い分、きっと人の痛みがわかる立派な人になれるよ。」

 放課後の職員室。いじめに耐えかねて相談に来た竜太に、僕は何と声をかけていいかわからず、中国の故事と絡めてそれっぽい言葉を口走る。

 覚悟はしていたものの、担任を受け持って初めて直面するいじめ問題。内心動揺していた。

 我ながらその場しのぎの薄っ

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