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小説集

13
短編などはここに集めておきます。ティーザー版の説明もここに書きます
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カエルの目

カエルの目

 その日も実験室にこもって僕は忙しくウシガエルから坐骨神経を摘出していた。
 ウシガエルは単価が安いし、入手しやすいし、なにより坐骨神経が太い上にしぶといので神経学の実験には最適なのだ。
 と、背後のドアが開くと、僕の指導教官が実験室に入ってきた。
「どうかね? 進み具合は?」
「まあまあ、ってところですかねえ」
 マイクロメーターを操作して、顕微鏡下でウシガエルの坐骨神経にガラスで作った電極を突

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[SS]手品師

[SS]手品師

 家に帰ってきたら友人が待っていた。
 彼は手品師だ。鍵開けも得意なのでそれできっと忍びこんだのだろう。
 しかも彼は彼女を連れていた。
 勝手にコーヒーを入れて彼女と楽しそうに話し込んでいる。
 しかし、ひとんちでくつろぐってこいつらどういう神経をしているんだろう?
「おう、おかえり」
 雄介は椅子に座ったまま、俺に片手をあげた。
「はじめまして。睦美と申します」
 雄介の彼女が頭を下げる。
 

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【SS】天国の向こう側

【SS】天国の向こう側

「人は死んだらどこにいくのか?」
これは僕の長年の疑問だった。
「いずれわかる」
 と亡くなったじいちゃんは僕に言ったが、死んだ後でじいちゃんは僕に教えてはくれなかった。
 
 死んだらどうなるか? これは教えてくれる人は一人もいない。

 どうせすることもないし、一つ死んでみるか。

 そこで僕は死んでみることにした。
 どうせ死ぬなら痛くない方がいい。
 いろいろ考えたが、確実性を優先して飛び

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【掌編】小さな黒服のおじさんのお話

【掌編】小さな黒服のおじさんのお話

 叔母が倒れたという電話を受けたのはその日の午後だった。
 なんでもクモ膜下出血らしくて、生死が危ういらしい。
 僕は慌てて事情を課長に説明すると会社を早退してタクシーでその病院に向かった。

 病室にはもう何人か親戚が集まり始めていて、みんな沈痛な顔で穏やかに昏睡している叔母の顔を見下ろしている。

 結局、叔母はその後三日間昏睡し、その後奇跡的に意識を回復した。
 叔母が退院して、じゃあ快気祝

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【掌編】アシスタント

【掌編】アシスタント

 詳細は省くが妻に逃げられた。
 とにかくある朝ダイニングに行くと「出て行きます」というメモと押印済の離婚届が置かれていたと、まあそういうことだ。

 気がつけば確かに妻の持ち物はすべてなくなっていた。
「まあ、仕方がない」
 僕は誰にともなく呟くと、仕事部屋に戻って今日の執筆を始めた。
 僕は小説家だ。著作もある。ヒット作は特にないが、数が多いのでそれなりに生活は送れている。
 元々ほとんど交渉

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猫の大冒険

猫の大冒険

 ぼくルーちゃん。こねこのルーちゃん。
 ぼくね知ってる。なんでも知ってる。

 みんなはこねこだっていうけれど、ぼくね、なんでも知ってるの。
 だってぼくもう大人だもん。
 ぼくは近くの公園で生まれたの。兄妹三人で遊んでいたら、なんだか人間に捕まっちゃった。
 でも大丈夫、優しい人に貰われたよ。

 あのね、カサカサ。あの袋。
 ぼくね知ってる、あれの中。中には美味しいものが入っているの。
 だ

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