見出し画像

急進するサステナビリティ社会

column vol.554

先日、フランスで誕生した世界初の「衣服廃棄禁止令」について触れた記事を書きましたが、循環社会への熱は他の国でも高まっていると感じます。

ニューヨーク州のサステナビリティに関する法案「ファッション・サステナビリティ&ソーシャル・アカウンタビリティ・アクト」の内容がなかなか凄いのです。

アパレル業界話題のサステナ法案

これは、ファッション業界のサステナビリティを推進する団体「アクト・オン・ファッション」とデザイナーのステラ・マッカートニーさん、同州のアレッサンドラ・ビアッジ上院議員とアナ・ケルズ下院議員らで提出したサステナ法案。

〈WWD JAPAN / 2022年1月28日〉

同法案は、世界的なファッション都市を抱えるニューヨーク州に、環境汚染および社会的不公正・搾取についての責任を取らせることを求めています。

また、ニューヨークでビジネスをするアパレル・フットウエア企業年間1億ドル(約114億円)以上の売り上げを計上する場合は「サプライチェーンの詳細環境・社会への負荷を公表し、それを削減するための目標を掲げること」としています。

ちなみに、環境負荷の計算は、パリ協定GHGプロトコル基準に準じています。

原料・素材の詳細に加え、従業員の賃金も公表。

これらのことに準じない企業は売上高の2%を罰金として課し、環境問題で犠牲になっているニューヨークのコミュニティ向けのプロジェクトに充てるそうです。

業界筋によると同法案が通る可能性は極めて低いそうですが、業界に大きな影響を与えることには違いないと予想されます。

フランスの「衣服廃棄禁止令」に呼応し、在庫の焼却処分をゼロにする方針を示した日本のアダストリアなど、こういった法案提出というアクションを通じて、循環への取り組みを意識する企業は増えるでしょう。

この熱は、今後ますます高まっていくはずです。

「情報の移動」による環境保護

続いてモビリティに関する事例です。

ヨーロッパでは自動車への規制が非常に強まっており、例えば、スペインバルセロナでは、歩行者と自転車専用の特別区間を設ける「スーパーブロック・プロジェクト」を実施。

さらに、車を手放した人公共交通機関を3年間無料で使える政策が導入されるなど、脱クルマが推進されています。

そんな中、「情報の移動」という新しい環境保全概念が広がっています。

〈AMP / 2022年1月28日〉

注目されているのが、スペインの建築スタジオ「Arquimaña」で発案された木製の自転車「OpenBike」です。

より多くの人に自転車を使ってほしいという想いから、マニュファクチャリング・ファイル組立マニュアル無料で提供。

OpenBikeのパーツは、工作機械であるCNCミリングマシンおよび3Dプリンターで作ることができます。

Arquimañaは、こういった機械を使える地元の工房を利用することを勧めており、地域経済の活性化につなげようとしています。

つまり、モノではなく情報を移動させている。

自転車を輸送すれば、輸送に伴うCO2が発生しますが、自転車の作り方を教える情報を共有すれば、遠くまで自転車を輸送する必要がなくなるからです。

自転車を作るのに必要な木材も地元で必要な分だけ調達する。

地元の林業の活性化にも繋がり、地産地消を推進するプロジェクトにもなるのです。

同スタジオによると、自動車を1台生産するのに必要なエネルギー量は、自転車を100台作りメンテナンスするエネルギー量と同じくらいだとのことです。

こういった情報も移動(流通)させることで、モビリティの地産地消化は進んでいくでしょう。

これからの時代は「ワンヘルス」で考える

最後は、パンデミックを通じて改めて大切だとフューチャーされている考え方を紹介して話を締め括りたいと思います。

キーワードは「ワンヘルス」です。

〈AMP / 2022年1月20日〉

ワンヘルスとは生態系の健康、そして家畜や野生動物の健康を守ることが人の健康を守ることに繋がるという観点から、三つの健康を一つと捉える概念

2004年にニューヨークで「One World、One Health」と題して開かれた会議を端緒とし、その実現を掲げて2010年にはWHO(世界保健機関)とFAO(国連食糧農業機関)、OIE(国際獣疫事務局)が連携。

2020年にはUNEP(国連環境計画)も加わり、注目度が上がっています。

今回のコロナや、SARSエボラ出血熱など、野生動物から家畜に感染する動物由来感染症は、自然破壊と深い関わりを持っています。

それは、次のような「段階」によって生じ、拡散していると考えられています。

(1)大規模な開発によって、森林などの自然が広く消失
(2)それまで人が立ち入らなかった自然の奥地にまで人が侵入
(3)人や家畜が感染症の病原体を持つ野生動物と接触 
    ★新たな動物由来感染症が発生!
(4)感染した人や家畜、密猟された野生動物別の場所に移動・移送
(5)移動した先で、新たな感染を広げ、ウイルスも変異 
         ★パンデミックなどの発生!
(6)世界の森林破壊が止まらないため、上記の繰り返しが生じる
(7)気候変動(地球温暖化)の影響も加わり、社会的な被害が拡大

〈WWF JAPAN / 2021年1月21〉

日本でも広がる「ワンヘルス」

日本でも2021年1月、WWFジャパン国際自然保護連合日本委員会日本獣医師会など11団体とともに感染症の予防的アプローチとしてワンヘルスに取り組む「人と動物、生態系の健康はひとつ〜ワンヘルス共同宣言」を策定。

この宣言では、近年、増加傾向にあるコロナウイルスを含む新興感染症の約7割「人と動物の共通感染症」であり、原因の一端には、「人が自然環境に及ぼしてきた負の影響、地球規模の異常気象や大規模な森林破壊、土地利用の転換や農業・畜産業の拡大、さらに野生動物の商取引・消費といった問題がある」と定義しています。

また、福岡では2021年1月、全国初となる「福岡県ワンヘルス推進基本条例」を施行。

市町村医師獣医師医療関係団体が連携し、薬剤耐性菌対策や人と動物との共生社会づくりなどワンヘルスを実践していくための基本方針に沿った取り組みがなされています。

まだまだ日本では認知度が低いワンヘルスですが、今後はSDGsのように市民権を持つキーワードとして押さえておきたいところです。

ということで、サステナブル社会はますます急進していると感じますし、注目すべきテーマですね。

今後もちょくちょく新しいトピックスをお届けしたいと思っております。

引き続き何卒よろしくお願いいたします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?