見出し画像

“両目”マーケティング

column vol.1256

マーケティングの仕事を始めて25年くらいなのですが、改めて奥深く、難しいもの…と感じています…

だからこそ、マーケティング理論に立ち返ったり、データ分析などをしっかり行うことが大切なのですが

セオリー通りに人間が行動するわけでもないですし、データはあくまでも過去のもの

盲目的にそれを信じると、逆に見えなくなることもあります。

そんな中、マーケティングに対する視野を広げてくださるのが、本田技研工業(ホンダ)の創業者・本田宗一郎さんの次のお言葉です。

「僕は、市場調査を、過去の足跡をたしかめること、自分の意見を大勢の社員に納得させる場合の手段として使うこと以外には考えていない」

〈PRESIDENT Online / 2024年6月26日〉

マーケターとしてはトホホ…な話ではあるのですが、こうした意見から見えてくるヒントもあります。


人を見る、人を知る

では、本田宗一郎さんは、何を頼りにしていたのでしょうか?

『人生で大切なことは泥酔に学んだ』の著者で、ライターの栗下直也さんは、本田さんは「遊び」の中にビジネスの種を見出していたと分析されております。

本田さんといえば、「良品に国境無し」と語り、「技術のホンダ」の礎を築いた方。

真面目なイメージが先行していますが、実は若い頃は芸者遊びに興じ晩年は頻繁に酒場に通ったとのこと。

栗下さんは、そんな本田さんの哲学をこのように解説しています。

「データとにらめっこしているのではなく、遊ぶことが人間を知ることになり、まわりまわって商売にもなる。そのためには、自分を型にはめず、行動する」。

本田さんは、宴席で芸者さんそっちのけで仕事の話をしていた部下を翌日呼び出し、「芸者の話は仕事の話より大事だろ」と雷をおとしたこともあるそうです。

どんな時でも相手に寄り添い、耳を傾ける

「花柳界に出入りしていると、人の気持ちの裏街道もわかってくるし、いわゆるほれた、はれたの真ん中だから、人情の機微というものも知ることができる。私がただまじめ一方の技術屋とはいささか違うところを持っているとすれば、こんなところに元があるといえそうだ」

という本田さんの言葉からも、「人を深く知ることが、人の心をとらえた商売につながる」というお考えが窺えますね。

ホンダのオートバイの成功も、当時の一般的な見立てとは違う見方をされています。

戦後、「これからは自動車の時代」と誰もが思った時代。

しかし、目の前に広がる世界は、バスや電車は常に混雑し、ガソリン不足から自動車の運転もままならず自転車が移動手段になっていた。

主婦たちが買い出しに使うには当時の自転車はペダルが重かったことも踏まえて、本田さんはバイクが重宝がられると読んだのです。

社会いち生活者として素直に見つめる

これこそが、マーケターとして大切にしたい視点だと思うのです。

物事を2つの目で見る

この本田宗一郎さんの遊びに対する考えに触れ、当社の先代社長の教えを思い出します。

「物事は2つの目で見なさい」

片方の目はプロの目で。

もう片方の目は自分の目で。

つまり、対象をマーケターとして分析することも大切ですが、一方で一人の生活者として見るということです。

客観主観両方大事にする。

両目マーケティングです。

プロの目マーケターとして分析する目

客観性を伴っています。

でも、意外と客観性には落とし穴がある。

その穴を埋めるのが自分の目、つまり主観です。

私の好きな話として、永谷園「おとなのふりかけ」の話があります。

1989年、永谷園の担当者はあるデータを見ます。

ふりかけはほぼ100%、11歳までの子どもに食べられている。

12歳から急激に需要が減少していたのです。

つまり、データはふりかけ「子どもの食べ物」ということを証明しています。

しかし、その担当者は逆に「12歳以上の人」新しい鉱脈だと見たのです。

そこで挑戦したのが「大人でも満足するふりかけ」

これがふりかけユーザーの年齢層を広げることになります。

私は子どもの頃からふりかけが大好きだから感じるのですが、12歳以上(特に中学生)になると、途端にふりかけが遠退いたのは、口に合わなくなるわけではなく、社会通念が原因だったと思うのです。

中学生にもなって、子どもが好きなふりかけを食べるなんてカッコ悪い

昔、姪っ子幼稚園を卒園するぐらいの時、

「私、アンパンマン卒業したんだ」

と私に報告してきたのですが、きっと彼女が本当に言いたかったこと

「私、お姉さんになったんだよ」

ということだったんじゃないかなと思っています。

アンパンマン卒業=お姉さんへの第一歩

同じく「ふりかけ卒業=大人への第一歩」ということを無意識に子どもは察知し、いつの間にか食べなくなる

でも、ふりかけって、大人になっても美味しいよね?

という素直な目が、おとなのふりかけのヒットにつながっていったのでしょう😊

主観と客観をつなぐ

「これって自分だけ?」と思うことも、結構共感する人は多い

意外と主観が世の隠れた大勢だったりするというのは、おとなのふりかけの話からもよく分かります。

でも、マーケティングの現場では結構「主観を捨てて、客観的に見ろ」と言われることが多い。

結果、主観を捨てたことで、見えなくなっていることもいっぱいある。

主観と客観を上手につなぎ成功した他の事例としてファミリーマートのマーケティングがあります。

ファミマといえば、

40%増量
生コッペパン
ファミリーにゃ~ト(猫の日キャンペーン)
●1個買うと、1個もらえる
●Tシャツや靴下を含む幅広いラインナップのプライベートブランド「コンビニエンスウェア」
●コンビニ業界初のファッションショー「ファミフェス」

などなど、次々に世間が注目する施策を展開し、既存店日商(2024年6月)は34ヵ月連続で前年比超えを実現。

CMOの足立光さんはその快進撃を支える凄腕マーケターですが、まず最初にやった仕事というのが

ファミリーマートはどのような会社なのか

ということの明文化だったのですが、まさに両目マーケティングを感じる話なのです。

明文化する上で、社内各部署意見を持ち寄り、足立さんが集約

このプロセスについて、足立さんは

「この時、既存メンバーが中心となって明文化を進めたことで、みんなの腹に落ちる内容になったと思います」

と仰る通り、社員一人一人にとってファミマの解像度が上がっている

自分の心を掘り下げ、意見を持ち寄り、共通性を整理したからこそ、皆がブレない「ファミマらしさ」を掲げることができたわけです。

軸と方向性を守れば、自由にアイデアを出してもファミマらしさはブレない。

だからこそ、「こういうこと、できたらいいな」と思ったことはどんどんやれる。

自分のやりたいことと、顧客の求める接点を見出し、ヒットを量産しているのです。

〜ということで、客観性の落とし穴にハマったら、ちょっと主観のドアをノックしてみる。

「2つの目で見る」ことを試していただけると嬉しいです😊

本日も最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?