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「分からない」を愛そう

column vol.1125

人気歌手のテイラー・スウィフトさん不適切な偽画像がX(旧ツイッター)で拡散するという、良からぬ事態が起こりました…

〈読売新聞 / 2024年1月30日〉

そこでXは29日までにスウィフトさんの名前で投稿を検索できないように対応。

改めて生成AIによる怖さを目にしたわけです…

フェイク情報が大量に生み出される今、どのように情報と向き合うかが問われています……

…大変難しい話ではありますが、その解決への糸口を提示してくださる賢者の方々もいらっしゃいます。


「分からない」を重視する

最近、非常に感銘を受けたのが、明治学院大学名誉教授で文化人類学者の辻信一さん

今こそ「分からない」に時間をかけてつき合う力が必要だ

というお言葉。

膨大な情報が波のように押し寄せ、真実が見えづらい世の中だからこそ、すぐに解決(分かること)を求めない姿勢が大切であると説いていらっしゃいます。

〈毎日新聞 / 2024年1月12日〉

現在ますますタイパ(タイム・パフォーマンス)が求められており、知りたいことは様々なツールを使って簡単にアクセスすることができます。

検索窓に疑問を打ち込めば、「答え」や解決策は瞬時に見つかる。

毎日新聞

だからこそ、辻さんは「ネガティブケイパビリティー」こそがフェイクに騙されないための予防線になると仰っています。

ネガティブケイパビリティーとは、事実や理由を性急に求めず、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいられる能力

この言葉を日本に紹介した精神科医で作家の帚木蓬生さんはこれを「答えの出ない事態に耐える能力」と定義しました。

考え方についても、SNSの発達により、似たような思考を持つ人が集って共鳴する「エコーチェンバー」や自分好みの情報に囲まれる「フィルターバブル」というリスクが高まっています。

辻さんは、そうした状況において、このようなアドバイスをくださっています。

僕たちは違うものと一緒にいることが、あまりにも下手になってしまっています。ただ、「陰謀論か科学か」といった二者択一に陥るのも危険です。科学者はもちろん、注意深く答えを出してはいるでしょう。でも、グレーゾーンやあいまいさを排除してしまう効率主義や科学の絶対化といった危うさにも注意する必要があります。

毎日新聞

本当に小さなステップで良いので、「分かりやすい場所」から、外に一歩でも踏み出してみる

つまり、自分の信じているものをしっかりと吟味することが大切だということですね。

吟味された情報を吟味しながら咀嚼する

そうした考え方は、以前ご紹介した「スロージャーナリズム」にも通ずるところがあります。

オンラインマガジン「IDEAS FOR GOOD」ではスロージャーナリズムを以下のように定義しています。

スロージャーナリズムは、情報が社会にとって価値のあるものかどうかを吟味し、時間をかけてニュースを掘り下げ、報道するスタイルのジャーナリズムのこと。
「とにかく早い」「センセーショナルな情報を流す」近年のマスメディアの報道スタイルに対し、時間をかけてでも「正確」で「読者(視聴者)に本当に求められている情報を流す」ことが特徴的だ。

ライフハッカー

フリーライターの重田信さんは、何でも無料で情報が手に入りやすくなった時代こそ、「クーリエ・ジャポン」「フォーサイト」など、よく情報を吟味された有料メディアの価値が高まっていると指摘されています。

〈lifehacker / 2023年3月29日〉

例えば、2023年1月に、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン元首相が辞任を表明したニュースは、BBCでは以下のように報道。

ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相(42)は19日、2月7日までに辞任すると表明した。国を率いるために必要な「余力が底をついた」としている。

BBC NEWS JAPAN

一方で、その約2ヵ月後である2023年3月20日の「クーリエ・ジャポン」では、アーダーン首相の辞任について、より深く考察された「ファイナンシャル・タイムズ」の記事が掲載されていました。

全てを手に入れたから「勝ち組」という発想はもう古い!女性は仕事も家庭も「全てを手に入れる」ことが成功なのか?

クーリエ・ジャポン

1月時点では、「世界的に注目を浴びた女性首相の辞任」という事実が伝えられましたが、2ヵ月の時間を経て、アーダーン首相辞任の背景にあった今までの女性のキャリアの在り方や、男女関係なく「成功」の定義を再考することを促す、より深みのある記事が生み出されていたというわけです。

そうした深く考察されたことを、改めて私たち受け手側が考えを巡らせていく。

もしかしたら、答えがすぐには出ないかもしれません。

ただ、先ほどの辻さんが仰ったように

今こそ「分からない」に時間をかけてつき合う力が必要だ

ということなのでしょう。

AI時代に「読書」が良いワケ

辻さんや重田さんの話を受けて、分からないことを吟味して考えていく習慣を養う上で、情報収集の仕方として有効的な手段の1つが「読書」です。

速読など、特別な読み方は置いておいて、どんどん話が進んでいく動画と違って、読書は自分のペースで読んでいく

自分のペースとは理解のペースとも言えます。

分からないことがあれば、調べ、時に疑ったり、自分なりに解釈してみたり、吟味することができるわけです。

また、人工知能研究者の黒川伊保子さんが、子育てに小説が良いと仰っているのですが、映画(動画)との違いをこのように指摘されています。

動画やゲームは、読書の代替にはならない。読書の方が、よりリアルに「自分ごと」として脳に刻印されるので、学習効果が高いからだ。
読書には「主人公の顔」がない。つまり、主人公に感情移入しやすいのである。映画の『ハリー・ポッター』を観たときは、一人の少年の物語を傍観することになる。役者に顔があり声があるので、「自分ではない存在」の体験を傍観することになる。

現代ビジネス

【子どもの脳を育てるのに「読書」が効く! ファンタジー体験がいい脳を作る】

〈現代ビジネス / 2024年1月15日〉

【人工知能研究者が「読書が子どもを世の中の理不尽から守ってくれる」と断言するワケ】

〈現代ビジネス / 2024年1月15日〉

思考を巡らし、自分の体験として、より豊かな経験値にしていきやすいというわけです。

また、実写化する際に、それぞれの読者が頭の中でつくり上げた世界が多様であることに気づきます。

以前、村上春樹さん『ノルウェイの森』が映画化された時も、小説を読んでいる人たちの間で、様々な意見が生まれ、想像の多様性を感じたものでした。

いずれにせよ、答えを急がず、決めつけず、吟味できる思考習慣がカギを握りそうです。

今までは知識(答え)をたくさん持っている人が「教養がある人」と定義されていましたが

これからは「分からないことに向き合える人」「分からないことを探せる人」が、教養人としてもてはやされそうです😊

まさに「哲学」の時代ですね。

本日も最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます!

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