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60億分の1の正義

column vol.71

昨夜はTBSドラマ『半沢直樹』の最終回に胸が熱くなりました。内容が勧善懲悪スタイルなので、とても見やすく感情移入してしまいます。

ちなみに日本人は特にこの勧善懲悪スタイルを好む傾向があるそうです。『水戸黄門』がまさにそうですね。しかし、一方で我が妻はこの勧善懲悪で物事が進むことに若干違和感を感じるタイプ。物語を一緒に観ていても毎回夫婦の間に温度差がありました。

そんな妻から20年ぐらい前に言われた強烈なひと言がありました。

「曲がったことが大嫌い」という人は…

20代の頃の私は「曲がったことが大嫌い」が口癖でした。一方、妻(当時は彼女)は、私がこの言葉を言うたびにしら〜という空気になっていました。

ついには見過ごせなくなったのか、私がいつものように言うと「なんで、そんなに自分の正義に自信があるの?」と言い放ちました。

思わず黙ってしまうと、畳み掛けるように「大抵、『曲がったことが大嫌い』って言う人って自己チューなんだよなぁ」とトドメを刺されました。

思えば、この頃までの自分は学生時代も、社会人になってからも、いつも衝突してばかりで、周りの人たちと良い信頼関係が築けていなかったと思います。正義を振りかざす私を、面倒臭いヤツと見ていたことでしょう。

ぶつかったら、まずすること

そんな中、創業メンバーであり私が師と仰ぐHさんが、とあるできごとで仲間とぶつかった私を飲み屋に連れ出し、相手との関係を修復しろと諌めます。自分からはイヤだと反発する私に、Hさんはニヤリと笑みを浮かべ「相手に確実に謝らせる方法を教えてやろっか」と言い放ちます。

もちろんお願いしたいと答えると、「お前が先に謝るんだよ」と意外な言葉を返してきました。

こちらは「イヤですよ。どう考えてもこっちの意見の方が正しいじゃないですか?」とさらに反発すると、「だからだよ。正論を言うお前が謝れば、向こうは謝るしかないんだから」とHさん。それでもシブる私にHさんは「お前、プロジェクトを良くしたいの?それともケンカに勝ちたいの?どっちなんだよ?」と畳み掛けます。

このひと言でぐうの音も出なくなりました。するとHさんは「相手はお前の正論に追い込まれて、引くに引けなくなってんだよ。だから、お前から言い過ぎたと謝れ」とトドメを刺します。

つまりは、私の正義はいつの間にか「相手に勝つこと」になっていたのです。反省した私は次の日、自分から和解。プロジェクトは無事進行し、着地することができました。

謝る理由が無い場合は、何て言う?

30代になると「曲がったことが大嫌い」を「自分の正義は60億分の1の正義」と変換して、徐々に相手の気持ちに寄り添えるようになった私。しかし、つい半年前、また目から鱗事件が起こりました。

昨年度の下期評価の際、自己評価シートの自由記入欄に同じ副社長を務めるI先輩と私をボロクソに批判する文章を書き込んできた社員がいたのです。

そして、この評価制度についてありえないと。他のことは置いておいて、その時はなぜ評価制度を批判するのか意味が分かりませんでした。なぜなら、この評価制度はその社員が考えたからです。

正確に言うと、彼女がいたプロジェクトが考えました。というのも、旧体制の時の評価制度は社員から評判が悪く、新体制になって一番最初に評価制度の改善に取り組んだのですが、その際、意見のある彼女にも参加をお願い。

彼女は了承し、プロジェクトは彼女のアイデアをベースに話が進んでいきました。実際、彼女は優秀な人であり、できた評価制度に社員みんなは納得。なのに、です…(驚)。

しかも、相当キツイ表現で批判していただけに、他の幹部メンバーからも「フィードバック面談の時、2人から言った方が良い」という意見が溢れ、これは言わなアカンなと私も思いました。

ただ、何か引っかかるものがあったので、I先輩と2人になった時に「何て切り出しましょうかね」と話を振ると、I先輩は躊躇なく「まずは、ありがとうじゃない」と答えました。

えっ!ありがとう?と思っていると、I先輩は「だってさ、まずこれだけ言うってことはさ、それだけ会社のことが好きだからじゃない。嫌いだったら黙って辞めていくだろうし。多分、評価制度というより、ちゃんと自分のことを見てくれていないという不満なんじゃなかな」とI先輩は予想します。

つまり、彼女が批判したのは、制度ではなく、我々の心構えということです。確かに、仕組みばかりに目を向け、彼女たちの日々の行動や心に目がちゃんと届いていなかったというのは図星です。

実際、彼女はちょっとばかりキツイ性格ですが、本当に会社のことを考え、成果を出してくれています。そこで、まずは「意見を言ってくれてありがとう」から始めることにしました。そして、自分たちの反省と、日々がんばる彼女への感謝を伝えました。

すると彼女は「私も別にケンカを売るつもりはなかったんですけど…」と自分の行き過ぎた批判を撤回し、和解することができました。

今期に入るとますます彼女は活躍するようになり、何よりも今まで以上に後輩社員をサポートしてくれています。

今回もI先輩に敵わないなぁと思いつつ、相手の立場に立って物事を考えられていなかった自分を反省しました。まだまだ未熟ですね、精進します。

ちなみにですが、『半沢直樹』最終回の最後のシーンで、半沢直樹の独りよがりにもなりそうな結論への指摘があったことで、妻はこの作品の素晴らしさに納得したようです。とりあえず、最終回で夫婦の温度が揃ったので安心しました(笑)。

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